「クルスとミケの花水木 ③」

 河川敷にて、花火大会当日。

 河川敷には草野球ができるほどの大きい広場があり、地元の花火師が火を打ち上げ、地元の自治体が屋台を開くのでした。

 しかし、待ち合わせ時間はまだ夕方で、今の時間だと屋台しか開いていませんが。


ミケ「んー、胸がやっぱ、ちょっときついな」


 ミケが着てきたのは黒い着物。(少し金髪になりかけてきた)明るい茶髪と合わさって、まるでヤのつく人の妻のようでした。


カナ「?お前……浴衣着て来たのか。」


ミケ「ん、カナ!」


 カナは……なんというか……いつものワイシャツでした。お祭り騒ぎなのにワイシャツ……風情がないこと。


ミケ「オシャレの概念とかないのぉ??」


 心底呆れ見下した顔で鼻で笑うミケ。


カナ「なんで地元の花火大会で洒落た格好で来るんだよ、場違いだわ」

ミケ「はぁ?それ私の事言ってんのか〜?」


 いつも通り衝突し火花を散らすミケとカナ。お互い睨み合い……


アガサ「おいおい、些末なことで喧嘩勃発かよ、日本の火薬庫かお前ら」


 そこに現れたのはアガサとクルスとディノ。三人揃って仲良く……和服!!浴衣!!


カナ「な……!全員浴衣だと!?」


アガサ「あっれぇ〜〜~???なんで君浴衣着てね~のォ~???」


 ムカつくほどにニヤつきながら、驚愕するカナを指でつつくアガサ。

 アガサの浴衣は男性らしい藍色。銀髪で外国人風な彫りの深い顔で、背格好とキリッと冷えた目つきを見れば、誰でも男と勘違いしそうなくらいには雄々しい限りの雄度。


クルス「やめなよお姉ちゃん……カナにとっちゃ地元なんだからさ、私たちほど気合い入ってなかったんだよ」


 彼とアガサの間に入るクルス。

 クルスの浴衣は水色と、すこし中性的な色を選んだような感じがあります。しかし、普段のツインテールを辞めて一つ結びのポニーテールにした彼女の艶やかな立ち姿は、一人の女性として、少女ながら既に完成しているのでした。


カナ「っていうか、あんたも浴衣着るのか」

ミケ「わかる。この人こういうの分からなそう」


ディノ「……クルスが楽しそうだったから……仕方ないでしょう」


 そう言って頬を赤くするディノの浴衣は薔薇のように綺麗な赤色。


ミケ「なかなかに気合が入ってらっしゃる」


ディノ「煩いわね!?折るわよ!?!?」


 まあ、揶揄うのはこれくらいにしておきましょう。


カナ「花火が上がるのは19:00。日が完全に落ちてからだな。」


 現在の時刻は17:30。一時間半も時間があります。


アガサ「じゃ、それまでは屋台を楽しめそうだな」


クルス「そういうことなら早速行こっ。」

ミケ「だねー。時間は待っちゃくれない!!」

アガサ「よっしゃ!!」


 クルス、ミケ、アガサの三人は、風のように一斉に屋台の方へ駆け出していくのでした。


カナ「どっちが子供だよ。……ま、俺たちも行くか」


ディノ「……ええ、そうね──────」


 夕方の光は少しづつ沈んで、オレンジ色の灯が少しずつ落ちていく。

 花火大会はまだまだ、始まったばかり。



━━━━━━━━━━━━━━



 屋台で時間を費やしたミケ達。まるで氷菓子のように早く溶けていく時間……

 カナが人だかりの中にみつけた、人の集まらない屋台裏で時間を確認します。


カナ「あと十数分で花火が上がるな。」


ミケ「場所の確保はアガサに任せてあるからバッチリだよ」


 ミケはすっかり屋台を満喫した様子で、手にはみかん飴、りんご飴、そして射的の屋台でかっぱらってきたデカめの商品三種。


カナ「なんか、お前が一番エンジョイしてないか?」

ミケ「当然でしょ。夢でも現実でも楽しむ時は楽しむよ」


カナ「……夢?……まあいいか。とにかく、アガサん所に行くか」

ミケ「ん。」


河川敷の道路に二人で出て、三人の影を歩いて探していると、


クルス「おー!ミケいた!」


 と、河川敷の比較的なだらかな坂のところで、三人が待っていました。


ディノ「遅いわね、クルスが探してたわよ」

ミケ「ごめんごめん……私も探してたんだけどね……」


 五人全員が集合したところで、坂のところで座り。


アガサ「あと十分そこらだろ?」

カナ「ん?ああ。その位だ」


 あと十分で、花火が上がる。

 花火大会に来ていたのは、何も五人だけではありません。大勢の人が、その火花が咲き、そして散っていくのを見届けに来たのです。

 何よりも目立ち、眩いほどの光と音を咲かせる、数十mの火花を。


ミケ「ねぇ、クルス」


クルス「……なあに?」


ミケ「今、話があるって言ったら、二人で話せる?」


 そう言うと、ミケはひとりで、坂から立ち上がって、みんなたった数分限りの火花を見るために空を見つめる中、もぬけの殻になった河川敷の道路を行くのです。


アガサ「行けよ、クルス。花火は、また、外で見に行けばいい」


 クルスが立ち上がって、



ディノ「……行くのね。クルス」


 それを見たディノが呟きます。


クルス「……ごめん。」


ディノ「いいの。止めるつもりは無い。私は……その……分かってる、つもり。

 貴方はきっと、正しい選択をする。たとえそのせいで、みんなと喧嘩になっても……私は、あなたの味方でいたい。」




ディノ「だって、貴方は私の──────」




━━━━━━━━━━━━━━




ミケ「来てくれたんだ、クルス。」


クルス「うん。」

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