「カナの潜入工作」
カナ「まあまあピッタリかな…少し重いが」
イブキ「こういう時胸が平らで良かったって思うよ、ほんと」
灰色のコンクリート張りで、目の上下にパイプが通る、『通れれば良い』を突き詰めたような、まるで廃れた地下鉄な無骨さの、廊下。
俺達は今、敵…『クオーレ』の本拠地にいるのだ。丁寧に、その敵の変装までして…
目的は一つ。
この地にいるであろう『阿笠亜蓮の母親』の奪還である。
──────正直に言おう。俺はそこまで乗り気じゃない。阿笠の事は少し、いや大分、俺の手の届く範疇から抜けでていると思うのだ。学級やら、何処ぞのヤンキー共やら暴走族やらを相手にするならともかく、相手はマフィアやギャングの犯罪組織の類。
こういうのは、そういう専門家に任せたい所なのだ。本当に正直に言って。
しかし、だ。
つまり俺にも、引くに引けない理由がある、ということなのだ。
ミケ……あいつと似通った所があるのかもしれない。
そう思うと、少し寒気がした。
重い隊服が身に染みる。
カナ「しかし、彼女の場所がどこなのかって話だな」
ここからが潜入の本番だ。この先のルートを、俺達は知らない。知らなくてはならない。
母親の居所を、なんとしてでも見つけ出さなくてはならない。
イブキ「じゃあ聞いてみればいいよ」
カナ「聞くって……?」
イブキ「まあ見てな」
そう言うとイブキは、何も言わずに廊下をズカズカと歩いていくのだ。
俺にとってはなんの事やら、わかったものでは無い。
──────もしや、尋問するつもりではないのか。聞くというのは、そういうことか?
……すると、イブキは一人の男……兵士(おそらく巡回兵)を見つけると、何かを耳打ちし、男子トイレへと連れていった。
もちろん、俺もそこへ入り込む。
兵士「で、なんだ、話って─────!?」
(兵士の言語はもちろんイタリア語。しかしカナもイブキもイタリア語を理解できるためわざわざそのように書く必要性は無い)
ガタッと、トイレの壁が揺れる音がする。中でまるで囚われの獣が暴れるようだ。
覗いてみると、イブキは彼の背後に回り、銀色に光る刃物を首元に突き立てている。
イブキ「カナ君は誰か来ないか見張ってて。これから、いくつか質問をするよ」
兵士「おまえ、なにも……」
兵士が焦りをみせ、暴れると、彼女のナイフが肉に食い込む。兵士の首から一筋の血。
必要ないことは喋るな。
そういうことだ。
兵士「……」
イブキ「質問一。『阿笠ミレイを知っているか?』」
阿笠ミレイ。文脈的に、アガサの母親だろう。
イブキは初っ端から核心に切り込んできたのだ。
兵士「……『知っている。』」
イブキ「『何処にいる?』」
兵士「『地下の最下層。その最奥だ』」
……少し黙って、イブキは一息つく。
イブキ「……わかった。もう用済み」
兵士「……は?ちょっと待て──────」
イブキの手のひらが青く光る。まるでスタンガンのような火花を打つと、もがいていた兵士は昏倒した。
イブキ「よし。じゃ最下層に行こうか」
カナ「……今の兵士、本当のことを話してたんだよな?」
イブキ「うん。でも後で面倒なことになりそうだし、眠ってもらっただけ」
……可哀想な兵士だ。もはや何も言うまい。というか何も言えない。
ともあれ行き先は決まった。無駄な足踏みをする必要は無くなった。
カナ「……ありがとう。伊吹さん」
今までを思い返してみると、やはり俺は何もやっていない気がした。少しだけ、飛行機を動かした位で……あとは何も。
情けなさと共に、感謝を感じた。
だからせめて、礼くらいはとおもって。
イブキ「やめてよも〜。まーだ何も、終わっちゃいないんだから」
イブキはそんな俺の気持ちを軽くあしらいながら、トイレを先に出てしまう。
でもそうだった。俺の……俺達の目的はまだ達せられていない。
なら、その時にまた……
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ミケはまた、日野ミコの家にいました。
とりあえずの拠点に戻ることにしたのです。
拠点とはいっても、ただテントの貼ってあるだけで、あとはアガサにメタメタにされた『家屋だったもの』が転がってるのみですが。
その土地に三人。
上記の通り仁王立ちのミケと……その見下ろした視線の先に、正座させられている日野ミコ、そしてふん縛られた状態で同じく正座させられている河坂夏尋。
河坂夏尋。ミケがカナの見送りに、空港に赴いた際に出くわした第三の敵。
彼女は空港内に能力を使ってカビをまき散らし、面倒なことを起こしていました。要は悪いヤツなのです。
しかし、なにやら、彼女はそこの、日野ミコと接点がある様子。
もしかしたら、河坂は『クオーレ』ではなく、また別の所属なのかもしれません。
第三の敵ではあるが、第三のクオーレからの敵ではなかったということ。
ミケ「……むむむ」
ミケによる、尋問が始まろうとしていました。
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