「ミケと疾風迅雷 ③ 」

──────何分か、自転車を漕ぎ回した後。

 カナたちは河川敷の河川と電車のガードが交差する子供たちの溜まり場にまで来ていました。ミコの家跡地から、1キロメートル位は離れていたかと。

 そしてそこを通り過ぎようとしていた矢先に。ガチャッと、大きな音がしたかと思えば自転車が上手く動かなくなってしまいます。

「チェーンが…」

 切れていました。

既にチェーンは歪んでいたのでしょう。もう、自転車はまともに動くことはありません。棄てるしか無くなってしまいます。

この河川のわたり橋の上で。

「ちくしょう…走るしかないのか…!?」

 周囲には人はいません。戦うには最適…しかし、それが逆に「乗り物がない」ことを暗示しているのです。

「あいつのスピードじゃ…すぐに追いつかれるよね」


「いいや…その必要は一切ない」


瞬間の判断でしょうか。カナはミケを抱えて河川に飛び込みました。

水面を突破し、地面と追突する直前に、カナの「防護壁」があって助かりましたが、先程の声は…??

「…もう来たのか…早すぎる…ッ!!」


 まさか、


 ミコは、もう──────


「の野郎ォォォォッ!!!」

 地が震える。ミケが地を踏みしめたのです。

 ミケは激昂し、カナが飛び降りたせいで高さが5m近くも(もっとあったかもしれない)ある橋の上、相手に飛び掛り。そのままミケは何故かも分からない圧倒的身体能力で、宙で上半身をひねり強烈な蹴りを食らわせました。

「あ…!?」

 一瞬の出来事。カナは反応が少し遅れました。とんでもない音が橋を揺らがせ…たがしかし。

「…ッ!?」

ミケの渾身の蹴りを、茶髪のそいつは、いとも簡単に、片腕で防いでみせました。

 あれほど、強烈な音が出るほどの衝撃だったのに──────

 さらに。

「お返しだぜ」

 ミケはそいつの掌底を、みぞおちにモロにくらってしまいます。

「あ゛ぉ゛っ…」

 凹まされたみぞおちからひねり出された汚い声と共に、つよく河川の水面に打ち付けられ、土手に墜落し…ミケは気絶しました。完全に、ミケの完敗でした。


「ミケェェッ!!」

 俺の的のない咆哮は宙に浮く。

「おいおい、お前の相手は」

茶髪のそいつが聞こえた瞬間、咄嗟に「バリア」を張った。

「っっ…!!」

「このアタシ、だろ?」

 茶髪の蹴撃。俺は数メートル吹っ飛ばされた。咄嗟のバリア展開とはいえ、この衝撃…十数メートルからの落下を防げるバリアでも、もしかしたら危ないかもしれない。



 俺、姫乃カナには最近発現した能力がある。ミケが木片弾丸の奴に襲われた際に発現した、能力。

 俺の能力は、「バリア」…というより、…と言った方が正しいのかもしれない。

 なぜならこの能力は、幼馴染ミケを護るために発現した能力でもあるからだ。



「あぁ。そうだ…俺の相手はお前だし、お前の相手はこの俺だ」

「そうこなくっちゃぁな…ミケは任せておけねぇもんなァッ!!」

 茶髪は例の瞬間移動…否、「高速機動」で先程の蹴撃で離れた距離を一瞬で埋めてくる。偉く直線的な動き。読みやすかった。防衛力の具現化、バリアを出現させ前方を全力で護る。

 ──────しかし、だった。

「〜ッッ!!」

 背中からの強烈な一撃。視界が転がり吹っ飛ばされる。内臓が…揺れる。

そうか、先程の直線的な動きはブラフ。こいつ、曲線的な動きも…出来る。つまりその力は外付けではなく、内部の力が高まっているということだ。単純な身体能力強化…というより、「倍速駆動」と言った方が近いかもしれない。

