「ミコの妖異幻怪 その①」

よういげんかい【妖異幻怪】

この世のものとは思えない怪しいものや、原因不明の不思議な現象。



ミコ「と、啖呵をきったはいいものの、実際、私に戦う理由はないな」


ショウ「は?」


 始まってすらいないのに、突然の戦闘放棄とも取れるような発言に、ショウは顔を顰める。


ミコ「しかし、そうだろう?私の目的は後の戦いの戦力を高めることにある。それは君達も同じだろ?」


ショウ「気付いてたんだ」


 ショウ等五人の目的は、ミケ、アガサ、私、カナの捕縛。

 これから起こる大戦の為に取り入れられる戦力は多い方がいい。


ミコ「当然だ。アガサを案内人に選んだのも、そういうことなんだろう?」


 そう。アガサはただの案内人の役割を持った、敵役でしか無かったのだ。そう意味では、アガサは十分な役割を遂げたと思われる。

 ミケをイタリアまで連れ出す。それを決心させる為に、アガサを敵役として選んだ。彼女の母親を探すという目的は、ただの建前として作られたようなものなのである。


ミコ「しかし、事態は結構ぐちゃぐちゃになってしまったな。」


ショウ「色々番狂わせが起こったからね」


ミコ「番狂わせ、ね……」


 それを起こした張本人は、私なのだが。


──────まあ、いいか。


ショウ「まあ、そんなことはどうでもいい。今重要なのは、今、あんたが敵で、捕縛対象だってこと。」


ミコ「おや、話すら聞いて貰えないか。」


 私は空間の振動を確認すると、片脚でのバックステップでその場を離れる。

 おそらく、空間圧縮による

。全くもっておっかないことをする。


ミコ「ならば、本当に戦争しかないな──────!!」


 私は現実改変能力を宿したモノクル、『無色鏡Glass・Whide』を具現化する。

 視覚情報から得たあらゆる物を観測し、情報を収集する能力。


ショウ「眼鏡?そんなものがなんの役に立つ──────!!」


 何も知らないショウは手を伸ばす。

 その不可視で不可思議なその手を、ミコはハッキリと視認した。

 彼の能力は空間圧縮ではない。『手』だ。

 あらゆる空間に干渉し、どこまでも伸びる第三の手。その手が、空間自体を刺激し握り潰している。


 別の次元にあるから、通常の視覚ではその手を再現できない。故に、見えないし、避けられない。


 しかしミコはそれをハッキリと視認し、避ける。


ショウ「なっ──────」


ミコ「Change『SOUL・BEAT・IT』――――!!」


 私は、彼女の能力を持ってくる。

 絶対切断をモットーにした、破壊の権化。

 私には彼女の刃は再現しきれないが、しかしそれでも、カタチ位は真似られる。


 そのカタチは、彼の見えざる手をいとも容易く切断する。


ショウ「――――!?」


 そのカタチは、まるで猫のコスプレ用に使う、馬鹿馬鹿しい程、メルヘンチックな肉球手袋。しかしその手の甲には某アメコミヒーローのようなクローが着いており、肉球とはアンバランスな攻撃性を有していた。

 『猫のSOUL・BEAT・IT』。それが、彼女の牙の名前。


 右手だけで、しかも能力は不完全だが。まあ仕方の無いことだ。


ショウ「なんだ、その爪は――――!!」


 自身の腕が切断されたことに気が付かない馬鹿はここにはいない。しかし、その事実が彼の理解を超えているモノだったらしい。


ミコ「借物だよ。未来からのね」


 答える義理はない。

 私は彼の無力化の為疾駆する。

 腕をふるい、透明な標的を流れるように斬る。

 不完全な牙だが、それでも斬れ味は日本刀より良く切れる。


ショウ「ちっ―――!!」


 彼にとって、接近戦は分が悪い。彼の能力は主に中距離支援向け。

 というか、派手な火力はこの場合出せない。

 ここは地下。崩落なんかが起きたら、被害は私達だけに及ぶわけが無い。


 力強く踏み込む。殺しはしないが、しばらく再起不能になってもらう。


 しかし、次の瞬間には私の右腕が握りつぶされていた。

 彼は自らの手で、直に触れて私の腕を捻り切ったのだ。


 そして、右腕を失いバランスを崩したところをそのままローキック。4~5m吹っ飛ばされる。


ミコ「っかは――――」


 内蔵はやられていない。無事だ。

 しかし、ローキックのおかげで意識がぐらぐらする。


ショウ「……一気に、カタをつける。」


 先程の爪の攻撃のせいで真剣になったショウは、もはや出し惜しみが出来る程の弱さでは無いと踏んだか、ある、『とっておき』を発動する。


ミコ「マジか――――!!」


 ――――現実改変能力とは、文字通り、現実世界をそっくりそのまま、自分の世界にひっくり返してしまう能力である。あまりにも強力かつ、暴力的な世界の抹殺。私が先程見せた斬撃も、『斬った』という結果を押し付けるようなものだ。だからよく斬れる。抵抗もないから、斬り心地は分からないが。


 その世界の抹殺の、極地。

 それは、新世界を創ることである。


ショウ「世界汚染・『両手手折手りょうてたおりて』」


 彼を中心とした世界が、オセロ盤のようにガラリと染まる。

 彼の能力は『手』。

 ならば、その世界は『手』一色となる。


 空間が、『手』そのものになる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る