―43― ニーニャちゃん、絶好調!
「私とニーニャはどっちも孤児院出身。そして【灰色の旅団】というクランに引き取られた……」
それからネルは話した。
【灰色の旅団】で行われていることを。
そして自分がニーニャにした罪も包み隠さずに話した。
「【灰色の旅団】は脱退を許さない。もし私がみんなのパーティーに入ったら、脱退したと見なされ【灰色の旅団】と敵対することになる。それにあなた方を巻き込むわけにいかない」
一通り話し終えたネルは口を閉じて様子をうかがった。
ネネリもヴァラクも話の内容が衝撃的だったのだろう。呆然とこっちを見ていた。
「その――」
ネネリが口を開いた。
「大変申し訳ありませんわ」
なぜかネネリが頭を下げていた。
「わたくしは貴族として、あなた方のような子供を守る義務があります。それが全くできていなかった。本当に申し訳ございませんわ」
ネネリは頭を下げたままそう口にしていた。
まさか謝られるとは思わずネルは狼狽してしまう。
「ネネリちゃんが謝ることなんてないよ!」
ニーニャがそう言う。
ネルも同意見だった。
「ニーニャ、よくがんばりましたわね」
ふとしたときには、ネネリが隣にいたニーニャを強く抱きしめていた。
「あなたはわたくしが命をかけて守りますわ」
「……ネネリちゃん」
ネネリの言葉には、強い決意のようなものが感じられた。
「ネル、あなたも過酷な状況下でよくがんばりましたわね」
「責めないの……?」
「温室育ちのわたくしにはあなたを責める権利はありませんわ」
軽蔑されると思っていただけに、想像と違う反応にネルは居心地の悪さを感じる。
「ネル、あなた【灰色の旅団】に戻るつもりなの?」
隣にいたヴァラクがそう口にする。
「そうね。それしか私に選択肢はないわ」
「そんなの絶対駄目だよ! そんな意味わかんない組織にネルがこき使われるとか、そんなのヴァラクちゃんが絶対に許せないし!」
「別に【灰色の旅団】は悪いだけの組織じゃないわ。【灰色の旅団】に所属することで様々なメリットを享受できる。だからあなたが気に病むようなことはない」
「でも……っ」
「それとも、私に【灰色の旅団】と敵対しろと強要するのかしら」
「そういうわけじゃ……」
ヴァラクは押し黙る。
これで納得してもらえたようだ。
「わたくし1つだけ気がかりなことがあるのですが」
ふと、ネネリが口を開いた。
「【灰色の旅団】は脱退を許さないとさきほどおっしゃりましたわよね」
「それがなに」
「ニーニャの場合はどういう扱いですの? ニーニャも脱退しているとみなされ、このままニーニャがわたくしたちと行動を共にしたら、【灰色の旅団】に追われるのでありませんの?」
そういえばそうだった。
ネルは自分のことで頭が一杯でニーニャの立場まで頭が回っていなかった。
「あ……そっか」
ニーニャも今そのことに気がついたようだ。
「ニーニャは死亡しているという扱いだから、大丈夫なはず」
「ですが、いつかはバレますわよね。あなたが、ニーニャの生存を知ってここまで追ってきたように、【灰色の旅団】がニーニャの存在に気がつくのも時間の問題だと思われますが」
そのとおりだ。
しかもニーニャの【バフ】は有用すぎる。
そのことに【灰色の旅団】が気づけば、是が非でもニーニャを確保しようと動くだろう。
「ネルちゃん、一緒に逃げよう!」
ニーニャが立ち上がってそう主張した。
「わたしとネルちゃんで一緒になって【灰色の旅団】から逃げ回ろう! だ、ダメかな……?」
不安そうにニーニャは訪ねてきた。
断られるかも、と思っているのだろう。
ネルは自分が脱退することで周りに迷惑をかけたくなかった。
けど、ネルの行動と関係なくニーニャは【灰色の旅団】と敵対することになる。
むしろネルが【灰色の旅団】に戻ってしまったら、自分がニーニャを捕まえろ、なんて命令が下される可能性まである。
「……ダ、ダメではない」
だから断る理由が見つからなかった。
