幕間 総合力テスト

 さて、いざ始まった総合力テスト。

 《ヒットマン》としてではなく、ヴィルヘルムとして戦うのだ。戦闘スタイルもまるで変えている。


 ちなみに師匠のSクラス編入は今朝の通称「対ヴィルヘルム戦」での活躍が評価され、チェスター教授の一存で確かなものとなった。SHRでその話が彼女に伝えられた時は半分呆れたような表情でこちらを見ていたのがちょっとゆるせない。


 あとはもう懸念事項はない。Aの貴族連中とSのみんなを完膚なきまでにぶちのめして終了である。


 今はSHRを終えて、大学構内にあるコロシアムに移動中だ。他のクラスも一斉に移動するので、校舎が1階にあるSクラスの生徒は自主的にちょっと遅らせてから移動している。


「あの、ヴィルヘルム。そろそろ僕に例の剣を抜いてもらえませんか?」とジーク。

「……お前にゃまだ早い」

「ちぇっ」

「そもそも俺は正統派な戦いはしないんだ。あの剣じゃないとしても、よほどのことがない限りは自分で鍛えた刀を使うだろうさ」


「ハッキリ言って君の刀とやらは脆い!」

「ハッキリ言わないでくれ」


 そもそもワケあり武器を使うジークに言わせればどんな剣も脆いだろうに。


「ケアン。試したい毒がある、放課後付き合え」

「なんで俺なんだよ……」エレナに絡まれているのはケアンだ。

「信頼の裏返しだよ。なにしろ死なないモノに対して死の概念を与える研究だからね、君くらい頑丈じゃないと頼めない」

「はぁ……わかったよ。代わりに、例のクスリを5回分な」


 そんな怪しい取引をしている。

 あの二人はそんなしっぽりな仲だったのか。というか、そんな危険物を貴族階級で試すな。


 隣にはものすごくカクカクした足取りで試験会場に向かう師匠と、リラックス……というより油断しきっているリィンがいる。

 師匠はどこか憂鬱そうだ。溜息も多い。


「師匠、ド緊張ですか?」

「う、うっさい! ……そういう弟子くんは緊張しないの?」

「本番は楽しむ派なので。なにより、相手だけじゃなくオーディエンスが苦悶と恐怖に染まっていく様は見ていて飽きないですからね」


 普段なんだかんだ酷い目に遭っているのだ。普段気にしているわけじゃなくても、合法的にやり返せる機会があるのなら、こちらも真剣を抜かねば無作法というもの。


「リィン。私、弟子くんとは距離を取ろうと思う」

「ボクもそうしようかな」

「待て待て、早まるな」



 ◆◆◆



 闘技場の試合は膨大な人数のトーナメントがたった二日間で行われるため、会場は異空間につながれ、同時に複数の試合を消化することができるようになっている。

 とはいえ魔術科の教授の腕前にもよるし、いかに国の魔術の第一人者たちが集まったここでもせいぜい5試合が限界だ。


 そして、対戦相手が誰なのかは会場に行くまでわからない。

 試合はどんどん消化されていき……そろそろ全体的に、見応えのある試合が並ぶようになった。


「ではアイリス、そろそろなので行ってまいります!」

「ああ、いってらっしゃい」


 魔眼の姫は楽しげに会場に向かっていった。


「おっと、私もそろそろかな」

 そう言って支度を始めたのは師匠だった。


「シルビアさん、一緒に行きませんか?」

「いいよ。……実はまだ入り口わからなくてさ」


 6歳くらい年下であるはずのオフィーリアの第二王女が師匠の手を引っ張っている。なんとも微笑ましい光景だ。


「なあリィン。他のブロックのトーナメント表は見られるんだったよな?」

「うん。本人たちには教えないルールだけどね」


 ちょうどシルビアとアイリスは同じブロックだった。つまり──。


「これは面白そうだ」

「おっ、あいつらこれからやり合うのか」

「いいですね。シルビアさんの戦闘スタイルは勉強になるし、アイリス様の能力は目を見張るものがある」


 ケアンもジークも乗り気だった。

 ちなみにエレナは試合中だが、彼女の試合にオーディエンスは誰もいなかった。彼女の毒によって、人間の臓物が溶かされて口から嗚咽とともに出てくる様は誰も見たくなかったのだろう。

