「ミケの勇往邁進 その②」

 ミケ、ミコ、アガサの三人は今、カナからの救難のメールを受け敵組織クオーレの基地に来ているのであった。


ミコ「このメールの発信元はここの地下だ。みんな地下に行くぞ!!」


 まるで地下鉄のような、パイプむき出しの無骨な地下迷宮を、敵の手をかいくぐりながら進みいく三人。

 もはやアラートは止まらない。こんな派手な侵入のおかげで、もはやバレるバレないの問題では無い。


マフィア兵「居たぞ!!」


 マフィア兵共がやってくる──────

 マフィア兵の装備はアサルトライフルに軍用の防刃防弾のベスト。もちろん魔術的な強化は欠かしていない。

 もはやその力は一人で自衛隊の小隊を相手できるレベルである。

 そのような兵力がここに十数。

 一般人に太刀打ちできるほどではない超人達。しかし……

 ミケ、アガサの二人は虫でも蹴散らすような簡単な所作で、その群集を一網打尽にした。

 ミコの出る幕は、もはやない。


 このように銃弾と魔術の飛び交う戦場と化けたこの地下迷宮。地の利は向こう側にあるというのに、こちらはまだ血を見ていないのが現状。

 それほどまでにこの2人は怪物じみていた。


━━━━━━━━━━━━━━


 姫乃カナは首を撥ねられた。

 そのはずだったが、その首は今も尚繋がっている。

 否、元々切断されてなどいなかったのだ。

 切断されたのは、恐らく──────


カナ「が────は」


 喉から息を吹く。

 その目は、最早光明は掴めなかった。

 彼の首を斬ったのは心の刃。故に心を先に断つ剣。

 物質ではなく心を断つ。故に、防御力は意味を成さない。


 心を断つということは、すなわち精神を破壊するということ。

 その刃に触れた精神は、木端微塵砕け散る。


カナ「あ────」


 支えを失った体は、倒れる。



──────思えば、全く散々な人生であった。

 彼奴……ミケにあったのは、今からもう13年前。俺の親と近所だったこともあって、それなりに交流もあったし、俺とミケと、そのお姉さんもまあ、そこそこ仲が良かった。


ミケ「私達、ずっと一緒かな」

カナ「うん」

ミケ「じゃあ、約束ね」


 あの時俺はああ言って、ミケが勝手に約束を取り付けた。

 でもどうせ、ああでもしなきゃフラフラと、どこかへ行ってしまう男だ。ミケもそう感じていたからこそ、ずっと一緒とかいう子供じみた約束を取り付けたに違いなかった。


 快活な彼女が、珍しく泣いていた。

 あれは、なんだっけ。

 確か、ミケのお母さんが死んだ時だった。

 まだ、12歳の頃。

 今から三年前。

 交通事故死。ドラマとかでよくある、普遍的に蔓延る死。しかしそれは、ありふれているが故に、あるわけがないだろうと思っていた。


 彼女は落ち着いてもまだ、悲哀を誘うような滴を瞳から垂らして、泣いている。


ミケ「ずっと一緒なんて、ないのかな」

カナ「……」

ミケ「カナも、いつか何処かへ行ってしまうの」


 俺は黙って頷いた。

 ミケは俯いて、ただ一言──────


ミケ「最低」


 でもなミケ。現実はいつも不意に、しかし普遍的にやってくるんだ。

 悪いことは理想で無かったことにできない。

 起こったことは起こったことで、もはやどうにもならない。


 そんなことが出来たら、神様もこの世に存在するのだろう。


──────そうか、お前はそうなりたかったのか?



 自我が壊れる寸前、そんな走馬灯を見た。

 一番辛い、思い出。

 約束を破った思い出。

 そんな腐った蜜柑のような思い出が、再び俺の体に火を灯す。

 ブリキのようになった体に血が通う。


 後一歩、踏み出せれば、それで終わる──────!


クルス「嘘……!?」


 クルスが驚愕する。

 それもそうだ。これまで、絶対に覆ったことの無い事実が、今の一瞬で、全て覆ったのだ。

 彼女の剣は理想を具現化した剣。故に、その理想は現実のものとなる。

 が、それさえもカナの芯に至らなかった。

 カナを倒すのだったら、『絶対に命中する爆弾』でも具現化してれば良かったのだ。そうすれば、カナは物質的に殺せた。


 カナは精神という曖昧なものへの攻撃だからこそ、精神力を強く保っていた彼は、その芯を防御しきることが出来たのだ。


 しかし、ほとんどは壊された身。たった一歩の力しかない。


 その一歩に、全てを賭ける。


イブキ「わ、あ──────」


 足の裏にかけた膨大な衝撃波は、カナ自身を吹っ飛ばす。

 一つの弾丸となった彼に、もはや止める手段はなかった。


 そのまま向こうの門へ、一直線。

 そして、衝突。瓦礫と埃を舞いあげて、カナとイブキは煙のように消えてしまった。


クルス「みたかい、今の」

中性的な少年「え?」


 クルスがその背中を追うように、門の向こうを見つめながら、


クルス「やっぱり彼は、素晴らしいな……」


 笑っていた。

 

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