「ミコと封魔機関」

ふうまきかん【封魔機関】

?????




 世界のために、宇宙のために、私達が食われる。殺される。

 戦争の参加は必須。宇宙は滅亡する。

 

河坂「……戦争に参加しなかったら、世界は滅びるのか」


 でも、ミケはまだ少し納得出来ていません。しかしそれは当然のこと。

 当然の疑問なのです。

 『何故、そのような戦争に出ようとするのか?』

 自己犠牲的な人間は限りがあります。負けるが勝ちならそもそも戦う意味がわかりません。というかそもそも、自己犠牲をするならば、戦争なんかせずとも自分からその身を捧げていればいい話で、無駄に血を流すことは無いはずなのです。


ミケ「でもさ、そもそもみんな参加しないことも有り得るよね」

ミコ「それはないな」


 それを思い至ったミケは言いますがしかし、わかったようにミコは食い気味にそう切り返すのです。


 少し、ミケは口を噛んで、先程よりも語気を強くしながら。


ミケ「なんでさ」

ミコ「情報統制だよ。」

河坂「……情報統制…?」


ミコ「ああ。メッセンジャー……人間を使った伝書鳩のようなものさ。その送り主は、ミケくん達とは違う、他の異能グループにソイツをよこす。そして、そのグループに虚実を吹き込ませる。『戦争に勝てれば神の名のもとに全てが叶う』……とね。勿論、そのメッセンジャーも、本当の事はなーんにも知らない。知る必要が無いから」

ミコ「だから、彼等は絶対に、戦いを仕掛けてくる。本気でね」


ミコ「私もその一人。メッセンジャーだった。」


 ……謎が謎を呼ぶというのは、こういう事を言うのでしょうか。

 『情報統制』『送り主』『伝書鳩メッセンジャー』『戦争』『全てが叶う』『虚実』

 そして……ミケと同じ『異能力者のグループ』


河坂「メッセンジャー……?送り主とは誰だ?」


 言葉尻を捉えるようなやり方で河坂はミコに詰め寄ります(河坂は拘束中なので身動きがとれませんが)。


ミコ「過去の話というわけさ。」

ミケ「過去って?」


ミコ「私も……元々メッセンジャーとして、戦争の事実を伝えて、君たちに戦争をしてもらう予定だったんだろうね。」


ミコ「『封魔機関』……恐らくだがね。それが、私達の『送り主』だよ」


━━━━━━━━━━━━━━


カナ「……」


 噴水のような音。砂嵐のように、耳元をざらつかせながらもしかし不快に感じない涼しい音色。

 その音色の裏に、胎動の音がする。

 何かが大きく響く。生物の血流のように規則的に。まるで巨大な生物にいるような、恐怖的な音響。

 目も、覚めるというものだ。


カナ「……っ…!」


 体を起こそうとするが、動かない。

 身体に痛みはない。……手足が、後ろ手に固定されている。

 縄の感触では無いが……これはなんだ?

 何とか首だけを動かして、周囲を確認する。。

 妙に明るく広い。高さ十メートルほどある遠い天井は、さながらバロック時代の礼拝堂のような……が、しかし、ここには長椅子はない。あるのは厳かなステンドグラスと、その前に水しぶきをあげる、羽の生えた馬……ペガサスの彫刻が堂々と、てっぺんに乗っかっている噴水。


 イブキもいる。腹が動いている当たり、息はある。

──────というか、傷がない。

 あの銀髪につけられた、酷い傷……

 俺は来栖に負けたのか?


記憶が少し飛んでるようだった。


 蓑虫のように高貴なカーペットの上を引きずりつつ、


カナ「……イブキ」


 イブキが起きるように、頬を噛む。


イブキ「……っ!……カナ……!?」

カナ「痛て」


 急に起き上がるもんだから顔を打ってしまった。しかし、無事で良かった。

 あれほどの負傷で生きているのは奇跡に近い。


 あれ?イブキには手錠とか、そういう拘束道具は着いていない。

 どういうことだ?


イブキ「……どこ?ここ……」

カナ「わからん。来栖って奴にやられて……そこから記憶が無い。気絶してたんだと思う」


 イブキも周囲を確認しているようだが、特に変化はない。ここには二人しかいない。文字通り。


カナ「これが外せれば、おもうように動くんだが」

イブキ「……なんだこりゃ、ガラス?」


 イブキが俺の手錠に指を這わせる。

 爪で引っ掻くと、ガラス玉を擦らせたような音がなり、つつけば陶器のように音が響く。


イブキ「なんかガラスっぽいなぁ〜……壊せるかもねぇ」


 そう言ってイブキは懐から、長さ五センチ程度の釘を、そのガラスに添わせる……


カナ「お、おい、ちょっと待って」


 力の加わり方というのは、面積が小さいほど圧力が高く、ものを壊しやすいと聞く。おそらくこの釘をイブキの魔力強化の剛腕で打ち、ガラスを割る、と言った感じだろう。

 しかし、手加減を損ねた場合、その釘の勢いは止まらず、俺の手首はまるでホチキスにでも停められたかのように、しっかりと釘で固定されてしまうことだ。


 ──────もしかして、本当にこれで割るつもりなのか?下手したら手首貫通だぞ。


イブキ「ん〜?」


 イブキは待ってくれた。さすが大人。話のわかる優しい大人。

 しかし釘だけは解せん。まじでやめて。怖い。


カナ「このままその釘を刺してしまうと、俺の手首がキリストになってしまいますが」

イブキ「だいじょーぶ!手加減はするさ〜」

カナ「その手加減をミスったら刺さっちゃうだろ!」



イブキ「…あ〜…………まぁ、…大丈夫!!」


 前言撤回。

 やっぱこの酔っ払い、話通じないや。


 ガギンッ!!