 だから休憩時間中のSクラスのメンバーで、二人の試合を見にいくことにした。


 だというのに、デビッドは席に寝っ転がったまま魔導書を読みふけっている。

「ほら、さっさといくぞデビッド」

「なんでさ! ぜったい行かないぞ!」



 ◆《シルビア》◆



 通路を抜けると、場内には見知った顔がすでに待ち構えていた。

「また会ったね、アイリス」

「ええ。知り合いだからって手加減しませんよ」


 それはなにより。

 同時に入った時点で大体予想はしていたけどね。


 アイリスはどんな風に戦うのかな。


 アイリスはその濡れた宝石のようなオッドアイを──紅い右目と青い左目を──輝かせて、美しいブロンドヘアをなびかせて言った。


「ねえシルビアさん、戦いの人。貴女の戦いを見せて。私の左眼が疼くくらいのスパイスがほしいわ!」


 お転婆らしいセリフを終えると同時に、彼女の周りに四つの中規模の魔法陣が展開される。


 どれも見たことがないものばかりだ。

 リィンの話によると、アイリスが左の魔眼を使うところを見たことがないらしい。

 期待されてるってことにしておこう。


「いいよ、アイリス。君の瞳を奪ってあげる」


 こうして、今日やっと胸が躍る戦いが始まった。



 ◆



 まずは、アイリスの展開した魔法陣が何の魔法なのかを考えなきゃいけない。

 多分、能力上昇とかそういう類の魔法な気がする。今朝もなんかすごい強化の魔法使ってたし。

 鉄壁の防御かもしれないし、早めにこっちから攻めてみるか。


 彼女の元に向かってまっすぐ走る。

 すると────っ!?


「うわっ!?」


 足元から大きな氷の柱が飛び出して、私を空高く突き上げた!

 全然ちがったじゃん、私のばかっ!


「あら、シルビアさんは魔法は苦手?」


 空中でなんとか体勢を整えると、頭上にはすでに余裕の表情のアイリスが鎌を持って構えていた。魔法による支援だろうか、空中浮遊して自由に動いている。

 そのまま斬りかかろうと迫ってくるアイリス。――こと戦闘に関してはそこまで秀でていないようだ。


 冷静に、鎌の刃先を手の甲で払いのけ、そのまま峰をつかんでアイリスごと放り投げた。


「ひゃうっ!? ……シルビアさんなら今斬れたでしょうに」

「アイリスこそ。詰めが甘いよ、あまあまだよ」


 とりあえず、どうしよっかな。

 この氷柱から飛び降りたらさすがに死んじゃうよね。……結界内だから死なないけど。

 けど、ここだっていつ崩れるかわからない。魔法で生み出したものの頑丈さは術者の技量次第だし。

 そんなことを考えていると。


「安心して。私の魔法は練度もすごいの。ただじゃ壊れないわ!」

 それはありがたいな。

「じゃあ、遠慮なく使わせてもらうよ」


 私の戦闘は完全に接近戦スタイル。彼女とは分が悪い。

 ひとまず様子を見ようと思う。


「かかってこないのなら、こちらから。――『雷水閃』!」


 アイリスは私の周囲を旋回するように上昇しながら、雷魔法と水魔法を放ってきた。それらは空中でぶつかり融合し、触れたら感電し呑み込まれるヤバイ水のとなって襲いかかる。

 本来なら水魔法と雷魔法を合わせても電気は流れないはずなのだが……。

 どういうマジックだろうか。いや、文字通りの魔術マジックなんだけど。


 ひとまずそれらを時にかわし、時に白のナイフで水の塊を切って魔法を無効化しながら切り抜ける、が……。


 バシャン!


