「クルスとミケの花水木 ④」

クルス「女の子同士なのに、告白みたい。こんなところに呼び出して。」


ミケ「告白かぁ。確かにそうかも。」


 河川敷近くのガードレール高架下。新幹線が定期的に通過するそこでは、クルスとミケの声が暗く反響し合う。


ミケ「まずはお礼を言わなきゃ。花火の時間がもうすぐ近いのに、来てくれてありがと。」


クルス「ううん。気にしないで。時間は…いつでも作れるもの。」


 そうなのだった。

 ここは、クルスの支配する『ワタクシ』の空間なのだ。時間すらも権限の内。想いのままであろう。

 今は五月な筈なのに、何故か八月という『設定』。私達とディノ、アガサが友人関係という『設定』…

 彼女はこの空間において、その作劇の設定を意のままに改竄、編集ができる。


ミケ「そうだったね、私達の時間はこのまま、ゆったりと進んで、気づかないうちに戻っていく」


クルス「そう。ずっと若いまんま、ずっと友達と一緒なまま、衰退もせず、極楽のような無限を過ごす」


ミケ「これが、きっと貴方と、私の理想。みんな友達で、笑って、離れ離れにならない。人生の楽しい時間だけを抽出して、一生をこの中で過ごすことが出来る。」


 私達が望む限り、それを無限に繰り返す。まるで何時かの日常系アニメのように、この8月を永久なものにすることだってできる。

 まるでアニメのように楽しい部分だけを切り取って、笑っている部分を切り取って。

 刺激が足りなくなったら、自分で足すことが出来る。


 そういう、世界。


クルス「何者にも縛られない、自由の世界だよ。」


ミケ「──────いや、違う。」

ミケ「これは自分で自分を縛る、束縛の世界だ」


クルス「え?」


 いや、これは世界と言えるのか?

 自分の理想のまま世界を改竄する。人類の、一つの完成形。

 確かに、完成形に近づくことは理想を追う事であり、理想に辿り着こうとすることこそ人間の営みだ。


 では、最初からその理想に、辿り着いていたとしたら?


 人間の生きる目標は無くなる。

 完成形に進化はない。

 完成は、停滞とイコール。

 停滞した文明は、腐敗していく。


 確かに、私の理想は、私の友達が、身の回りが平和であることだ。

 でも、これは違う。


クルス「…どうして?誰も傷つく事がないんだよ?誰だって…痛いのは怖いじゃない。」


ミケ「うん。だからこそ、この世界の行く末は、私の世界と、貴方の世界が、完全に途切れること。そうすれば、誰も傷つくことは無いから。」


ミケ「クルス。アンタ、傷つきたくなかっただけなんでしょ。

 だから、こんな理想のハコを作ろうとした。ハコを作って、自分を自分で閉じ込めようとしたんだ」


クルス「…それって、いけないこと?外の世界は辛いことでいっぱいじゃんか。

 どうして痛いことをしないといけないの。

 どうして苦しい気持ちにならないといけないの。

 みんな笑顔で、楽しかったらそれでいいじゃんか。」




ミケ「…外は、怖い?」



クルス「…うん。」



ミケ「なにが、怖かった?」

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