「いや、バリアっつーのは私にとっちゃ厄介だからよ?ブラフでどうにかなると思ったんだがよ。こいつぁまた、ナイスなヒントを与えちまったって感じだな、その面はよぉ」

 こいつ、思ったより饒舌…まるで、俺の嫌いな幼馴染の親友みたいで、吐き気を催す。

 …が、俺は立ち上がる。

「…あんたの能力はパワー系じゃなくてスピード系…自分の時間だけを長くしてんだろ」

 あいつの能力は「時間の延長」。それも自分のだけという限定付き。

自己の時間の延長というのは文字通り、自己にとっての1秒を、10秒にも20秒にも量増しする…ということ。

 つまり、「1秒間に10秒間動ける」。「10秒間動けるだけのエネルギー」を1秒に凝縮する。

 これは特殊な加速方法だから、パワーはそこまで強くはならない。

「ご名答。『閃速紀タイムトランス』…アタシはそう命名したぜ。変速機からもじったんだ」

 いやいや、今更冗談みたいな話聞かされても和まない。

「あぁ、そうかよ…!!」

 俺はバリアを円状に展開、回転させ茶髪の胴目掛け投擲する。某漫画の切断技みたいな活用法だが、バリアは使

「まるでクリリンの気円斬じゃねーか」

 そいつは間一髪で軸を移動させ回避する。

いや、間一髪というのは絶対にわざと。こいつ、俺を舐め腐ってるんだろう。なんせ、あっちは軍隊みたいなところで日々トレーニングを積んでいるだろう人間…キャリアも何もかも違うのだ。

 しかし、こちらも人間だ。

同じ人間なら、強者を喰らうのに策略を立てないわけが無い──────!!

 円形のバリアは、茶髪の目の前で、極小型の円形回転刃として「拡散」する。

「っ!!」

 冷汗でもかいたのか、今度は大袈裟なバックステップで、距離をとった。

俺は今のうちに河川から土手にあがり、河川敷の道路、新幹線ガードまで逃走する。

「!!──────逃げるなこの野郎ッ!!お前の相手はアタシだろうが───!!」

 残像が残るくらいのスピードで、さっきまで怯んでたくせにすぐに追いついた。

「…卑怯とでも言うつもり?」

「よく分かったな、高校生ガキがァ!!」

茶髪は先程とは比較にならない超スピードで直進し、俺は為す術なく吹っ飛ばされた。

 いや…

術は既に為していた。


「これは…ッ!!」

 茶髪の周囲には、俺の半透明のバリアが全方位に張り巡らされていた。茶髪を囲う牢屋のようになっているのだ。

「俺がただ、逃げるためだけに逃げたと思ったなら…」


「浅慮も程々にしろよな。…その仮面、後で剥ぐから覚悟しろよ」


「くっ……ッ!!

くっ…くく……くひっ…」

…!?

何故、この状況、既に捕縛され身動きの取れない状況で、…!?

「いや、なかなかに面白いやつだぜ。気に入っちまったよアタシ。」

「だが、無駄だぜ」

 茶髪はなにか黒くて丸いものを口に含むと…

腕が強烈に光だし、電火、スパークが起き始める。

「能力…!?能力は一つだけじゃないのか!?」

「いんや、魔術だよ」

『カナァァッ!!』

 それは光のごとく速く、そして雷のように強く、俺の体力を根こそぎ刈り取った。

 雷のような轟音だけを、耳に響かせて…

「…拳半分、届かなかったか…」

「随分と早いお目覚めじゃねぇか、ミケ」




ミケは、目をぱちくりさせました。

そうだっ!カナは、茶髪仮面は!

新幹線ガードの方が騒がしいです!

「カナァァッ!!」

とにかく、とにかく急いで駆けつけて、カナを間一髪、救い出しました。

…よかった、ちょっと感電してるだけだ。

ミケは一安心です。


「随分と早いお目覚めじゃねぇか、ミケ。」

「…いいや。遅くなってごめん。アガサ。」

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