「――うっ、これけっこう効くね……」体がうまく動かない。痺れちゃったみたいだ。

「やるじゃない、シルビアさん! この戦法で1発しか喰らわなかったのは貴女だけよ」


 なんか、苦手だなぁ。こういうの。

 ぼやく暇もない。背後からは、私の立つ氷柱から生えてきた無数のさらなる柱が迫ってくる。

 しかも、遥か下からまた土の巨大な柱が私を打ち上げた。


「くっ……!」

 背後の柱に打ちつけられ、彼女のコントロールした通り私は完全に体勢を崩された状態でアイリスの正面めがけて飛ばされてしまった。


 そして、待ち構えられていた。至近距離で真正面から振り下ろされる黒い大鎌。

 アイリスの表情はどこか呆れ気味で。

「もう終わりかしら?」


 随分とナメられたものだ。

 鎌の刃は完全に私を捉えている。

 だが────。


「アイリス、鎌はこうやって使うんだよ」


 ──空中で、体をひねって刃を避け、大鎌の峰の部分を掴んで柄を蹴飛ばし、アイリスの手から奪った。


「ひゃあっ!?」


 いざ持ってみると見かけよりずっと重い大鎌だった。

 そのまま靴のつま先に忍ばせてある白いナイフでアイリスの手のひらを切りつける。


「ごめんね。私、強いんだ」


 白のナイフは対象の魔力回路に干渉し、掻き回して使い物にならなくさせた。

 そのまま大鎌の柄の先で彼女の装備するチェストプレートを突き、地面に叩きつけるつもりで蹴った。

 追撃程度に黄色のナイフを投擲。殺すつもりはないので足首めがけて投げた。


 魔法の支援もないアイリスはそのまま突きと蹴りの勢いで落ちていく……はずだった。


「やるわね、シルビアさん。こんな序盤からを使うことになるだなんて!」


『オフィーリアの魔眼』アイリス。

 彼女はその二つ名にぴったりだった。魔眼というものがどんなものかは知らないが、とんでもない能力なのは分かった。

 まるで何も起きていなかったかのように、当たり前に私から距離をとった空中で静止している。彼女に向けてなげたはずの黄色のナイフも、当たり前のように私の手に収まっている。


 アイリスの右眼は紅く光り、見ているとこちらが取り込まれそうなほど綺麗な瞳をしている。

 というか、本当に綺麗だ。魔眼の覇気を無しにしても。


「綺麗だね。アイリスの瞳」

「ふふ、ありがとうございます!」

「かわいい顔してえげつない戦い方するのが玉に瑕かな~」

「シルビアさんこそ。貴女が全力だったらさっきの一瞬で私は場外でしたよ」


 まあ、かなり手を抜いていたし。

 さすがに失礼だったかもしれない。


「ごめんごめん。せっかくの魔眼を見てみたくて」

「もう。今度こそ、手を抜かないでくださいよ?」

「そこまで言われちゃ仕方ないか。なんか申し訳ないしね」


 私の力の一端をお見せしようと思う。

 文字通り、彼女の瞳をぜんぶ奪うくらいに。


「王女様のお眼鏡に適えばいいんだけどね」


 ◆ アイリス ◆


 シルビアさんの戦闘スタイルなんて一目みれば分かる。

 完全に接近戦スタイルだ。そして、私がこのまま一定の距離を取りながらなぶっていれば必ず勝てることも。


「王女様のお眼鏡に適えばいいんだけどね」


 彼女がそう言った瞬間、視界の端が激しく脈打った。

 同時に彼女の姿がブレる。まるで残像が残されたみたいに。

 彼女は手元でナイフを弄び、小鳥と戯れるように空中に銀色の小さなナイフを投げ――刃のほうをキャッチした。

 彼女の手からは一滴の血も垂れていない。


 なにかしら、この感じ。視界の中でずっと彼女だけがブレてる。観客席もみな思い通りなのに、――いや、厳密にはあの男は例外だけど――貴女までもがブレている。

 少ししてから彼女が口元にニヒルな笑みを浮かべているのに気付いた。


 これはっ――――魔眼の作用っ!?


