「カナの暗香疎影 その④」

オトハ「馬鹿だな、お前は」


 オトハはそう皮肉を呟いた。それはまるで、独り言にも聞こえるようだった。


カナ「利口な奴はココにはいない」


 敵として、返すべきでは無いのかもしれないが、カナは返す。

 真に利口な奴は戦場には来ない。ブーメランのような皮肉だった。


オトハ「そりゃそうだ──────」


 ニヒルに笑う。

 両者にあるのは、敵対心や殺意だけではない。


 決闘が始まる。

 先に動いたのはオトハだった。

 ベレッタとS&W、二丁拳銃から繰り出される二連装貫通弾。狙いは全て急所。しかしそれを、横から防護壁を『ぶつける』ことで弾道を逸らし──────


 カナの拳が、その隙間を縫うように發される。当たればもちろん歳ほどの衝撃波。タダでは済まさない。

 が、しかしそれをオトハは上体をそらして、鼻先をかすめながら、交わし、体を宙で一回転。ベレッタの貫通弾をもう一度放つ。

 カナはそれを防護壁の弾丸の連射で軌道をそらしつつ、オトハの胴体を狙った攻撃を行う。

 そしてそれをS&Wで打ち飛ばす。


 一進一退。お互いに火花を散らしながらも、先程よりも苛烈を極めながらも、その鍔迫り合いは終わりを見せない。

 終わりが見えないので、双方の動きがより加速される。先程の動きがたった5秒だとすれば、今度は2秒半、さらに今度は1秒未満。どんどんと効率化される動き。戦いながら強くなる戦闘の歓喜。

 

 そう。二人の力量が、このミックスアップによって著しく強化されてゆくのである。


 男の、意地の張り合い──────



──────ある男は、守る為に戦っていた。友人を、友人の意志を大切だと信じ、それを守る為に、ここまで来た。


──────ある男も、守る為に戦っていた。

愛した女の背負った宿命を、共に背負い、戦おうと決意した。


 そういう意味では、どちらも馬鹿だったのだろう。彼等はお互いの馬鹿さ加減を誇示し合いながら、血を流し、どちらかが倒れるまでそれを続けるのだ。

 それは、それは、聖書の一節のように健全で美しい、語り合いの場であった。

 ここまで拳を交えていれば、嫌でもわかる相手の心。

 戦い方から、そこから分かる闘争心の種類。直情的なのか、繊細なのか。勇猛か、冷静か……戦いの中でそれを理解し、より互いを真理へと導いていく。


 全てを語り終えた頃。

 戦闘開始から10分を経過している。しかし、全身を傷だらけにした二人が、尚も立ち合っている。


カナ「はぁ、はぁ、はぁ、は──────」


オトハ「はぁ、はあ、はあ……」


 ついさっき作られた無数の生傷からは、出血し、痛みを激しく脳に訴えてくる。息も絶え絶えで、今すぐにでも水が欲しいほどに喉がカラカラに乾いている。


 お互い、もはや体力は残されていない。力を、尽くしてしまった。


オトハ「困ったなァ……戦勝会に出かける服装の予定だったんだが」


カナ「似合ってないからいいじゃないか」


オトハ「二度もいうな」


カナ「言わせるなよ」


 もはや、勝負は一瞬で決まる。


 カナは、踏み込み、突っ走り、オトハはそれに答えるように拳銃を繰り出す。




 カナは、違和感を感じた。神聖であるはずのこの場所に、なんの違和感を感じろというのだろう。今はまだ、コイツと戦うべきだと言うのに──────




ミケ「カナ!!」


 目が覚めた。


 一瞬で現実に引き戻されたカナは、オトハの周囲を防護壁で固め、弾丸のトリガーを、オトハの身体ごと封じてしまった。

 実は、タネは既にしかけてあった。直前まで、起動する心に無かったというだけで。


オトハ「な……お、お前──────」


 信じられない、というオトハの顔に、カナは納得してしまう。


カナ「そうだな……裏切ったと思ってもらっても構わない。

 だが悪いな。こちらとしても、貫き通したいものがある。」

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