第二章 新しい出会い

―10― ニーニャちゃん、新しい街にいく

 さて、ダンジョンの外には出られたはいいがどうしたものかとニーニャは悩んでいた。

 ニーニャは灰色のフードをつけて歩いているせいか、すれ違う冒険者たちから畏怖の念を感じる。

 この都市で【灰色の旅団】というのはそれだけ影響力があった。


「ひとまずクランに戻らないと……」


 いや、待て待て。

 なんでクランに戻る必要があるんだ。


 ニーニャは思い出していた。

 クランから見捨てられたことを。


(ってことはクランから逃げる絶好のチャンスじゃない!)


 そうと決まれば即実行。

 まずはここネルソイ都市からの脱出。


「おい、お前ニーニャだよな……」


 ふと、見ると男の人がいた。

 その人も全身灰色の装備に身を固めており【灰色の旅団】というのは一目でわかる。

 やばい、見つかった。


「俊敏さ【バフ・改】、体力【バフ・改】」


 ニーニャは即座にその場に離れる。


「お、おい待てよ!」


 声が聞こえるがそれを無視してニーニャは走った。


(撒けたかな?)


 どうやら追ってくる気配は感じない。

 ニーニャちゃん、意外と足が速いかも? と自画自賛。


 とはいえ油断はできない。

 どこに【灰色の旅団】が潜んでいるのかわからないから。

 早くネルソイ都市から脱出しないと。



 そしてニーニャは次の町に向かうのだった。







 ネルソイ都市から離れたところにあるウィンの街。

 ウィンの街は初心者の冒険者が多く集まることで知られ、そして【灰色の旅団】の管轄外でもあった。


 ウィンの街にある冒険者ギルド内にて、一人の少女が様子をうがっていた。


(ホント冒険者って、ムサい男ばかりよね)


 少女――ネネリ・エルガルトはギルド内にて自分とパーティを組めそうな冒険者がいないか探していた。


 ネネリはエルガルト家の三女だった。

 おかげで二人の姉からは虐められてたりこき使われたりとあまりいい思い出がない。

 そういった経験から年上が大の苦手。


 パーティを組むなら年下かせめて同い年がいい。


(それもかわいい女の子から慕われたら最高よね)


 かわいい女の子が自分を「お姉様ー」と呼ぶのを想像して唇をニマニマさせる。

 ネネリは変わった趣向の持ち主だった。



 と、そんなことを考えていた最中。


 ギルドの扉を開けて入ってくる冒険者らしき人を見かけた。

 灰色のフードを被っており、顔はおろか性別すら判別つかない。


 背は小さい、自分より年下か。

 足取りが随分とヨタヨタしており危なっかしい。


「ねぇ、あなた」


 気になって話しかける。


「はい」


 振り返ると目があった。


(か、かわいい)


 瞬間、ネネリはそう確信した。

 大きな目、透き通るような銀色の髪。口が小さいのが小動物ぽい。

 顔は土で若干汚れていたけど、拭けば白く輝く肌に違いがない。


(妹にしたいわ)


 すでに欲望が渦巻いていた。


「あなた、わたくしと一緒に――」


 パーティを組まないか、と言いかけて。


 ぐぎゅるるるるるるるる、とお腹が鳴る音が聞こえた。


「お、お腹が空きましたー」


 フードの少女はそう言って、ネネリにもたれ掛かった。





「よく食べるわね……」

「ここ何日も食べていなかったので。ホント助かりました。えっと……」

「ネネリよ。ネネリ・エルガルト」

「わたしはニーニャと言います。ネネリさん、ご飯おごってくれてホントありがとうございます!」

「別にそのぐらいなんてことないわ」


 ネネリとニーニャは冒険者ギルドから出て、近くの食堂に来ていた。

 ニーニャのお腹を満たすためだ。


「それでニーニャさん、あなた冒険者よね?」

「はい、そうです」

「けど、見るからに装備とか持ってなさそうですけど?」

「あははっ、そうなんですよねー」


 ニーニャは頭をかきながらそう言う。


「ちなみに職業はなにか伺っても?」

「えっと、支援職、ですかね……」

「支援職?」


 聞き慣れない言葉にネネリは首を捻る。


「その味方を【バフ】させるのが得意なんです」

「ふーん、そうなのね? それ以外は?」

「いえ、他にできることはありません」

「え……?」


 バフスキル自体は悪くないスキルだが、それ以外のスキルがないとすると、本人は戦えないお人形さんみたいな扱いになってしまう。


「でも、最近自分も【バフ】させることができるようになったので、剣とか握って戦おうって思ってます!」

「あ、そうなんですのね」


 自分もバフさせられるなら最低限の仕事はできそうか。

 ホントは剣士なら剣術スキルの1つや2つは持ってほしいのではあるが。


「ねぇ、ニーニャさん。わたくし今一緒に冒険できるパーティーメンバーを探していまして。もし、よろしければご一緒にいかが?」

「えっ、わたしでよかったら、ぜひ! ネネリさんにお礼もしたいですし!」


 そう言ってニーニャは立ち上がる。

 よかった、頷いてくれて。


「それと、わたくしのことはぜひ、お姉様とお呼びください」

「えっ、意味わかんないです」


 真顔で断られた。

「むぐっ」とネネリは唇を噛む。


 ともかくニーニャとパーティが組めることになってネネリは大満足であった。

 ニーニャがバフしか使えないのは少々不安であるが。

 とはいえ、ネネリとしてはニーニャがどうしようもなく無能だったとしても問題はなかった。

 いや、むしろ無能こそ大歓迎だ。


 ネネリは誰かに慕われたい。

 なら、ここはニーニャに自分が頼りになるとこを見せようじゃないか!


 そして――


(お姉様と言わせてみせますわ!)


 ネネリは心の中で気合いを入れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る