―11― ニーニャちゃん、狩りに出る
ニーニャはネネリとパーティーを組むことになった。
(ご飯のお礼がしたいしがんばらなくちゃ)
ニーニャは張り切っていた。
思えば、今まで孤児院時代を除いて、同年代の少女と仲良くしたことがなかった。そういう意味でもニーニャはわくわくしていた。
ネネリはスラッとした背筋に、髪をくるくると巻いていた。
手には杖を握っており、恐らく魔術師だろう。
「そうだ、あなた武器が欲しいと言っていましたわね」
先行するネネリが振り向いてそう言った。
「でもお金持ってないですし」
持っているとすれば、宝箱に入っていた指輪ぐらいだ。売ればお金になるのだろうか?
まぁ、気に入っているので売るつもりは毛頭ないが。
「なら、わたくしが買ってあげますわ」
「えっ、流石にそれは悪い気が」
ご飯と違って武器は高価だ。
流石にそれをいただくのは。
「別に気にする必要ありませんわ。わたくしお金はありますの」
「で、でも……」
「それに武器がないと、あなたとパーティーを組むわたくしも困りますわ」
そうネネリが言うが、やはりニーニャは納得しきれなかった。
それを察したネネリがこう言う。
「それでしたら、あくまでもわたくしがあなたにお金を貸して、それで武器を買うってのはどうでしょう。返済金はわたくしと魔物の狩りをした際に稼いだお金から少しずつ返していくのはいかがかしら?」
「それなら、いいかな」
「では、早速武器屋にいきましょう!」
善は急げ、ということで武器屋に直行した。
「どんな武器か希望はありますの?」
「できれば軽いほうが」
重いと【バフ】していないときに持ち歩くのに苦労しそうだ。
「なら、短剣ですわね」
そう言ってネネリは短剣を持ってくる。
「高そう……」
ネネリが持ってきたのはギラギラの装飾が施されており見るからに高そうだ。
「ずっと使い続けるんですから、こういうのは良いものを買わないと」
と、ネネリは言うが限度があるだろう。
「これでいい」
ニーニャが選んだのは隅にゴミのように雑に置かれている短剣だった。
見ると、錆びており刃もガタガタだ。
「そんなのでよろしいのですか?」
「うん、あまり武器にお金かけたくないので」
ニーニャの【バフ・改】さえあれば、どんな剣でも最低限の仕事はするだろう、というのがニーニャの目論見だ。
店員に聞くとジャンク品ということで、とても安く買うことができた。
「ありがとうございます、ネネリさん」
ニーニャは頭を下げる。
「お姉様と呼んでも差し支えないわよ」
「それは意味わかんないので、遠慮します」
たびたびネネリはニーニャに「お姉様」と呼ばせようとしてくるが、意味がわからないので断っている。
ネネリは不満そうに口を膨らませるが見ないことにした。
「武器も手に入ったんで早く狩りに行きたいです」
と、ニーニャは主張し早速狩りに行くことになった。
◆
ウィンの街の城壁を抜けた先に森林がある。
その森林には初心者でも狩りやすい魔物が生息しているとのことだ。
「ちなみ、ニーニャさんはランクはいくつですの?」
「Fランクです」
「では、初心者ですわね。心配しないでくださいませ、わたくしが手取り足取り教えますので。ちなみにわたくしは、すでにランクはEですの」
「す、すごいですね……」
ニーニャはこう見えて冒険者歴8年ではあるが、魔物は一度も倒したことがないのでFランクである。
初心者ではないと否定してもよかったが、その場合【灰色の旅団】のことまで説明しなくてはいけなくなるので、それは避けたかった。
なので初心者のフリをするのが無難か。
「
ふと、見ると遠くに
なので、見つからないようにできる限り遠くから狙うのが定石だ。
「そうだ、あなたの支援スキル試してみたいですわ」
ネネリがそう提案する。
「そうですね……でも、あまり期待しないでください。大した効果はないので」
ニーニャは思い出していた。
自分が捨てられた原因に【バフ】の能力が大幅に弱くなっていたことを。
だから大した効果はないだろう、と踏んでいた。
「ネネリさんは魔法使いですよね?」
「ええ、そうですわ」
「魔法攻撃力【バフ・改】」
と、ニーニャはスキルを発動させた。
「それじゃあ試してみますわ」
そう言って、ネネリは杖を持って唱えた。
「
ドゴンッ! と耳をつんざくような大きな音が。
「えっ、すごい」
ニーニャは思わずそう呟く。
辺り一帯が巨大な炎の塊で焼けたからだ。
「えっ……?」
ネネリも困惑していた。
今までこんな火力の魔法は放ったことがない。
「わーっ、ネネリさんすごいですねーっ! こんな威力ある魔術みるの初めてですよーっ!」
ニーニャが手放しで褒めてくれる。
ネネリにとって、それは悪い気分じゃなかった。
「ええ、わたくしにとって、この程度魔法お茶の子さいさいでしてよ」
思わず調子にのってしまったネネリだった。
「まぁ、でも強すぎて
見ると
「ん、それでしたら、次は威力を押さえてみますわ」
そう言ってネネリは次の標的を探す。
見つけた。
遠くに
「魔法攻撃力【バフ・改】」
と、ニーニャがネネリを【バフ】する。
その上で、
「
と詠唱した。
ドゴンッ! 再び、耳をつんざくような音が。
「わーっ、ホントすごい魔法ですねーっ!」
と、ニーニャが喜んでくれる。
おかしい。
ネネリはそう思っていた。
自分では相当威力を押さえたつもりだ。
やはりニーニャの【バフ】の影響か?
