「クルスとミケの花水木 ②」

クルス「レースゲームしよー!」


 クルス達がやってきたのは4つの連続したアーケードゲーム筐体。まるで乗用車のシートのような重々しいゲーミングチェアが、ほかのゲームとは一線を画しています。

 デフォルメされたキャラ達が画面の中で勢ぞろいし、玩具のようなカートで路面を突っ走って。


 主に子供に人気なレースゲームですが、割と大人からも手厚い支持を受けているゲーム。

 しかし……


カナ「これ、四人用だろ」


 クルス達は五人。なんと絶妙な人数でしょうか。こういう多人数プレイが可能なゲームは大抵四人用か二人用。奇数人のグループにはあまりにも手痛い……!!

 どんなに頑張っても、一人余る人数という訳である。

 この五人の内一人を、蹴落とさなければならない、悲痛──────!


ミケ「ジャンケンだね」

アガサ「ジャンケンだな」

ディノ「ちょっと待ちなさい!!」


 せっかく平等にジャンケンで決めようとしていたところ、ディノが割入って邪魔しに来るのです。


ミケ「なにさ。せっかくジャンケンで決めようって」

ディノ「それでクルスが遊べなくなったらどうするのよ」

カナ「だったらお前が降りればいい」

ディノ「嫌」

クルス「……?」


 ディノはいつまでもクルス贔屓でした。それはいいのですが、しかし平等に決める方法がそれしかないのです。


クルス「人を変えて二回やればいいじゃない?」

カナ「一介の高校生にそんな金があるかよ」

ミケ「ていうかそれでも、誰が変わるかでやっぱりじゃんけんは必要だよ」

アガサ「っつー事だから、諦めろ。ディノ」

ディノ「くっ」


 ジャンケンが避けられぬ因果であることを察したディノは肩を落とし、クルスにすこし耳打ちをしていました。


ミケ「はやく。ジャンケンしよ〜?」




  「「「「「じゃーんけんっ」」」」」




ディノ「……負けた、私だけ……」


 落胆。ディノは結局一人負け。

 ディノはどうやら、クルスが勝つように仕組みたかったようです。そして現にクルスは勝ちました。

 ただし、それ以外の三人も同時に勝ち残ってしまった。それだけの事だったのです。


アガサ「まぁ、そう落ち込むなって。あとで駅前のアレ奢ってやるから」


 その落胆ぶりを見かねたのか、アガサが『駅前のアレ』を、ご馳走すると。ミケはさすがにそれを見過ごせず。


ミケ「ずり〜!私にも奢れコノヤロー!」

アガサ「それは、私に勝ったら考えてやるぜ!」

クルス「二人だけで熱くなって……ダメだよ、私を置いてっちゃ!」

カナ「血気盛んな事だな。」


 四人がハンドルを握り、今、ペダルに足をかけました。



━━━━━━━━━━━━━━


 場面は変わり、夕方の帰り道。日も落ちてきた駅前は、しかしその喧騒を緩めることはありません。人が忙しなく行き交う駅前は、日中にその動きを止めることはないのでしょう。


ミケ「駅前のアレ、私にも奢ってよ〜?」

アガサ「わかったって。はぁ、今月足りるかなぁ……」


 レースゲームはアガサの大敗に終わってしまいました。懐を寂しそうにしているところ、誠に残念ですが、約束は守ってもらいましょうとも。


カナ「……そういや、明日は花火大会だな」

ミケ「え??そうだっけ?」


 カナの唐突な話題の出だし。ミケは虚をつかれたように首を傾げるばかりでしたが、


アガサ「んだよお前、忘れてんじゃねーよ」


 とアガサが揶揄うように言うので、やはり、以前にそういう話があった、という事なのでしょう。

 ミケにはその記憶は一切無いのですが。


クルス「ミケは浴衣で来る?」


 クルスはこちらの顔を覗いて、問いかけてくる。どこまでも純粋な瞳で、訴えかけてくるのです。


ミケ「クルスはどうするの?」

クルス「私はやっぱり、浴衣着たいな〜。」


ミケ「じゃ、私も付き合うよ。クルスをひとりぼっちにはさせたくない」


 夢のような夏は、始まったばかりです。

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