「なにをしたのですか……!?」


 本当に只者じゃないのね、シルビアさん。

 ヴィルヘルムの師匠を名乗っていると聞いて、正直あの少年に呆れていたけど。


 氷魔法を多重起動させる。

 シルビアさんを可能な限り私から遠ざけるために、何本も、何十本も魔法陣を展開し、闘技場を覆うほどの氷柱の束を彼女めがけて打ち込んだ。


 しかし、彼女は氷柱の上をダンスでも踊るかのように、優雅にこちらにやってくる。しかも、なぜか氷柱は私の元まで伸びていて。

 今もシルビアさんだけが視界のなかでブレ続けて、シルビアさんだけが思い通りにならなくて……。


「さあね。アイリスの右目のはわかっちゃったし」


 ――っ!?


 私の魔眼が見破られた……? いや、見破られたうえで、!?


 一度攻撃の手を止めて防御魔術『超肉体増強魔術フィジカル・レイズ』をかける。

 するとどこからか声がして――。


「アイリス。右の魔眼は能力、そうだね?」


 なっ――――ッ?!

 完全に、見破られた!

 でも、いや、……? それに、どうして貴女の声がこんなにも近くから。

 とにかく彼女を攻撃しなきゃ、そう思って眼前の少女を氷柱ですりつぶした。


「でもそれはだったらしいよ。現に私は――」


 しかし、声はやまない。脳髄が支配されるように声が流れる。


 出し惜しみしてる場合じゃないっ、を使わないと――ッ!


 数年ぶりの左の起動に頭痛が走る。

 痛い。痛いけど……この人に勝ちたい。


 滅多に使わないとっておきの左眼――『蒼の魔眼』を発動して声の主を探していると、体中を電流が駆け巡って……。


「君の瞳を一面、。」


 耳元でそう囁かれた。

 ――気がつくと私は、氷柱を貫通し、地面まで叩きつけられていた。

 身体はすっかり動かない。だけど、不思議と痛くない。


「あーあ、完敗。私の負けよ」


 観客もほぼ満席なわりにひたすら静かな闘技場内に、敗者の声が冴えわたった。


 悔しいな。勝ちたかったな。

 けど……ああ。ゾクゾクした。すっごく。

 それに────うん。


「楽しかった!!」


 ◆ ヴィルヘルム ◆


 観客席は異常なくらいの静けさがあった。

 当然だ、気が付くとステージには何十本もの巨大な氷柱とともに正体不明の女が、『オフィーリアの魔眼』と謳われるこの国の第二王女を下していたのだから。


「ヴィルヘルム。あのシルビアさんとやら、何者ですか?」聞いてきたのはジークだった。

「ああ。やはり師匠は恐ろしいな」


 本当に、

 アイリスが右の魔眼を発動した一瞬でその魔眼の能力を見抜き、


 先に師匠が戻って来た。

 それも、ナイフを手にぶらぶらさせながら。


「危ない人だなぁ。おかえりなさい」

「ただいま。……どうだったかな? 私としては初めての魔眼相手でしどろもどろだったから、ちょっと消化不良なんだけど」

「一体さっきのどこがしどろもどろなんですか」


 魔眼持ちを前に立っていること自体、並大抵のことではない。しかも、魔眼の中でも最上級の『紅の魔眼』と『蒼の魔眼』を併せ持つ彼女の前で。

 挙句それを一瞬で看破し、掌握してみせたのだ。

 きっと俺やジークは同じ感想を抱いているだろう。デビッドはなんの感想も抱いていないだろうが。


「ヴィルヘルム。思っていても失礼なことは言わないでくださいね」とジーク。

 さすがに言わないさ。そんな……。


「バケモノとかな」

「あっ……」


「いやでもバケモノの称号を賜うには充分すぎるくらいバケモノだったな」


 やべ、めっちゃ言っちゃった。

 恐る恐る師匠のほうを見てみると。


「決勝で覚えてろよこのアンデッド……」そう言ってナイフを投げつけてきた!

