「ミケと群雄割拠 ①」

ぐんゆうかっきょ【群雄割拠】

 数多くの英雄がそれぞれの拠点に地盤を置き、勢力を奮って対立すること。


 私は少し空港回ってから帰るから。


 イタリアに発つカナを見送った後、ミコにLINEでそう伝え、白い構内を気分を変えるべくぶらり歩いていました。

 ミケは、どこか上の空。自分がイタリアに行けなかったのが、少し悔しかったのか。それとも…

 空港内の第二ターミナル3階。数々の飲食店や、コンビニ等のショップが立ち並ぶ、まるでショッピングモールや駅構内のキッチンストリートのような、そんな風景。

 昼間なので当然と言われれば当然ですが、人が多いのなんの。

 特に用があるわけではありません。少し、気になったから…その程度の動機です。


「そーんれにしても、広いなぁ〜」


 空港は学校みたいに棟が多くて、広くて困ります。正直迷ってしまいました。

 まあ適当にぶらついてるだけなので、いずれは帰ってくると思いますが。

──────ついでだし、どこかついでに寄っていくかな…


 そんなふうに思っていた矢先に、バイブの振動が。ミコから電話がかかったようです。


 「あ、もし──────」

 もしもしと言う前に。


「「何を考えているんだ君は!!!」」


 怒号が鼓膜を大きく揺らしました。

 頭がキリキリとしてそのあとは少しききとりにくい。


「「君は『目立つ』と言ったろ?本来空港に君がいることは好ましくないんだ。分かったら早く…」」


 ミケの目は明らかな異常事態を捉えていました。周囲の人が何やら血を垂らしながら倒れていく。人が一人、二人、四人…と倒れていくうちに周囲はパニック状態に。


「ごめん。また掛け直す。」


 そういう前に、もう電話は切れていました。


━━━━━━━━━━━━━━


 クソ。あのバカ電話切りやがった。

 怒りのボルテージが少しづつ上がっていくのを感じる。こっちはお前のワガママを最大限叶えようとしてやってるってのに…


 再度電話をかける。


「「電波の届かないところにあるか、電源が入っていないため…」」


 …は?




 あ、待て、待て待て。思考を止めるな。

 つまり…なんだ?空港から急に、圏外の場所に移動したのか?空間転移?…いや。

 結界か。魔術的な結界を用い、第2ターミナル内の一部分を、そのまま即席の異空間に仕立てあげた。

 その空間はいわゆる閉鎖的な空間。外からの侵入は不可能。…しかし、内部からの破壊は可能。


 しかしミケはそれを知らない。知ることが出来ない。

 …大戦は、もう始まっている。あの子の呑気さに充てられていた自分が馬鹿らしい。アイツらは、王を詰めに…いや、王そのものを盗りに来たのだ。未熟のうちに。あちら側でいいように育てるために…!


━━━━━━━━━━━━━━


 非常階段もエレベーターも、エスカレーターも使い物になりません。電話も圏外。ここだけなんだか別の世界になったような感じです。

 「…ごほっ、ごほっ…」

 能力の正体は解りました。

 カビです。倒れた死体の口元が黒い何かに覆われていたのを見て、ミケはカビを連想しました。

 目に見えなくて、相手を始末できる。

 このままだと、一人二人のレベルじゃない。みんな死んでしまう。


 「出口が…ない」


『だれか!だれかぁぁ!!』

『ぎゃぁぁあぁ!!』


 刻一刻と時が進むと同時に、人間が1人ずつ倒れていきます。パニック状態は今も続いたまま。

 一体誰が。どこで。それさえ解れば…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る