「カナと酒酔酒解 ③」
「なぁッ……!?」
グレイも驚愕していた。
大質量の氷塊だったはず。相手の底が知れた魔力量では到底、ヒビすら入れることの出来ない堅牢さを持つそれは、いとも容易く、しかも握り拳ではなく、たった人差し指1本の、一本角手。破壊のために使う代物ではない。
……その氷塊を大きく振りかぶっていたグレイは当然、虚空となった質量に引っ張られるように、大きく体勢を崩す。
そこを当然、イブキは見逃さない。
もはや勝負は決したようなものだった。
イブキの下から上へ、顎への蹴り一閃。
グレイは足元を氷漬けにしているためか、背骨が変な音を立て……
「ばぁッ…あ…!?……ば……」
その場に。仰向けに。倒れ込んだ。
「……終わったのか?これで……」
俺は意外にも呆気ない終幕に、呆気に取られていた。
相手は位置取りを間違えて、何も出来ずに倒された……?
「ま、こういうこともあるよね〜ってことで。終わりでいいんじゃないかな〜ぁ。なんて。あはは〜。」
今まで戦闘態勢だったとは思えない呑気さでイブキは機内にまで降りてくる。
──────いや、待て。
音が、たりない。
「待ってくれ、伊吹さん……何か、おか──────」
俺は気付いてしまった。
グレイのあの位置取りは間違いなんかじゃあ無かったのだ。
「ぐあっ……!!」
「カナくん……!これはッ!!」
飛行機が大きく、姿勢を崩す。重力が一転したようになって、俺もそれに釣られ機内の壁に頭をぶつけた。
それもそのはず。
両翼に着いていたジェットエンジンが。
今はもはや音も無く静止。
白く氷漬けにされているのだ。
イブキは機上でも大丈夫そうだが。
動力を失った飛行機は、どうなるか?
この後の未来は明白。
この機内には他に乗客が乗っている。
『こ、今度はなんだ!?』『もしかして……つ、墜落……?』
パニックになりつつある機内。
「おいっ!グレイスケール!!早く氷を止めろォッ!!」
イブキの声にもグレイスケールは動かない。
背骨をへし折られ恐らく下半身不随、もはや氷だけでその身体を支えている彼女は、風圧で体を限界まで逸らしたような体制になっている。
彼女に能力やら魔術やらをどうこうする力は、もう無いのか。
ならば、この窮地を脱するには──────?
「あそこしかない!!イブキも来てくれ!!」
「あ、うん!」
俺達は急いでコックピットに走る。
「「……な…」」
驚きは両方のもの。
コックピットの中は。
思わず顔がひきつってしまうほどの惨状。飛び散り放題の肉片と血液が、ここに人間が、かつていたのだという嫌悪感を感じさせる。
そしてこの寒気。恐怖のものでなく、単純な冷気としての肌の凍てつきは、先のグレイスケールの仕業であることを物語っている。
そんなことより……いや、そんなことよりと言うにはあまりにも現実離れしすぎだが、今は、今生きている人間の方が先決だ。
「……確か……ここか?」
スイッチを押す。電気系統はまだ無事なようだ。
車輪が、飛行機の底に出現するだろう。
「何をするつもりだい?姫乃くん。」
「何って……滑るんだよ」
姫乃カナの能力はバリアを発生させる能力。ならばそれを利用して、足場を作れるはずだ。飛行機が滑走できる路を。
「イタリアには予定通りに着くぞ。絶対にな」
飛行機の直下に張り巡らされた、カナのバリア。船体を持ち上げる程に強固に成長したそれは、難なく飛行機を滑走させた。
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