「ミケの前途多難 ②」
スーツの男は向こう側の歩道を道なりに走っていきます。
「まてぇぇ!!」
ミケは怒鳴りながら、車道を突っ切ります。車をギリギリで交しながら。
カナは……どうやら歩道橋を使ったようでした。
やがてスーツの男は入り組んだ路地に入ります。
ミケも追いかけ、左、右、左と、走っていくのでした。
たどり着いたのはコンクリートの立体駐車場。
スーツの男は既に、そこに姿はありませんでした。
「あの野郎……どこいった……!?」
ミケはキョロキョロと当たりを見回しますが……だれもいませんでした。辺りにはコンクリートの壁と、車がちらほら。
どうやらカナは途中ではぐれてしまった様子。
その時。ミケは肩を打ち抜かれます。
「〜〜〜ッ!!」
またもやどうやら。
ミケはまんまと、敵のテリトリーに足を踏み込んでしまったようです。
どこに隠れているかもわからず、どこからミケを確認しているかもわからず……直ぐに撤退しなければいけない状況です。
ですが。
「ミケ」
「姫乃……!」
姫乃が追いつきました。物知りな彼なら、この状況を何とかしてくれるかもしれません。
「ミケ、お前その怪我……」
「そんなことは今はいいよ。ただ今は、アイツをぶっ飛ばすことだけ考えて」
「……」
姫乃カナは考える。
相手が飛ばしたのは木片。人間業では無い。
あの高校生程度の体でできる芸当ではない。
「ありえない」……が……「現実である」
日野ミコ……「超心理学」……繋げて考えるのは妥当か?
「……まさかとは思うが、ミケ、お前は……」
ミケの肩の傷……あのエネルギーを持つ木片が当たったのに、徐々に完治しつつある。
これは確実に、あの時の。
『あの時』。事故の怪我が予想より軽傷だったときの……「あれ」……?
「……口で言うのも馬鹿馬鹿しいし、なんというか、ふわふわとした空理空論なんだが」
「お前、超能力者か何かなのか?」
………………
…………
……
「今そんなの関係ないでしょ!?」
「え?認めたかよ!?」
カナは再度考える。
先程の攻撃はここに誘き寄せる為の「作戦」……いわば撒き餌。木片のあのコントロールは手では容易ではない。だとすると木片は手以外にもなんらかの力に寄って、弾かれたあとも「動いている」。
相手の居場所は恐らく、立体駐車場内。飛距離が伸びると正確なコントロールが難しい。そして力の届く距離もきっと決まってる。それが人間の限界だからだ。
「ミケ、上階に上がるぞ」
「うん!」
外側に着いていた階段を一気に駆け上がり、屋上。すると、すごいスピードで何かがうねうねと飛んでくるのが見え、2人とも上体を反らしながら間一髪で回避します。
「やっぱりここにいそうだな」
カナは呟きました。
…どうやら4階立てのようです。車の色と床が少し変わった位で、ほかは何も変わりません。……今更気付きましたが、天井の真ん中が吹き抜けになってるところがあるみたいです。
そして、吹き抜けになっている所の、向こう側。そこには確かに、スーツの男のような影が、黄色の車のそこにありました。
「行ってくる……!!」
ミケが我先にと屋上に突入しようとしますが、カナが制止し、
「馬鹿、無防備で行くつもりかよ」
学生鞄に入ってる本を自分の服の中に詰めて、
「こういう風に、腹位は守った方がいい。あった方がないよりはマシだ」
ミケも同じようにしました。そして吹き抜けを中心に二手にわかれ、極力、頭を車やらなんやらでかくしながら、ジリジリと近づきます。
カキン、カキンと、金属が叩かれるような音が車からするのを聞くと、冷や汗が止まりませんが……なけなしの勇気をもって、ようやく後2m。ミケは堪らずはしりだし、車を持ち前の脚力で飛び越え、スーツの男をそのままぶっ飛ばそうとしました。
結果的に言うと、それはかなわなかったのです。
なぜなら、そのスーツは、既に、脱ぎ捨てられ、車に貼り付けてあっただけだったのですから。
「ミケ、危ないッ!!」
視線移動でミケが見た一瞬は、ワイシャツとスパッツの誰かが、他の車から飛び出し、木片をこちらに飛ばしてくる所……そして、
カナが飛び出して……ミケを庇った所。
しかし。
カナは無事でした。何が起こったのか分かりません。
木片は、カナの目の前で、空中で停止していました。
いや、よく見てみると青い膜のようなものが、それを邪魔しているかのように見えました。
「なんだ……これ」
「よくわかんないけど、今のうちだ!!」
次の木片が来る前に、奴にとどめを刺す。ミケは直感で動くタイプでした。
いくつかの車を乗り越え、男の胸ぐらをつかむところまで、数秒もかからず肉薄します。
胸ぐらを掴まれた男はミケに引っ張られ嗚咽しながら脳を揺さぶられ、そのまま、
「ふんぬっ!!」
腹を殴られ、黄ばんだ何かを吐きながら、地べたを舐めることになったのでした。
「……って、これからどうしよう、警察に連絡?」
「あー………とりあえず警察じゃなくて、日野に相談すればいいんじゃないか?たぶん、お前絡みのゴタゴタならあいつがなんか知ってるはずだろ」
「なるほど……って、なんで日野のこと知ってんの」
「詳しくは知らんが、何となく推測した」
カナは賢いなあとミケは気持ち悪がりつつ感心し、ミコに電話することにしました。
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