―14― ニーニャちゃん、決闘を見守る

 冒険者同士の決闘。

 そんなおもしろいイベント見逃すわけにいかない、と多くの冒険者が駆けつけていた。


「あい、あの女の子は誰だ?」

「確か、ネネリという魔法使いだろ」

「強いのか?」

「いや、Eランクの平凡以下の魔法使いだよ」

「相手はCランクのアギンダじゃねぇか」

「勝負になるのか、これ?」

「噂によるとネネリが大量の魔物を狩ってきたらしいぞ」

「それで因縁つけられた感じか」

「これアギンダの圧勝だろうよ」

「でも、俺はネネリちゃんを応援するぜ!」

「俺はネネリちゃんに踏まれたい」

「あのネネリって子、どこぞの令嬢だって噂だぞ」

「まぁ、たたずまいがそんな感じだよな」

「でも、なんで令嬢が冒険者なんかになるんかね?」

「いや、そこまでは知らねぇよ」


 と、集まった冒険者たちが好き勝手勝負の行方を予想する。

 その大半が、斧使いアギンダの勝利を予想していた。

 けれど、それは当然だった。

 冒険者の強さはランクに依存する。

 ランクEのネネリがランクCのアギンダに勝てるはずがない。


「あの、ニーニャ。あなたの【バフ】はかけていただけませんの?」

「え? 決闘は正々堂々1対1でやらないと」

「そ、それはそうでありますがっ」

「大丈夫ですよ! ネネリさんが強いのはわたしが保証しますから!」


 勝手に保証されても困るネネリだった。

 とはいえ、妹が見ている手前弱気になるわけにいかない。


「おいおい、俺はいつかかってきてもいいんだぜ」


 アギンダは余裕綽々とした様子で突っ立っていた。


(こうなったら、やるしかありませんわね!)


 ネネリは心の中で決意する。


火炎弾バラデラマ!」


 杖を前に向けて詠唱した。


 ポフッ、と小さな炎の塊がアギンダへと放たれる。


「ふっはははははっ! なんだこのかわいい魔法は! こんなのスキル使わなくたってどうとでもなるぜ!」


 ブオンッ! とアギンダは斧を振り下ろす。

 その際に発生した空気の勢いだけで炎の塊が消え失せた。


(う、そ……っ)


 まさか自分の魔法がこうも簡単に打ち消されるとは。

 これ以上、威力の高い魔法は今のネネリには扱えない。


(ならば、数で押し切るまでですわっ!)


火炎弾バラデラマ! 火炎弾バラデラマ! 火炎弾バラデラマ! 火炎弾バラデラマ! 火炎弾バラデラマ!」


 合計5つの炎の塊を放つ。


「ふははははははっ、この程度どうってことないわぁ!」


 そう言って、アギンダは斧を高く掲げた。


岩石封だんせきふう!」


 スキルを唱えてながら、高く振り上げた斧を地面に叩きつける。

 その際に発生した衝撃で、ネネリの放った炎の塊が全て消え失せた。


(そ、そんな……っ)


 1つぐらいは当たるだろうと見通していた自分が甘かった。

 自分だけの力では全く歯が立ちそうにない。


 その現実をネネリは思い知らされていた。


「おいおいっ、もう終わりかぁ?」


 アギンダが挑発する。

 もう、こうなったら――。


「む、無理ですわ!? わたし、やはりあなたがいないと!」


 ネネリはニーニャに縋るしかなかった。

 情けないけど、仕方がない。


「えっと、わたしがいても何の役に立たないと思いますけど」


 ネネリに引っ張られたニーニャはそう言って前に出る。


「おいおい、2対1とは卑怯じゃねぇか! まぁ、俺は全然かまわないけどよ!」


 そういうわけで決闘にはニーニャも参加する運びになった。


(これなら大丈夫ですわね)


 内心ほっとするネネリである。



「おい、あの子は誰だ?」

「いや、見たことがない顔だな」


 現れたニーニャに冒険者たちは関心を示した。


「新人だよな、あの子」

「なら、アギンダの勝利に変わりはないか」

「フード被っていて顔が見えないな」

「でも、あれは絶対かわいいって」

「俺、あの子のファンになろうかな」

「お前っ、ネネリちゃんを裏切る気か」


 誰もニーニャが出てきたところで、アギンダの勝利は揺るぎないと確信していた。



「ネネリさん、早く魔法であの男をやっつけちゃいましょうよ」

「わたしにはあれ以上の魔法は無理ですのっ!」

「え?」


 どういうことだろう? とニーニャは考えた。

 ネネリの魔法さえあれば決闘は一瞬でかたがつくのに。

 いや、待てよ。

 ネネリの魔法を受けたらあの男は死んでしまうのではないか?

 決闘で殺傷なんて御法度だ。

 だから、ネネリは強い魔法が使えないんだ。


 全てを察したニーニャだった。


「わかりました。わたしに任せてください」


 したり顔で頷くニーニャだった。


 確か、このウィンの街にいる冒険者の多くは初心者だと聞いていた。

 なら自分でも倒せるか、と判断する。


「おいおい、いつまで待たせる気だ?」


 アギンダがそう言う。


「いえ、もう大丈夫です。ネネリさん、下がってくれませんか?」

「あん? 今度はそっちのお嬢ちゃんが相手するのか? おいおい、俺も舐められたもんだなぁ」


 そう言ってアギンダは笑う。


「俊敏さ【バフ・改】」


 次の瞬間。

 ニーニャがその場から消え失せた。

 誰もがそう錯覚した。


「あの、ちゃんと本気で相手してくれませんか?」


 トン、と目の前にいたニーニャが短剣の剣先をアギンダの首筋に当てる。


「あ――――ッ!?」


 アギンダは口を開いて硬直する。


「おい、今なにが起きた?」

「一瞬で移動しなかったか?」

「おい、そんなすげぇスキルをあの女の子が持っているとでもいうのか?」


 見ていた冒険者たちが響めき出す。


(ホント何者なのよ、あの子は)


 それはネネリも同様だった。

 ニーニャ自身が戦うところは初めて見る。


「それじぁ、次は真面目にやってください」


 短剣をしまったニーニャがアギンダから一旦離れる。


「そ、そうだな……」


 アギンダは冷静を装いつつも内心は動揺していた。

 さっき、なにが起きたのか全く理解できていなかった。


「それじぁ、準備はいいですか?」

「あ、ああ、構わねぇよ」


 決闘は一度仕切り直すことに。


 そして、ニーニャとアギンダの激闘が始まるのだった。

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