―13― ニーニャちゃん、素材を売る

 ニーニャとネネリは素材を買い取ってもらうため、冒険者ギルドに向かっていた。


 冒険者ギルドは魔物の素材の買取や依頼の斡旋などしており、冒険者同士が集まって結成するクランと違い公共機関の一種だ。

 


「素材の買い取り、よろしいかしら?」


 ネネリがギルドの受付嬢に話しかける。


「はい、もちろんかまいませんが、えっと、素材のほうは……」


 受付嬢はそう言って、ニーニャとネネリを見る。

 見た限り、2人とも素材らしきものを持っていない。


「少し量が多いので倉庫に案内をしていただけます?」

「はい、それは大丈夫ですが……」


 大量の魔物が運ばれることの多いギルドには倉庫が併設されている。

 その倉庫では魔物の解体とかも行われていた。


 そういうわけで受付嬢は2人を倉庫まで案内する。


「あの、失礼ですが、素材はどちらに?」


 どこからどう見ても2人の手に素材らしきものは確認できない。


「ニーニャ、出しなさい」

「はい、了解ですっ」


 そう言って指輪に念じる。

 すると箱の形状が変わり、中から巨大蟻ジャイアント・アントの死骸がたくさん出てくる。


「おいおい、なんだありゃ?」

「あのお嬢ちゃんたちだけで、あれだけの魔物狩ったのか?」


 周りにいた冒険者たちが突然現れた魔物の死骸に驚きに声を上げる。


「こ、これだけの魔物を狩ってきたんですね……」


 受付嬢も同様に驚いていた。


「これだけじゃないわよ」


 すると、アイテムボックスから人喰鬼オーガの死骸も出てきた。


「マジか……人喰鬼オーガまで倒したのかよ」


 と、他の冒険者たちはさらに驚いていた。


「それで、全部でいくらくらいで買い取ってくれるかしら?」

「い、今急いで計算しますね」


 受付嬢は素材の数を数えていった。


「たくさんお金もらえるといいですねっ」

「そうね……これだけあれだけあれば安いってことはないと思うわ」


 ニーニャとネネリは計算が終わるまで待つことにした。


 その間、他の冒険者たちはうわさ話を始める。

 名も知られていない、それもまだ若い少女2人が大量の魔物を狩ってきたのだ。うわさになるのは当然といえた。


「おいおい、随分とたくさんの魔物を狩ったんだなぁ」


 ふと、2人に話しかけてくる冒険者がいた。

 筋骨隆々背も高く、背中には大きな斧を背負っている。見るからに強そうな冒険者だ。


「お前ら、まさかよこしまな方法で魔物を集めたんじゃないよなぁ」


 斧を持った冒険者はニヤリと笑みを浮かべていた。


「なにが言いたいのかしら?」


 対してネネリは毅然とした態度で迎え撃っていた。

 ニーニャは怖そうな人だな、と思ってネネリの後ろで小さくなっていた。


「いや、そこのあんたは確かEランクだろ。そっちのお嬢ちゃんは初めて見る顔だが、見るからにFランクだ。そんな2人がこれだけの魔物を持ってくるのはちょいとおかしいんじゃねぇかぁ」


 斧使いはあえて大きな声でそう言う。

 すると、様子の伺っていた他の冒険者たちも「確かにそうだよな」といった具合に同調し始めた。


「おかしかったら、どうだと言いますの? 事実、わたくしたちがこれだけの魔物を持ってきたことに変わりはありませんわ」


 ネネリそう言いつつ、面倒なことになったな、と思っていた。

 少し目立ち過ぎたか。

 どうやってこの場を穏便に済ませるか、ネネリは頭を巡らせる。


「いや、大問題だね。例えば、他の冒険者の手柄を横取りした、なんて可能性を疑う必要が出てくるからなぁ」


 斧使いは下卑た笑みを浮かべてそう言った。


 実際、他の冒険者の手柄を横取りしたなんてことが発覚したら大問題である。最悪、ギルドを追放なんて可能性もある。


「いい加減にしてください!」


 ふと、ニーニャが前に進み出ていた。

 ずっと黙っていた少女がなにを言うんだろう、と様子を伺っている冒険者たちは興味津々である。


「いいですか、ここにいるネネリさんはとてもすごい魔術師なんですよ。ネネリさんにかかればこの程度の魔物を倒すぐらい造作もないことです」


 と、なぜかニーニャが自慢げにそう宣言していた。


(あなた、なにをおっしゃってますの!?)


 というのがネネリの心の悲鳴であった。

 あくまでもネネリの魔術がすごかったのはニーニャの【バフ】のおかげだ。


「あははははははっ、そこのお嬢ちゃんがすごい魔術師だって。俺にはそうは思えないがなぁ」

「疑うというんですか?」

「ああ、そうだね。本当にすごいというなら、実際に見せてもらいたいもんだねぇ。そうだ、この俺と決闘でもしてみるか?」

「わかりました。ネネリさんやっちゃってください!」


 なぜかニーニャが話を進めていた。


「ちょ、ニーニャなに勝手に決めてるんですの!」


 文句を言わずにいられないネネリだった。


「えっ、もしかして駄目でしたか……?」


 シュンと大人しくなるニーニャである。


「その……ネネリさんがすごい魔法使いだって知って欲しくて、つい……」


 ニーニャが上目遣いで弁解する。

 その様子を見て、ネネリは思っていた。


(て、天使……っ!!)


 思わず鼻血が出そうになるネネリである。


「妹に頼られたんですから仕方がありませんわね」


 ネネリはそう言って、斧使いを見た。


「あなたに姉の力をお見舞いしてあげますわ!」


 こうしてネネリと斧使いが決闘することになった。

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