―18― 灰色の旅団、崩壊
「今からダンジョンの攻略に挑む」
ネルソイ都市。
ダンジョン入り口にて。
ガルガが演説をしていた。
演説の聴衆はこれからダンジョン攻略に挑む【灰色の旅団】の精鋭たち。
総勢99名。
「これから挑むのはただの探索ではない! 未だ誰も成し遂げたことのない最奥にいるボスの攻略だ。俺たちはこのためにたくさんの鍛錬と準備を重ねてきた。であれば、失敗などあり得るか。否、断じてあり得ぬ! 者共、征くぞ!」
そうガルガが締めくくるとクランのメンバーたち「うぉおおおおおお!」と熱狂的な掛け声をあげた。
「おい、【灰色の旅団】。ついにボスの攻略に挑むのか」
演説の様子は、周囲に偶然いた多くの人たちにも聞かされていた。
ネルソイ都市にあるダンジョンはニーニャを除けば攻略したものはいない。
とはいえ、ボスの手前49層までは【灰色の旅団】は完全に熟知していた。
地図には出現する魔物の特徴まで詳細に書き綴られている。
【灰色の旅団】はボスの攻略には慎重を期していた。
というのも過去、凄腕だとされる冒険者たちがボスを攻略しようとして死亡している。
それほどボスが強いんだと予想されていた。
だからこそ99名という大人数を連れてのダンジョン攻略だった。
そして48層までは順調に進んでいった。
それも体力の温存のため魔物とは最低限の戦いのみで切り抜けていった。
けれど、1つだけ懸念事項が。
「なんかいつもより調子悪いんだよな」
と、口々に冒険者たちが言っていた。
ガルガも似たようなことを思っていた。
いつもより攻撃力がでない。素早く動けない。疲れやすい。けれど、戦いには支障がなかったので気のせいだろう、とここまで来ていた。
「さて、次は問題の49層だな」
ボスの1つ手前の階層。
この49層には特殊な魔物が生息している。
それは冒険者の数が多ければ多いほど強くなるという魔物だ。
もし1人でこの魔物と遭遇した場合、なんら問題なく倒せるだろう。
10名だと少し苦労するが、なんとか倒せる。
けれど、10名で50層のボスを倒すのは不可能だ。
連れてきたのは99名。
100名を超えると手がつけられないほど強くなるため、その一歩手前。
99名でも49層の魔物はとんでもなく強くなるが、手はず通りに事が進めば倒せるとガルガは踏んでいた。
「それじゃあ、行くぞ」
魔物のでない安全地帯で休んでいる冒険者たちに声をかける。
そして、49層へと向かった。
「ぐごぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」
入るとすぐ魔物の雄叫びが木霊した。
ランクEX級。
EX級とはランクが定まらない魔物のこと。
全身に黒い鱗を持ち、巨大な翼を持つ。
敵対する冒険者の人数に応じて大きさを変える特殊な魔物。
「それじゃあ、お前ら事前の取り決め通り行くぞ!」
【灰色の旅団】は
過去には倒したことだってある。
ゆえに、どの程度の力を持っているのか、弱点はどこなのか、攻撃にどういった癖があるのかなど、あらゆることを熟知している。
あくまでも今回の目標は次の階層にいるボス。
そして、作戦通りいけばうまくいくとガルガは確信していた。
まず、最初の作戦はこうだ。
それを大盾を持ったものたちで完全に防ぐ。
「「ホーリーシールド!」」
10名からなる大盾使いが前衛にでてシールドを展開する。
そして、後方には魔法使いたちが大ダメージを与えるべく詠唱を開始していた。
「くごぉおおおおおお!!」
やはり予想通り
何度も見てきた攻撃だ。
そして、これだけ大盾があれば完全に防げることも何度も試行してきたなかで完全に把握していた。
バキッ。
シールドが割れる音がした。
そしてブレスが大盾使いたちを襲う。
「おい、どうなってやがる!?」
今までシールドが破られるなんてことはなかった。
もしかしてブレスが強くなっているのか?
「怯むな! 早く魔法を放て!」
魔法使いが一斉に魔法を放った。
「
爆発が
そしてこれを喰らえば必ず
そこを近接武器持ちが一斉に襲いかかる算段だ。
しかし――
そして怒り狂った
全く予測していない動きに冒険者たちはパニックに陥る。
まともに防御陣形も築けず攻撃をもろにくらってしまう。
「おい、怯むな! 立ち上がれ!」
今ので恐らく何人かが死んだ。
けれど立ち止まるわけにいかない。
「ねぇ、ニーニャはどこにいるの?」
ふと、ガルガにそう語りかける少女がいた。
少女の名はネル。
ニーニャと同じ孤児院出身。
紺色の髪の毛に黒い瞳が特徴的な少女だ。
ニーニャとは違いあらゆるスキルを取得している。優秀な人材だ。
万能のネル。
無能のニーニャと比較してそう呼ばれている。
「今はそんなより、目の前の魔物の方だろうが! おい、ネル。お前が囮になって
「無理」
「はぁ!? なにを言ってやがる」
ネルが
これもプランの1つであったはずだ。
そして、実際ネルの能力なら囮になっても生還することが可能。
「だって、ニーニャの【バフ】が今日は感じない」
「あん? どういうことだ」
「だからニーニャの【バフ】がないと戦えない」
「だからどういうことだ!? ニーニャの【バフ】なんてたかが知れているだろ。あんな無能、クランを追放したわ!」
「なにを言っているの? ニーニャの【バフ】は強力だった。なにせクラン全員を24時間【バフ】し続けても平気なんだから。有り体にいって、あれは化け物」
ガルガはネルの言っている言葉を理解できなかった。
24時間、クラン全員を【バフ】し続けていた?
そんな所業、できるはずがない。
「プラン通りいかないのもニーニャがいないから」
ぼそりとネルがそう言う。
確かに今まで何度も
「私は帰る。ニーニャがいないなら、どうせ勝てないだろうし」
「おい、待て!」
ガルガの制止を無視してネルは転送陣へと向かっていた。
(ニーニャがいないと勝てないだと?)
そんなことあり得るはずがない。
「今すぐ防御陣形組み直せ!」
そう指示を出しながら、ガルガは持っていた大剣を手に取る。
「ペサード・ダイブ!」
ガルガはスキルを発動させた。
靴底に力がはいり、高く飛び上がる。
そして大剣の剣先を真下に向けながら
「流星の撃剣!」
さらにもう一つスキルを発動させる。
大剣の貫通力を高め、勢いよく地上に落下する。
これで
その間に、なんとか陣形を立て直せれば。
ガッ、と音を立て大剣がとまった。
剣先のほんの一部が
以前同じ攻撃をしたときには、血しぶきが飛ぶ程度のダメージが与えられたはずなのに。
背中の存在に気がついた
(まずいっ)
間一髪ガルガは地面に飛び込んで助かる。
再び
戦況を確認する。
すでに陣形は崩れてしまい。もう作戦どころじゃなかった。
冒険者達が闇雲に
もう勝てないのは火を見るよりも明らか。
「撤退だ! 撤退!」
ガルガはそう決断せざるを得なかった。
最初は99名いたクランメンバー。
生きて撤退できたのは、そのうち64名のみだった。
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