―17― ニーニャちゃん、お風呂!

「おーっ、でかーい!」


 本当にでかい風呂だった。

 自ずとテンションもあがる。


「ふふっ、気に入ってもらえてなりよりですわ」


 それから石鹸を使って体を洗い、髪をネネリに洗ってもらう。


「あなたの髪、見たときから触ってみたいと思ってましたの」


 ネネリはわさわさとニーニャの髪を触っていた。


 それからお互い湯に浸かった。

 こうして肩までゆったりと湯に浸かるのは初めての経験だ。

 これはなかなか気持ちがいい。


「わたし毎日このお風呂に入りたいです」 

「わたくしの妹になれば、いつでも入れますわよ!」


 とか言って抱きついてくる。

 妹はなろうと思ってなれるもんじゃないと思う、という正論を頭に浮かべて――


 むにゅっ、となにかが当たった。


(はう!? 大きい)


 なにがとは言わないがネネリのそれは大きかった。

 自分のは……平らだ。


「シャーッ!」


 ネネリを敵と認識したニーニャはネネリから離れて威嚇することにした。


「あら、もしかして反抗期ですの?」


 と、ネネリはよくわからないことを口にしていた。





 風呂をあがったら髪を乾かして、それから夕飯の時間だ。


「ネネリがお友達を連れてくるなんて珍しいわね」


 同席しているネネリの母親がそう言う。


「いいなー、私もニーニャちゃんとお風呂入りたかったなー」

「ニナ、あんまり困らせちゃダメよ」


 姉のカエリとニナも同席していた。

 それと、奥にはネネリの父親も同席している。

 優しそうな母親とは対照的に父親はしかめっ面をしているせいか、すごく怖い。

 あとは兄が2人いるらしいが、今はこの屋敷にいないらしい。


「わたしなんかが食事をご一緒してもよろしいんですか?」


 料理もすごい豪勢だし、周りには使用人たちがせっせっと食事を運んでいる。

 ニーニャの身分なんて底辺といっても差し支えない。

 だというのに貴族と同席なんて。


「ニーニャ、気を張る必要なんてありませんわ。わたくしはあなたを客人としてご招待したんですから、わたくしたちはあなたを最大限にもてなす義務があります」

「そーそー、それに貴族なんて肩書きだけで、実際は大したことないからねー」

「まぁ、お姉様はもっと貴族らしく振る舞ったほうがよろしいかと思いますけど」

「なにおー!」


 ニナは腕をまくって立ち上がった。 


「だからそういうとこが、はしたないのですわ」


 ネネリがそう言うと、他の家族が笑い出す。


「ごめんなさいね、ニーニャさん。うち、変な家庭でしょ」


 姉のカエリがそう言う。


「そ、そんなことはないと思いますけど……」


 ニーニャには家族がいない。

 だから変な家庭か否か判断しよがなかった。


(仲が良さそうでいいな)


 とはいえ羨ましくはあった。





 夕食後はネネリの部屋でゆっくりしていた。


「やっぱり似合うと思ってましたわ!」

「えぇ……そうですか?」


 今ニーニャはネネリの服を着ていた。

 白を基調にしたトップスに紺色のスカート。フリルがたくさんついてあり、いかにもお嬢様って感じの服だ。


 しかも髪も結んでもらいツインテールにしてもらった。

 ネネリはいつも髪をくるくる巻いているため、髪をいじるのが得意といっていた。


「その服、気にいったならあげますわ」

「流石に悪いですよ」

「いえ、どうせ今のわたくしでは小さくて着れなくなった服ですもの。ですから、もらってくださいまし」

「そ、そういうことなら……」


 小さくなったって具体的にどこがだろうか? やはり胸か。


 それから他の服もたくさん着た。ちょっとしたファッションショーである。

 ちなみに、それらの服も貰うことができた。アイテムボックスがあるので、いくら物が増えても平気だ。





 夜中、ニーニャが寝てから。

 ネネリは1人廊下を歩いていた。 


「お父様、入りますわ」

「すまないな、夜中に呼び出して」

「いえ、構いませんわ」


 父親の部屋に入るとネネリはソファに腰掛ける。


「それで、あの子はなんなのだ?」


 単刀直入にそう聞いてくる。

 ネネリも恐らくその話だろうと思っていたので、特に驚きはしない。


「ニーニャのことですか?」

「ああ、そうだ。あれはただの平民だろう。それを客人扱いで招くとはどういう了見だ?」


 普通、平民を客人としてもてなすなんてことは有り得ない。

 だというのに、ネネリは父親の許可なくそれを断行した。

 父親がこうして咎めるのは当然といえる。


「単純ですわ、ニーニャはただの冒険者でありません。あれは恐らく歴史に名を残す冒険者です。親交を深めるのは当然ですわ」

「どういうことだ?」


 それからネネリは説明した。

 今日あったことを一通り。


「なるほど」


 父親はそう言って頷く。


「聞いた話だけではなんとも断定できないが、お前の話は大変興味深い。今後もその子と共に行動をしなさい」

「ご理解いただきありがとうございます」


 ネネリは頭を下げ部屋を出た。


 父親の理解を得られて安心する。

 恐らく大丈夫だろうという目論見はあったにせよ。


 まぁ、ネネリとしては打算的な考えはなく、単純にニーニャのことが気に入ったから招いたのだが。


(ホントおもしろい子ですわ)


 明日はなにを見せてくれるんだろう、そんなことを考えていた。

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