―07― ニーニャちゃん、オーガと戦う

 ニーニャは考えていた。

 どのタイミングで人喰鬼オーガとの戦闘に加わるべきか。

 あまり出しゃばりすぎても、初心者のためにならない。


 そもそもの話。


(今のわたしってどのくらい強いんだろう?)


 ふと、そんなことが気になったニーニャである。

【バフ・改】を自分にも使えるようになってニーニャは最低限の戦闘ができるようになった。


 とはいえ、ニーニャは言われ続けていた。


「なんでお前の【バフ】が以前より弱くなり続けているんだよ! 今じゃ、ほとんど効果がねぇじゃないか! この無能が!」


 と。


(だからわたしの【バフ・改】はそこまで強くないはず。それでも、彼ら初心者よりは強いみたいだけど)


 彼ら初心者がFランクとして、今のニーニャはDかEランクぐらいだろうかと推測する。


人喰鬼オーガのランクはどのくらいだっけ?)


 よく覚えていない。

 でも、そんなに高くなかったはずだ。

 そんなわけでニーニャ1人で人喰鬼オーガを倒せるのかどうか、計りかねていた。


(見た限り、ギリギリ勝てるかどうかかな)


 人喰鬼オーガの戦闘を見てニーニャはそう思っていた。

 実際、こうしてみると強い。


(さて、そろそろ参戦しないと、まずそう)


 見ると、俊敏な人喰鬼アギル・オーガが冒険者の一人にとどめを刺そうとしていた。


「俊敏さ【バフ・改】」


 ニーニャは一瞬で移動する。

 そして俊敏な人喰鬼アギル・オーガと冒険者の間に割り込む。


「防御力【バフ・改】」


 盾どころか装甲すらないニーニャは生身の体で受け止めるしかない。

 流石に無傷とはいかなかった。


 ニーニャは吹き飛ばされ、怪我を負う。


「自然治癒力【バフ・改】」


 ニーニャは一瞬で怪我を治す。

 前方を見る。

 俊敏な人喰鬼アギル・オーガはニーニャのことしか見ていなかった。

 どうやらヘイトを稼ぐことには成功したようだ。


「俊敏さ【バフ・改】」


 それからはニーニャと俊敏な人喰鬼アギル・オーガの壮絶な戦いが始まった。


 お互いトップスピードを出し、ダンジョン内を縦横無尽に駆け回る。

 そのあまりにも速いスピードは踏んだ地面が抉れるほど。

 偶然、地面にいた魔物は踏まれた瞬間、灰と化すことなんてこともあった。


 そして、隙さえあればお互い拳を何発も打ち込む。


「回避率【バフ・改】」


 攻撃を受けたら分が悪いのは経験済み。

 だからこそニーニャは攻撃を受けるのではなく回避することに主眼を置いた。


「物理攻撃力【バフ・改】」


 そして回避した瞬間、拳を打ち込む。

 そうやって確実にダメージを加えていく。


(やっぱり人喰鬼オーガなだけあって強いなぁ)


 と、そんなことを考える程度の余裕はあった。


(でも、思った以上にダメージを受けていないや)


 もうすでに何発もパンチを加えてたはずだ。

 だというのに俊敏な人喰鬼アギル・オーガは平気そうだ。


(あっ、皮が剥けている)


 ふと、そのことに気がつく。

 拳を酷使しすぎたせいだろう。殴っている箇所から血がでていた。


(やっぱりパンチじゃ限界か)


 そう結論をしたニーニャはすぐに行動を移す。

 一旦俊敏な人喰鬼アギル・オーガと距離をとる。


「少し、借りますね」


 そう言って、ニーニャはランドの剣を奪う。

 鉄でできた片手剣だ。


「えっ、ああ……」


 ランドが言葉を漏らしたときにはニーニャはすでにその場にはいなかった。


「よし、これでダメージを与えられる」


 再びニーニャは俊敏な人喰鬼アギル・オーガへと迫る。


「回避【バフ・改】」


 一度俊敏な人喰鬼アギル・オーガの爪をかわしてから、


「物理攻撃力【バフ・改】」


 剣の狙いを俊敏な人喰鬼アギル・オーガに定めて、


「切れ味【バフ・改】」


 剣そのものを【バフ】する。

 そして、剣の先を俊敏な人喰鬼アギル・オーガへと、食い込ませた瞬間、


「クリティカルヒット率【バフ・改】」


 もう1つの要素を【バフ】させてから、ニーニャは剣を振り下ろした。


「グヵァアアアアアアアアアアア!!」


 俊敏な人喰鬼アギル・オーガは血を噴き出しながら盛大に仰け反る。

 そして俊敏な人喰鬼アギル・オーガは事切れたようでグッタリと倒れた。


 ニーニャの勝利である。


「あ、剣を勝手に借りてごめんなさい。お返ししますね」


 ニーニャはランドに剣を返しにいく。


「あ、ありがとう……」


 ランドはそう言って剣を受け取る。

 ニーニャのおかげで助かったとはいえ、素直に喜べない事情があった。


「なぁ、あんた。名前はなんて言うんだ?」

「ニーニャですけど……」

「そうか、【灰色の旅団】はこんな隠し球を持っていたのか」


 ぼそりとランドは呟く。


「なぁ、マスターであるガルガはあんたよりも強いのか?」

「え、ええ……わたしじゃ、手も足も出ないですよ……」


 なんでガルガのこと聞くんだろう。

 あまり思い出したくないない存在だ。


「すまんな、色々と聞いて……。あんたにはホント助かったよ。それじゃあ、俺たちはもう行くよ」


 ランドたちはそう言ってそそくさと立ち去ろうとした。


(なんだかすごく他人行儀だな……)


 少しは仲良くなれたと思ったのはニーニャだけだったのだろうか?

 特にあれだけ【灰色の旅団】を目の敵にしていたランドが、すっかり鳴りを潜めてしまった。


「あのっ、人喰鬼オーガの素材持って行かないんですか?」

「それは全部あんたにやるよ。倒したのはあんただろ」


 そう言われても……。

 ニーニャには持って行くための袋がないんだが。

 まぁ、人喰鬼オーガなんて大したお金にならないしいいか。


「あの、これからどうするんですか?」

「もう帰るよ。これ以上ここにいたら死にそうだ」

「あっ、帰るならわたしも一緒に」

「お断りだ。あんたには借りがあるとはいえ、やっぱり【灰色の旅団】と一緒には行動できねぇよ」


 隣にいた神官のミクティスも「そうねぇ」と頷いていた。


 そして、彼ら冒険者たちは去って行った。





「ホントとんでもねぇやつだったな」


 A級パーティである冒険者たちは帰投のさなか、ふと、ニーニャのことを話題する。


「本当にね。あの実力ならSS級どころじゃ済まないかもしれないわね」

「あんなやつが【灰色の旅団】にいるとはな」


 彼ら冒険者にはある目標があった。

 それはクランを作ること。

 そして、そのクランを【灰色の旅団】に匹敵するだけのクランまで成長させること。


 彼らにはパーティ名があった。

【明星の光】。

 いつかクランを作ったときにも同じ名前をつけようと話し合っていた。


「あんま落ち込むんじゃねぇよ! 俺たちだって、いつかああなれるさ!」


 ランドが落ち込んでいるメンバーたちに激を飛ばす。


「ああ、そうだな」

「うん、俺たちだって負けてられない」


 メンバーたちも呼応していく。

 彼らは前を向いて歩いていた。

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