―04― ニーニャちゃん、出口を探す

「さて、わたしは今どこにいるんでしょう?」


 ニーニャは首を捻った。


「流石にここがダンジョンなのは、いくらわたしが無能でもわかるのです!」


 デーン! と効果音を出したい気分だった。

 実際にはそんなのあるわけがないが。


「まぁ、弱い魔物さんだったのでダンジョン上層には違いないのです」


 本当はダンジョン下層である。

 ちなみに、多脚之龍マルチプレス・ドラゴンはB級の魔物なので、実は滅茶苦茶強い。


「やばい、わたし、なんでここにいるのかさえ、よく思い出せないとか……。う~っ、やっぱりわたし無能なんだなー」


 ニーニャは落ち込んだ。

 そうなったのも、何もかも頭痛が悪い。

 頭痛のせいでニーニャはずっと思考力が低下していた。

 だから、ただ言われるがままに行動する日々が続いていたのである。

 そのせいで、自分が今どこにいるかさえわからなかった。


 ちなみに、ニーニャは随分と饒舌になったが、それはずっと頭痛のせいで喋るのが苦手になっていただけである。

 これが本来のニーニャの姿といえた。


「えっと、まずわたしはクラン【灰色の旅団】に引き取られて……」


 色々思い出す。

 殴られたり、変な薬飲まされたり、あと、剣を持たされて魔物と戦わされたりとかもあったような。


(あれ? わたし、めちゃくちゃ虐待されていない?)


 やっとそのことを把握したニーニャだった。


(特に、クランマスターのガルガには色々とされた気が! 思い出したら、なんか腹が立ってきた)


 ふんっ! ふんっ! とニーニャはその場で地団太を踏む。


(それにしても、わたし今までよく生きてこれたな)


 しみじみとそんなことを思うニーニャだった。

 ニーニャがもっと冷静でいられたら、危機感を覚えクランから逃げ出すなんて選択もとれたんだろう。

 けれど、やっぱり頭痛のせいでそこまで頭が回らなかった。

 頭痛すごく怖い。


「ひとまず【灰色の旅団】にはもうこりごりだ。【灰色の旅団】には見つからないようにしないと」


 もし見つかったら、また薬付けにされて【バフ・改】を常時発動させろ、とか強要されるんだろうな。

 それだけはニーニャとしては阻止したい。


 そのためにも【灰色の旅団】の活動範囲の外まで逃げる必要があるか。


(まぁ、その前にこのダンジョンから帰還するのが先なんだけど……)


 まず、どっちの方角が帰り道なのかさえ、ニーニャにはよくわからなかった。


(困ったな)


 途方に暮れる。

 ニーニャはダンジョンの地図なんて持ち歩いていなかったし、頭痛のせいでダンジョンの道もよく覚えていなかった。


「う~っ、やっぱりわたし無能なんだ……」


 無能がニーニャの口癖である。

 クランの面々に散々言われた言葉だ。


「嘆いても仕方がないし、とりあえず探索しますか」


 わからない以上、自分の足で歩いてダンジョン内で探索するしかないだろう。


「俊敏さ【バフ・改】、体力【バフ・改】」


 と、2つのステータスを【バフ・改】させてダンジョン内を走った。

 そのスピードはS級冒険者を軽く凌駕するほどのスピードだった。

 本人にはその自覚はないが。


「あった、出口」


 数十分後、出口を見つける。

 出口といって、あくまでのこの階層の出口だ。

 ダンジョンの外に出られるわけではない。


 青白く光る転送陣があり、この中に入ると別の階へに飛ぶ仕組みだ。


 だけど、1つ問題が。


「もしかしたら次の階層に行く入り口かもしれない」


 ニーニャにはここが前の階層に戻る出口なのか、次の階層に行く入り口なのか判断がつかない。


 確か、どっちかが青い円でどっちかが赤い円だったはず。


 ニーニャはダンジョンに潜り何度も階層も行き来しているはずなのに、どっちがどっちなのかさえ覚えていなかった。

 やっぱり頭痛が原因だ。


「まぁ、なるようになれかっ」


 悩んだからといって答えがいつか出るわけではない。

 ならば、ここは勢いよく飛び込むのが吉とみた。

 そんなわけで青い転送陣に飛び込む。


「おっと、ここが前の階層ですか」


 次の階層の可能性もあるが。


「見た目はさっきの階層とそんな変わらないか」


 目の前には森林が広がっていた。

 太陽だって昇っている。ダンジョンの中だというのに。理屈はよくわからない。


「よし、また走って出口を探そう」


 そんなわけで、俊敏さと体力を【バフ・改】して、縦横無尽に駆け回った。


 その際である。


「あっ、魔物がいた」


 ニーニャの目の前に毒爪之龍ベネノ・ドラゴンがいた。


 ふと、あることに気がつく。


「この魔物と戦って、脚がたくさんあったドラゴンとどっちが強いか比較すれば、この階層が次の階層か前の階層なのかわかるんじゃないっ!」


 ダンジョンというのは下に行けば行くほど強い魔物が出現する。

 そのぐらいの常識はニーニャでも知っていた。


 もし、毒爪之龍ベネノ・ドラゴンと戦って多脚之龍マルチプレス・ドラゴンより弱かったら、ここは前の階層ってことになる。

 毒爪之龍ベネノ・ドラゴンの方が強かったら、ここは次の階層だったというわけだ。


(もしかしたらニーニャちゃん天才かもしれないっ!?)


 自分の発想力に自画自賛するニーニャであった。


「よしっ、俊敏さ【バフ・改】!」


 準備ができたので、突撃する。


 ニーニャの存在に気がついた毒爪之龍ベネノ・ドラゴンは口から大量の紫色の霧をだした。


「うわっ、毒だ!?」


 紫色の霧の正体が毒だというのはすぐに察しが付く。

 この毒をなんとかしない限りには攻撃ができない。


 と、そうだ!

 ニーニャはいいことを思いつく。


「自然治癒力【バフ・改】!」


 毒を受けても、同時に治癒すれば問題なくない? と思ったニーニャである。

 ニーニャちゃん意外と頭いいかも!? と、思ったニーニャだ。


 これで毒爪之龍ベネノ・ドラゴンに近づくことができる。


「ケホッ、ケホッ」


 毒を喰らった瞬間、少し苦しくなる。

 けれど、これなら無理矢理押し切れそうだ。


「物理攻撃力【バフ・改】! これでもくらえっ!」


 パンチをボゴッ! と当てる。

 毒爪之龍ベネノ・ドラゴンは一撃で沈んだ。

 すごい弱かった。


「ということは、ここはさっきより前の階層だ!」


 ニーニャ大喜びである。

 このまま青い転送陣を探していけば、いつかはダンジョンの外に出られるだろう。


「そうとわかれば、早速次の青い転送陣を探そう!」


 そんなわけで再びニーニャは俊敏さと体力を【バフ・改】して、次の出口を探した。



 なお、ダンジョンは青い転送陣に入ると次の階層へと行く仕組みである。

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