―16― ニーニャちゃん、家に行く

「わーっ、たくさんもらえましたねーっ!」


 報酬金をもらったニーニャが喜ぶ。

 ちなみに、Dにランクに格上げになった冒険者カードも一緒にもらった。


 思えば【灰色の旅団】にいた際には報酬を直接もらうって経験がなかった。

 だからか初めての経験にニーニャはテンションがあがっていた。


「それで、報酬金の割合はどういたしましょうか?」


 と、ネネリが言う。

 そうだ、これはネネリと一緒に狩りをしてもらった報酬だ。

 全部もらえるわけがなかった。


 報酬金というのは貢献度に応じてその割合が変わる。


(えっと、わたしなにをやりましたっけ?)


 ニーニャは狩りのことを思い出していた。


(あれ? わたし一体も魔物倒していないや……)


 全部ネネリの魔法で一撃で済んだため、ニーニャの出番はなかった。

 つまりニーニャが報酬をもらう資格はないのではなかろうか。


「ネネリさんに報酬は全部あげます……」


 泣く泣くニーニャはそう言った。


「な、なんで、そうなりますの!?」

「だって、わたし魔物一体も倒していないので、報酬をもらう資格がないです」

「いえ、ですからあなたの【バフ】がなければ、わたくしだけでは魔物を倒せませんでしたし……」

「ネネリさん優しいから、わたしに気をつかって……っ」

「別にそういうわけではないのですが……」


 ネネリは困ったように眉をひそめてから、


「えっと、あなたのその指輪がなければこんなに楽に狩りはできませんでしたわ」


 といった。

 確かにニーニャのアイテムボックスがなければ、素材を持ち帰るのにもっと苦労しただろう。


「では、1割だけ報酬をもらいます」

「だから、なんでそうなりますの!?」


 ネネリは発狂した。


「はい、これがニーニャ分ですわ」

「えっ、こんなにもらっていいんですか?」

「当然ですわ。あなたには、これだけもらう権利があります」


 ネネリは強引に報酬金を五分五分に分ける。

 ネネリの内心としてはニーニャのほうが多くもらってもいいような気がしたが、このほうが角も立たないだろう。


「ありがとうございますネネリさん、えっと……」


 ニーニャは報酬金の一部をネネリに渡す。


「これ、剣の代金です」


 狩りに行く前、ネネリからお金を借りて剣を買った。

 その分を返したのだ。

 本当は少しずつ返していく予定だったが、剣が安いジャンク品だったことと、予想外に多い報酬をもらえたので剣の代金を返しても十分の額がニーニャの手元には残る。


「そういえばニーニャはどこに住んでいますの?」

「えっと、それはこれから考えようと」


 これだけお金があけば、泊まれる宿は見つかるだろう。


「でしたら、わたくしのお家にいらっしゃいませんか?」

「いいんですか?」

「ええ、大歓迎ですわ」


 そんなわけでニーニャはネネリの家に伺うことになった。





 ネネリの家は馬車を使って2時間のところにあった。


「豪邸!?」


 着いて思った一言だった。


「お帰りなさいませお嬢様」

「メイドさん!?」


 出迎えに来たメイドを見て、また驚くニーニャだった。


「この子、当分家に泊めますので、客人として扱ってくださいまし」

「はっ、かしこまりました。ネネリお嬢様」


 そう言ってメイドは恭しく頭を下げる。


「ネネリさんってもしかしてお貴族様?」

「ええ、まぁ貴族といっても下級貴族ですが」

「それでもすごいですよ! もしかしたら知らずして無礼な態度とっていたかも」

「別に今まで通りで構いませんわよ。逆に態度を変えられるとわたくしが困ります」

「は、はい! わかりましたっ」


 そう言われても緊張してしまうニーニャだった。


「ねぇ、その子だーれ?」

「ネネリが女の子を連れてます」


 屋敷の中に入ると、奥から女の子が2人やってきた。

 ネネリより年上に見える。

 お姉さんだろうか?


「ニーニャと言います」


 挨拶をしなきゃ、と思いニーニャは名乗る。


「私はカエリ。エルガルト家の長女。こっちは」

「ニナでーす。次女をやってまーす」


 と、それぞれが挨拶をする。

 長女と次女。ネネリは三女ってことか。


「わぁ、ニーニャちゃんっていうのかー。かわいいねぇ」

「お姉様方! この子はわたくしのものですので、近寄らないでくださいまし」


 近づいてきたニナを威嚇するように、ネネリがニーニャを引き寄せる。


「えー、いいじゃん。ちょっとぐらい触らせてよー」

「駄目ですわ。お姉様方はニーニャの教育に悪いですもの」

「なんだとこらーっ、私のこと馬鹿にしてんのかー」

「実際、馬鹿でしょうに」

「あー、今の完全にキレたねー」


 ニナはそう言って腕まくりをする。

 完全に喧嘩する流れだ。

 とめなくていいのかなーっと、長女のカエリを見るが、彼女はニコニコとわらっているだけで特に介入する気配はない。


「ほらニーニャ、わたくしの部屋にいらっしゃいなさい」


 そう言ってネネリはニーニャの背中を押す。


「おい、逃げる気か。こらーっ」


 と、ニナが叫ぶがネネリは我関せずといった調子で部屋に向かった。

 ニナも追ってくることはなかった。





「すみません、わたくしの姉が失礼をして。驚かれましたでしょ」

「いえ、全然大丈夫です」


 とは言いつつも、本当は驚きっぱなしだった。

 ニーニャは経験上、同い年と関わったことか少ないし、姉妹なんて見たこともあまりない。

 さっきのやりとりは本当に喧嘩しているようにも見えたし、冗談を言い合っているようにも見えた。そのどっちなのかニーニャには見当つかなかった。


「それにしてもすごい部屋ですね」

「そんなことはないと思いますけど」


 そうネネリは謙遜するが、本当にすごい部屋だった。

 ベッドになぜか天井がついているし、キラキラした小物もたくさんある。それに本もいっぱいだ。

 ニーニャが持っているものなんて指輪と短剣ぐらいしかない。


「そういえば、ニーニャはどちら出身でありますの?」

「ネルソイ出身です」

「あら、そうなんですの。なら、ご両親もネルソイにいらっしゃるんですか?」

「えっと、はい……」


 本当は両親なんていないのだけど、ネネリの豪邸を見たあとのせいか、つい隠してしまう。


「その歳で親元を離れて冒険者になるなんて、わたくしじゃ考えられませんわ。ホントあなたはすごいですわね」

「そ、そうかな……」


 褒められてニーニャは照れる。

 別にすごいなんてことはないと思うけど。


「そうですわ、あなたの年齢っておいくつですの?」

「15ですけど」

「まさか、同い年とは……」


 ぼそり、とネネリが言う。

 もしかして年下だと思われていた?


「そうだ、夕飯の前に一緒にお風呂にいきませんこと? この家のお風呂すごく大きいですわよ!」

「大きいお風呂……!」


 それはすごく魅惑的な響きだ。

 ぜひ、入りたい。


「では、早くいきましょ」


 ネネリはニーニャの腕を引っ張る。

 お風呂、すごく楽しみだ。

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