―02― 全ての元凶は頭痛です

 ニーニャのユニークスキル【バフ】には他のスキルとは違うある特徴があった。


 それはスキルの成長。

 通常のスキルは手に入れた瞬間、そのスキルの強さが決まっている。


 しかし、ニーニャのスキル【バフ】は使えば使うほど強くなっていく仕組みだった。


 だからこそ、クランの面々はニーニャにスキルの発動を強要した。

 たとえ戦闘とは関係ないときでも、ニーニャにスキルを長時間発動させた。


 そのうち、最初は数分が限度だった【バフ】も数時間持続させても問題なくなった。

 

 それから、ニーニャに他のスキルの獲得するよう強制させた。

 剣を持たせて無理矢理魔物と戦わせたり。

 魔導書を一日で暗記させたりと、過酷な特訓を無理強いした。

 けれど、これらには一切効果はなかった。

 結局、ニーニャが【バフ】以外のスキルを獲得することはなかった。

 

 そんなわけでニーニャにつけられたあだ名は【バフ】しか能のない無能。



 それでもニーニャの【バフ】は通常のバフスキルよりは有能だった。


 通常のバフスキルなら、せいぜい1.1倍の強化に対して、ニーニャの【バフ】なら2倍以上の効果。

 持続時間も通常ならせいぜい5分なところが、ニーニャの【バフ】なら1時間持続した。


 そんなニーニャの【バフ】能力により、クラン【灰色の旅団】は急成長をしていくことになった。


 そしてクランはますますニーニャに負担を強いることになった。


 そして、ニーニャの恩恵にあずかりたいと思った冒険者は次々とクラン【灰色の旅団】への入団を希望した。

【灰色の旅団】の人数が増えれば増えるほど、ニーニャの負担はより加速した。

 そして皆がニーニャの【バフ】の効果を授かりたいと主張した。

 だからニーニャはあらゆる冒険に駆り出され、常に【バフ】することを強要され続けた。




 そうやってニーニャを酷使し続けた結果。

 ある日を境にニーニャは壊れた。


 当然といえば当然の結果だった。

 ニーニャとはまともな会話さえままならなくなり、起きているのか寝ているのかわからないようなぼーっとしていることが増えた。


 ただ、それだけならマシだった。


 ニーニャの【バフ】の効果が日を追うことに弱くなっていったのである。

 原因は不明。 


「お前は【バフ】しかできない無能なのに、その【バフ】さえ弱くなっていったら、お前はただの荷物じゃねぇか」

「お前は戦闘ができないお荷物なんだから、【バフ】だけはしっかりやれや」


 そう言われることが増えた。


 けれど言われたニーニャは壊れているせいで特に反応を示さない。その態度に腹が立った面々はニーニャを直接殴るなんてことも横行した。

 とはいえ、ニーニャは殴られても特にそれといった反応を示さなかったが。


 また、ニーニャの【バフ】の効果をせめて元に戻そうと、クランはさらにニーニャを酷使するようになった。

 けれど、いくらニーニャに【バフ】を使わせても、【バフ】による上昇率は弱くなる一方だった。


 果てにはニーニャの【バフ】の効果はほんの僅かとなってしまった。

 ニーニャはクランにとって不要な存在と化してしまった。


 最終的にニーニャはクランを追放され、ダンジョン内で捨てられた。







(頭が痛い……)


 ダンジョン下層で追放されたニーニャはじっと横たわっていた。

 この頭痛こそが、ニーニャが壊れた主な原因だった。


「ぐるぅうううううううう!」


 ふと見ると、うめき声をあげてゆっくりと近づく多足之龍マルチプレス・ドラゴンの姿が。


(食べられるのかな……?)


 と、ニーニャは思った。

 けれど、特に危機感のようものは感じなかった。

 食べられてしまってもいいや、とニーニャは思っていた。


 正直、生きるのに疲れてしまった。


 頭痛により思考力が低下した今のニーニャは、生きるということに関してどうしても意欲的になれなかった。


 そんなときである。


 ――スキル【バフ】がレベル99になりました。カンストしましたので、スキルが進化します。


 天の声が聞こえたのである。

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