「ニーニャ、その一緒に逃げ回る中には当然わたくしも含まれているのでしょうね」
「えっと、いいの? ネネリちゃんは【灰色の旅団】と関係ないから迷惑をかけることになるけど……」
「わたくし先程言いましたわよ。あなたはわたくしが守ると。それともわたしくを仲間外れにするおつもりですか?」
ネネリは不貞腐れたような表情をしていた。
「ううん、ネネリちゃんも一緒に来てくれたら絶対ぜぇーったい楽しいから! 一緒に来て」
「ふふっ、仕方ありませんわね」
「ヴァ、ヴァラクちゃんも当然一緒についていくんだし! 仲間外れにしないでほしいかも」
「うん、これでみんなで一緒に行動できるね」
あれ? 気がついたら4人全員で行動することになっていた。
「……なんで、誰も私のこと責めないの?」
知らず識らずのうちに、そう口走っていた。
そう、罪には罰が必要だ。
このままだと自分かせ罰せられずに終わってしまう。
「ネル、あなたがニーニャに罪悪感を抱いているのでしたら、わたくしが代わりに罰を与えてあげますわ」
ネネリがネルの心情を察してくれたのか、そう言葉を発した。
「次は全力でニーニャのことを守りなさい。それがあなたの罰ですわ」
ニーニャを守る。
それが自分の罰だというなら、全力をかけてやろう。
「わかった」
ネルは力強く頷いた。
「そうだ、せっかくだしさ。パーティー名決めようよ」
「ふむ、ヴァラクにしては悪くない案ですわね」
「だったら可愛い名前がいいです!」
「……私は別になんでも」
「はいはーい、ヴァラクちゃん、とてもいいのを思いつきましたー!」
「わぁーっ、なんですか。教えてください」
「ふふん、【漆黒の翼】。どうよ?」
「……? どういう意味ですか?」
「ダサい」
「痛々しい名前ですわね」
「ちょ、なにその反応。流石にヴァラクちゃん傷つくんだけど! そう言うんだったら、みんなも案だしてよね! はい、まずネネリ」
「えっ、わたくしですか。そ、そうですわね。【ニーニャ親衛隊】とかどうでしょうか」
「それ、まるでヴァラクちゃんたちがニーニャの下僕みたいじゃん。却下よ!」
「【漆黒の翼】よりマシ」
「むぅ、わたしくこういうのは苦手ですわ」
「はい、はーい。ニーニャちゃん、いいの思いつきましたー!」
「それじぁ、ニーニャ選手どうぞ!」
「ふふん、【猫ちゃんかわいい】というのはどうですか?」
「えっ、それパーティー名なの?」
「さすがわたくしのニーニャですわ。それで決まりですわね」
「ネネリはニーニャに甘すぎるのよ、もう」
「それでも【漆黒の翼】よりマシ」
「さ、さっきからネル辛辣すぎない!? はい、次はネルの番!」
「……え、えっと【黒の旅団】」
「【灰色の旅団】の色を変えただけじゃん。はい、却下!」
「【漆黒の翼】と発想が似てますわね」
「うっ」
「はい、ニーニャちゃん、もっといいの思いつきました!」
「うーん、あまり期待できないけど、ニーニャ選手どうぞ!」
「【リトルパーティー】!」
「えっと、ちなみに由来は?」
「このレストランの名前です」
「えー、すごい雑なんだけど」
「ですが、悪くないのではありませんの?」
「同意」
「パーティーってところがわいわいする感じですごく楽しそうだから、絶対いいと思うの」
「まぁ、みんながそう言うならヴァラクちゃんは反対しないけどさ」
「それじぁ、決まりですわね」
「ヴァラクちゃんたちのパーティー名は――」
「「【リトルパーティー】!!」」
これにて完結です。
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【バフ】しかできない無能ちゃん。クランから追放されたおかげで、クラン全員を【バフ】する苦行から解放される。自分一人だけ【バフ】したら、なんか最強でした。 nk @kamon
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