―22― S級冒険者クラシス、いざ参る
ザックは突然現れた男に困惑していた。
金色の長髪をなびかせる端正な顔立ちの男。
「この俺を知らないとは無礼であるな」
「誰?」と言ったザックに対して男はそう答えながら剣を抜いた。
剣といっても刀と呼ばれる珍しいタイプのものだ。一般的な剣は両刃だが、刀と呼ばれるものは片刃でできている。
「では、参ろう。
そう男が言った次の瞬間。
3体いた
「す、すごい……」
あまりの早業にネロンがそう口にする。
ザックも同じ気持ちだった。
「お、おい、あれ、S級冒険者のクラシスじゃねぇか」
ふと、誰かの声が聞こえる。
「今の見たか。すげぇ、早業だったぞ」
「キャー、かっこいいー!」
「がんばってぇえええええ!」
「強そうな魔物がいるが、クラシスさんがいるなら安心だな」
見ると、大勢の人たちが自分たちの周りにいた。中には黄色い声援を送るものもいる。
「いつの間に、村に来てしまったみたいね」
ネロンの言ったとおり、目と鼻の先に村があった。
戦闘に必死で全く気がつかなかった。
恐らくここはラスター村じゃないかと、ザックは推測する。
「では、後は俺に任せたまえ。君たちは下がっていなさい」
「ありがとうございます、クラシスさん」
ザックはお礼を言って後方に下がった。
重症を負ったスートは弓使いのココが運んでいた。
ネロンには先にスートを優先させて治癒してもらう。
「私たち、助かったのね……」
ネロンは感慨深げにそう言った。
「ああ、そうみたいだな」
ほんの数十秒前は死を覚悟していただけに、いまいち実感が湧かない。
けど助かったのだ。
突然降って湧いたような幸運をザックは噛みしめる。
「クラシスさんがんばれぇえええええ!」
「あんな魔物、簡単にやっつけちゃえーっ!」
周りにいる村人たちが声援を送る。
誰もクラシスが負けると思っていなかった。
当然だ。
クラシスが数少ない伝説のS級の冒険者に対し、
「では、参ろう」
クラシスはそう言って刀を抜いた。
「
スキルを発動させたクラシスは圧倒的な速さで刀を振るった。
一瞬で、
スッ、とクラシスは刀を鞘にしまった。
「グゥゴォオオオオオオッッッ!!」
S級冒険者相手に
「すげぇええええええええええ!」
「流石、伝説のS級冒険者だ!」
村人たちが喝采をあげる。
「ホントすごいわ……」
ネロンが感心する。
「ああ、そうだな」
ザックは同意しつつ、心に湧き上がる思いを感じていた。
あれがS級の強さ。
(俺もいつかああなりたい)
圧倒的な強さを目の当たりにして、ザックに熱い思いが宿っていた。
と、誰もがクラシスの勝利を確信している最中。
「グゴギッ」
唐突に死んだはずの
「なんだあれ……?」
誰かがそう言葉を漏らす。
目の前のそれはさっきまでいた
黒い肌、さっきまでの丸い体型はどこかスリムになっている。
腕は細く、それでいて力強い。
ランクSS級。
そんな聞いたことのない現象に誰もが困惑していた。
「ふん、どっちにしろ俺の相手ではあるまい」
クラシスは刀を抜いて
「ああ、そうだよな。こっちにはS級のクラシスがいるんだ!」
「がんばれぇええええ、クラシス様ーっ!」
「あんな魔物、クラシスにかかれば、いちころよ」
村人たちが応援する。
誰もがクラシスが負けることを想定していなかった。
それは当然のことだ。
さっきあれだけの強さを見せられれば、クラシスが負けるなんて思うはずがなかった。
「では、参る」
クラシスは刀を握って踏み出し、
「
スキルを発動させた。
圧倒的な速さでクラシスは
「た、対応している……!?」
ザックは思わずそう言葉を漏らしていた。
「あの魔物、さっきより強くねぇか」
「おい、やばいんじゃねぇのこれ」
「いや、大丈夫だろう。だって、あのクラシスだぜ」
クラシスと
とはいえ、クラシスが負けているわけではなかった。
いや、むしろクラシスのほうが上だとザックは判断した。
一方的に斬撃を繰り返しているクラシスに対し、
このまま攻防を続けていれば、いずれ勝つのはクラシス。
とはいえ、スキルが永続的に続くならの話だが。
ニヤリ、と
次の瞬間。
クラシスの動きが遅くなる。
スキル、
その隙を
「ガハァッ!」
クラシスの腹に
クラシスは口から盛大に血を吐く。
すると、クラシスの体が勢いよく遠くに吹き飛ぶ。
ドゴンッ! と、音が響いた。
吹き飛ばされたクラシスの体が民家を粉々に破壊していた。
「おい、やばいぞ!」
「みんな逃げろぉおおおおおお!!」
「うわぁあああああああああああ!!」
村人たちは一気にパニックに陥る。
クラシスの次は自分たちだ。
クラシスは気絶したのか戻ってくる気配がない。
あれだけのダメージを受けたんだ。当然か。
「おい、ネロン! 今すぐ、クラシスさんを治してこい!」
ザックは立ち上がりネロンに指示を出す。
ネロンの治癒によりすでに傷は塞がっている。
「ザックはどうするの?」
「俺があいつをとめる!」
「そんなの無理だよ!」
「俺しかいないんだ! 俺があいつを止めないと村人たちが殺される」
「で、でも……っ」
「ネロンは早くクラシスさんを治してこい! 俺がクラシスさんが戻ってくるまで時間を稼ぐ!」
鬼気迫る表情で怒鳴った。
恐らく自分は死ぬだろう。けど、やるしかないッ!
それが、自分の使命だ。
「うんっ!」
ネロンは力強く頷いて走っていった。
「おい、
そう叫ぶと
「お前じゃ、俺の相手はできない」そう言われているようだ。
「うるせぇええええええ!」
ザックはそう叫んで剣を握る。
「――え?」
刹那。
まだ遠くにいたと思った
眼前には鋭い爪。
(俺は時間稼ぎもできねぇのかよ……っ)
そんな後悔が心の中を渦巻く。
これじゃあ、ただの死に損だ。
もっと自分が強ければ違ったのだろうか。
まぁ、今更そんなことを嘆いても遅いのだが。
(あれ――?)
ザックは首を傾げた。
まるで時間が止まったかのように、いつまで待っても自分の死が訪れない。
見ると、
そこには――
「ふー、やっと着きましたねぇー」
そう言って伸びをする少女の姿が。
銀色の照り輝く髪の毛。見るからに痩せこけている少女。
なぜ、
「グゥゴギャアアアアアア!!」
「おい、逃げろ!」
そう叫ぶのが精一杯だった。
「え?」
少女がそう言って、こっちを振り向く。
そのときにはすでに
死んだ。
ザックは少女の死ぬ瞬間を直視できなかった。
だから咄嗟に目をつぶってしまう。
(俺のせいで1人の市民が死ぬんだ!)
なんともやりきれない気持ちがザックを支配する。
「物理攻撃力【バフ・改】」
ドゴンッ! と風圧がザックを襲う。
「え――?」
目を開けたザックには目の前の光景が理解できなかった。
なぜか、
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