「ミケの勇猛果敢 その①」

ゆうもうかかん【勇猛果敢】

勇気があって、思い切って実行に移すこと。



ミケ「実の姉貴をぶっ殺そうとするなんて、ぶっとんだ趣味してんじゃん」


クルス「……ミケ……!!」


 ミケとクルスの二人が見合って睨み合っている。

 ジリジリと、見えない火花を散らす視線が、より我々に言われの無い圧迫感を感じさせる。

 俺は……姫乃カナは、見ていることしか出来なかった。そしてそれは、アガサも、あのローブ女も同じだった。


クルス「貴方こそ、勝手に姉妹喧嘩に割り込まないでくれる?」


ミケ「決着は着いてる」


クルス「着いちゃないよ」


 互いの眉が眉間に寄る。

 空間が歪む程に、炸裂する互いの念。互いの身を振るわずとも、これほどの能力を奮うことが出来る。

 カナやアガサとは違う、全くもって別次元の、格の差。

 つまり、アガサは残念ながら、彼女の本気の2割も出せずに、再起不能になったということである。


ミケ「貴方とアガサがどんな内容で喧嘩してるなんて、知らない。それに関してはまた話し合えばいい。でも、超えちゃいけない一線は、あるよ」


 ミケがそう言って静止させる。ミケは意地でも動かないつもりだ。

 それを察したのか、それとも頭に昇った血が幾ばくか引いてきて覚めてきたのか、クリスは構えていた腕を少し下ろす。


クルス「……わたしは、お姉ちゃんに来て欲しかった。家族と一緒に……ディノや、オトハや、ララやショウと一緒に、誰も傷つかない世界を作ろうって。

 間違いじゃないじゃない。誰も傷つかない世界なんて、皆の悲願じゃない。人類みんな、それを望んでる」


 彼女が望んだのは、世界の恒久的な平和。誰も傷つかずにすむ、永久のパラダイスであり、ユートピア。確かに、羨ましいし、綺麗なコトだな、と思う。

 でも、それは綺麗事なのだ。誰にとっても幸せな世界、コミュニティなど存在できるだろうか。

 この世に、楽園は存在し得るか。


 きっといつか、瓦解する。

 人間とは常に前に進む生き物で、上に立とうとする生き物だ。


ミケ「この世界じゃ、不服?」


 ミケは立って、前に進む。クルスに向かって行く。歩み寄る。


クルス「近づかないで──────」


 しかし、それを拒む『風圧』が、ミケを妨害する。

 心理的、物理的接触を拒むその空気圧。その空間一体を吹き飛ばしてしまうような、台風を産んだ。

 まさしく結界。外界と自身とを隔てる物質的もしくは概念的障壁である。


 どの物質よりも、能力よりも、幻覚よりも、圧倒的な存在感。どんな風だって吹き飛ばしてきたミケにとって、ありえないほどの風圧。


─────────構わない。

 その強風、『通さない』という概念的障壁の暴風雨を、それに耐えうる肉と、驚異的なまでの足腰で、耐えきり、破壊しつつ、前進し、蹂躙し、征服する。


クルス「近づくなって、言ってるでしょ」


 クルスは指をスナップで打ち鳴らす。すると空気中から、雨霰のように生成される花弁のような鉄片。それが強風と同速で、流れていき──────ミケの肉を斬り削ぐ。


ミケ「あ、が──────」


 苦痛に歪む。

 ありえないほどの攻撃密度。

 一瞬にして胴は血液に染まり、顔を覆った腕に噛み傷のよつな切創と内出血がまばらに増える。

 衝撃も、殺傷力も、何もかもが、今まで戦ってきた人間とは違うのだ。


 だからこそ、ミケは覚悟を決めた。


 鉄の花弁が舞い散るその暴風雨の中、

 ミケは、忽然と姿を消し──────


 瞬間に、クルスの身が、爆風でも起きたように吹っ飛ばされた。

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