けど、それだとニーニャの反応がおかしいことになる。
「けど、もう少し威力を押さえないと素材が回収できないですよ」
「え、ええ。そうみたいですわね……」
また、少し歩いて
「あの、ニーニャさん。次は【バフ】をする必要ないですわ」
「あ、はい。わかりました」
そうネネリは指示を出して。
詠唱した。
「
ポフッ! と、ネネリのよく見たことがある大きさの火炎弾が放たれる。
その火炎弾は
「これなら、無事素材を回収できますね」
そう言って、ネネリは短剣を手にして
「…………」
ネネリは考えていた。
どう考えてもニーニャが原因だよな、と。
「あ、あのニーニャさん……」
「はい、なんですか?」
「あなたの【バフ】って普通ではありませんわよね?」
「えっと、そうですね。ユニークスキルなので」
確かにユニークスキルと呼ばれる生まれつきスキルを持っている人は珍しいが、ネネリが聞きたかったのはそういうことじゃない。
「いえ、そういうことではなくて、あなたの【バフ】ってどのくらい威力が上昇するんでしょう」
「大したことないですよ。全然使えないってよく言われてきたので」
んなわけあるかっ、とネネリは心の中でつっこむ。
なぜ、こうも自覚がないのだろう、とネネリは疑問に思った。
「えっと、ですね。まず【バフ】がない状態でのわたくしの全力がこれですわ」
そう言って、ネネリは通常時の
「そして、これが【バフ】された状態の威力でありますわ」
ニーニャに【バフ】してもらった上で、再び
ドゴンッ! と何十倍にも膨れ上がった
「これで、どういうことだかわかりますわよね?」
これだけ説明すればニーニャもわかってくれただろう、とネネリは思った。
「ホントネネリさんの魔法すごいですよねーっ! これならもっと強い魔物も倒せるんじゃないですかーっ!」
すごく尊敬の眼差しでニーニャが見つめてきた。
これだ、と思った。
これがネネリの求めていたものだった。
かわいい女の子に慕われたい。それがネネリの根底にある欲望だった。
「そうねっ、もっとわたくしのこと尊敬してくれて構わないわっ!」
「で、でもっ、わたしネネリさんに比べてなにもできないのに、一緒にパーティなんて組んだら迷惑じゃないですか?」
ニーニャが小動物のような眼差しでネネリを見つめてくる。
(か、かわいいっ)
ネネリはそんなことを考えていた。
「コ、コホンッ、わたくしのことお姉様と呼ぶなら、そうね、今後もパーティー組んであげても構わないわよ」
「いや、それは意味わかんないのでお断りします」
辛辣に断られた。
ネネリはショックを受けた。
「で、でも妹にはなれないですが、パーティは組んで欲しいです。お金も返さなきゃだし」
不安そう訴えかけるニーニャを見て、ネネリは思った。
(妹にしたいですわっ)
と。
「ニーニャ、わたくし、あなたを一生離さないですわ!」
そう言ってネネリはニーニャを抱きしめる。
(そして、いつかお姉様と呼ばせて見せますわっ!)
と、ネネリは心に誓っていた。
なお、ニーニャの【バフ】の威力がおかしい件はとっくにどうでも良くなっていた。
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