―35― ヴァラクちゃん、かわいがってもらいたい

 ニーニャがいなくなってから、ネネリとヴァラクは行く当てもなく街をぶらぶら散策していた。


「ねぇ、ネネリはなんで冒険者やっているの?」


 ヴァラクがそう聞いた。

 ネネリがどんな理由で冒険者をやっているかなんて、正直そんな興味はなかったが他に話題が思いつかなかった。


「ただの暇つぶしですわ」


 と、淡々とネネリが言い切る。


 終わり? とヴァラクは思った。

 もっと話を展開してくれないのだろうか。そうでないと話題が終わってしまう。


「そうなんだ」


 という思いは押し殺してヴァラクはそう返事をした。


「ヴァラクはどうして冒険者をやっているんですの?」


 ふと、ネネリが質問をしてくれる。

 よかった。これで話題をもう少し続けられそうだ。


「んー、ヴァラクちゃんってさ天才なんだよねー」

「……あなたもう少し謙遜というのを覚えたほうがよろしいのではなくて」

「むぅ」


 ヴァラクは唸る。


「だって事実だし。ヴァラクちゃんは天才。その天才性を最も発揮できる仕事が冒険者。だからヴァラクちゃんは冒険者をやっているだけなんだし」

「けど、あなたでもニーニャには遠く及ばないと思いますが」

「……あれは規格外よ」


 いくらヴァラクがんばったところで、ニーニャには到底敵う気がしない。


「だいたいなんであんなに強いのよ?」

「さぁ」

「知らないの?」

「だって、そもそも本人が無自覚ですし。聞きようがありませんわ」

「確かに……」

「それに、ニーニャはあまり自分のことを話したくないんじゃないかと、そう思うときが時々ありまして……」


 そうなのかとヴァラクは思った。

 別にヴァラクはそんなこと一度も思ったことがない。


「にしてもあんた、ニーニャのこと随分と可愛がっているわよね」

「実際すごくかわいいですし」


 まぁ、それはわかんなくはないけど。


「ヴァラクちゃんも結構かわいいと思うんだけど」


 ヴァラクはそう言って上目がちにネネリのことを見た。


 なんというべきが、ニーニャばかりが可愛がられている現状が正直不満だ。

 ヴァラクだってかわいい。

 なら、ヴァラクも同じくらい可愛がられるべきだ。


「うげぇ」


 ネネリが気持ち悪いものを見たとばかりに舌を出す。


「ちょ、なによその反応! ヴァラクちゃん、流石に傷つくんだけど!」

「あなたは別に妹にしたいとは思いませんわ」

「なによそれ! 妹ってどういうこと!?」

「わたくしは純粋な子が好きなんです」

「なら、ヴァラクちゃんも純粋な感じになるかもだし……」

「はぁ、がんばってくださいまし」


 すごく投げやりな感じで応援された。


「それにしても、さっきからずっと気になっていたんですが、左手でずっとなにをやっていますの?」


 ふと、ネネリがそう問いかける。


「ああ、これは……」


 ヴァラクの左手には天球儀がずっとクルクルと回っていた。


危険予知リスゴ・プレディションよ。ニーニャとあの紺色の女の子が無事かどうかずっと測っているのよ。まぁ、大丈夫でしょうけど、念の為ね」

「あなたそんなことしてましたの……」


 なぜかネネリがジト目でこっちを見る。


「あっ」


 短くヴァラクがそう言葉を発した。


「なにかありましたの?」

「危険度が振り切れた。恐らくどっちか死ぬわね」

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