 これは釘を、イブキが弾く音なのだろうか。思ったよりも重厚な半透明物質らしく、釘はおもっくそ弾かれ、傷一つつかなかったようだ。


イブキ「えっ……今の、結構力入れてたのに」


 結構入れてたのか。割れなくてよかった。

 ……いや、割るためにやってもらっていたのだが。

 しかし困った。イブキのパワーでもダメなのか?相当分厚いアクリル板でも、飛行機での戦いを鑑みて彼女なら貫けるだろうとは思っていたのだが。



???「その手錠は、割れない。フフ……そういう風に彼女が作ったからな」


 部屋に響く、厚かましい老人のような嗄れた声。

 また敵襲か。

 イブキは噴水に身を隠し即座に拳を上げ臨戦態勢に入るが、俺は縛られているから、バリアで身を固めるしかない。

 その中年男性は声に違わず、40歳程度の皺だらけの肌をした、小肥りの、禿げかけた頭にシミが多くある、まさにステレオタイプな中年男性だった。


イブキ「……誰だ!!」


 イブキの精一杯凄んだような声は、しかし爺の感情には全く届かず、寧ろ、子供を見るような目で噴水の向こうを見る。


???「ハッハッハ。そう凄むなよ『伊吹いぶき瞳子ひとみこ』。せっかく拾った命を取りこぼしてしまうぞ」


 拾った命。

 来栖との敗戦の後、来栖か、もしくはこの老人に生きたまま、ここに連れてこられたのだ。


イブキ「!……何者だ、貴様」

???「お前はここの最高指揮官を知らんのか?馬鹿にも程があるな」

???「私の名前はトンマーゾ・オルガ。ただの中年のジジイにでも見えたか?」


 トンマーゾ・オルガと名乗る中年は、その称号なまえに胸を張るようにしてそう言った。


イブキ「ほう。そんなお偉方が何の用だ」

オルガ「何用かだって?見物だよ。観光客が動物園を見にくるように、私はお前らに会いに来たんだ。」

イブキ「そうか。後はお前を捕縛してから聞くことにしよう──────」


 イブキは噴水の影から身を顕にし、その中年男性に接近する。


 その瞬間、背筋に舌でもはわせたかのような鳥肌が立つ寒気を感じる。

 居る。この部屋の中に、近くに、クルスと同じ気配がする。

 それも、複数。


 しかし、どこ微かに……ミケと似た匂いもする。

 同質の何者かが、ここにいるのか……?


カナ「やめろ!!イブキ!!」


 イブキが一瞬歩みを止め、俺の方向を見た。


オルガ「ああそうさ……やめておけ。お前らは既に包囲されているんだよ」 

イブキ「何……!?」


 包囲……?

 異能力者は、クルスだけでは無いということか。

 この気配の説明もつく。


オルガ「お前と少年は所詮、この少年の『母体』を誘き出すための餌に過ぎん。下手に動かれたら釣れるものも釣れないだろう?」


 『母体』……それは恐らく、ミケのこと。ミケとの、つい先日の出来事。

 これもまた恐らく、トラックに引かれた時のこと。

 その時のミケとの接触により、俺は異能を手にしたのだ。

 それは、俺が目覚めたのではない。

 ミケが、俺に異能を齎したんだ。さながら、神が人に叡智を授けるように……


 母体というのは、異能力者の母。

 ミケは、俺の母親だったんだ。

 そして、俺はこいつらにとっての餌。


オルガ「この先の戦争……勝つのはこの私……封魔機関を潰すのもな……!!」


イブキ「っ……『封魔機関』!? 封魔機関が関わっているのか!?」

オルガ「喋りすぎたな。また会おう」


 一方的に言いたいことだけを言ったオルガは、わざとらしく片手を振ると、そのまま出入口の方へ歩いていく。


カナ「……居るんだな、いま、此処に……来栖ゥッ!!」


 縛られている手を握りしめながら、俺は柄にもなく声を荒げていた。あいつのことを考えただけでも、胸糞が悪くなりそうだった。


 そんな俺の喚き声に答えるように、銀髪をなびかせて来栖は噴水のペガサスの頭に、ふわりと、一つの花弁のように舞い降りる。


クルス「うん。私の子供達も一緒だよ」


 来栖の登場を皮切りに、他四人の男女が、天井から姿を現す。


 ナイトキャップを被った眠そうな面の紫髪少女。

 パーカーを着たラフな格好の、女と見間違う赤髪の美男子。

 ゆったりとしたローブを纏い、顔もフードで隠れて見えない人間。

 そして。

 喪服のようなスーツの男。

 こいつは確か、立体駐車場でミケと戦った……


 それよりも重要なのは……『』。このキーワードだ。


 そこから読み取れるのは、この異能力者のグループの『母体』……つまりリーダーは、阿笠あがさ 来栖くるすだということだった。

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