「こえぇ!」顔スレスレのところでなんとか当たらなかった。よかった。


 わちゃわちゃしていると、アイリスがトボトボ帰って来た。

「シルビアさん! なんで魔眼が効かなかったの!?」


 開口一番それだった。当然か。


「俺も知りてぇな。ヴィルヘルムとデビッドは仕組みがわかったようだが、ジークも俺もまるでわからん」

「ボクもわからなかったな。アイリスの魔眼のことあんま知らないし」

「えぇっ、デビッドまでわかったのですか……?」


 ケアンやリィンの言葉に誘われてアイリスはデビッドのほうに視線を向けたが、なんとも言えない表情でそちらを見ている。


「えぇっ、てなんだよ。えぇっ、て」

「あなたみたいなちんちくりんは分かったつもりになっているだけでしょう?」

「なわけあるか。第一、僕に君の魔眼は効かない」

「そうでしたっけ……気に食わない」


 まあそんなわけで、Sクラスにアイリスの魔眼の本質を見抜いた者が増えたのだった。


「デビッド、お前、師匠が何をしたかまではわかったか?」

「まあ、おおよそは」

「そうか。さすがだな」


 デビッドは師匠のことは知らないだろうに。

 見た目はこの通りガキンチョでも、やはり能力は超一流か。


「まあ弟子くん。説明してあげなよ」

 ドヤ顔でバケモノにそう指示されたので、おとなしく従っておこう。


「今失礼なこと考えなかった?」

「気のせいだ。……こほん」


「アイリス。俺やデビッドは元々見抜いていたが、君の魔眼は君が思っているような『現実を思い通りに塗り替える』ものとは少し違う」

「えっ、そうなんですか!?」


 目をまんまるにするアイリス。そりゃあ、本人もびっくりだろう。

 幼いころから安寧のオフィーリアを見渡す眼としてもてはやされていたのだ。魔眼はこの世界でもな位置づけでもある。それがいきなり「実は違う能力です」って言われるわけだ。

 しかも実演付きで。納得するしかない。


「正しくは、君の右の魔眼『紅』の能力は『を魔眼所有者の実現可能な範囲で』能力だ。君の魔眼は、観客含めこの場にいる全員を映したはずだ。君が意識していなくても、みな君の魔眼には興味があるからね」


 師匠も得意げにうなずいている。

 ……にわかに信じがたいが、本当にすべて見抜いていたらしい。


「そして。師匠の持つスキルは『スクリーン』。だ。それを師匠は。観客も、審判も。ほら、まさしくバケモノだ」

「だーかーらー、バケモノは余計だよ!」


 師匠を無視して説明を続ける。

「師匠のスキルを受けた結果、君は。それは観客も同じだ。そして、。その後、君は幻影を捻じ曲げつづけ、師匠は有利な幻影を見せつづけた」


 つまり、と一言おいて、師匠はまとめに入った。

「アイリスの瞳は、宣言通り私が奪ったってこと」


 師匠のドヤ顔は完全にキマっていた。


「……………………バケモノですね。」

「アイリスまでっ!?」


 ◆《シルビア》◆



 今度はリィンの出番となった。

 学年トップ勢が参戦するころには、トーナメント表はすべてSクラスの生徒で埋まっていた。準決勝だか準々決勝だか、まあそんなところだ。


 次の試合は『大海オケアノス』対『竜殺し』。

 同時に『妖艶の魔術師』対『聖霊王』。


 正直、どちらの試合も見逃せない。

 なぜ同時進行にしたのか、大学の運営を恨みたい。


「師匠はどっち見ます?」

「うーん、デビッドくんとエレナさんの試合を見たい気持ちもあるけど、やっぱりリィンの試合を見るよ」

「そうですか。俺は軽くエレナのほうを見てきます」


 弟子くんはエレナさんを呼び捨てにしているらしい。

 どういう関係なんだろう。少し気になるけど、いまはこっちの試合の方が気になる。


 ◆ ジーク ◆



 相手はリィン・セルレッタ。

 早々にヴィルヘルムと戦いたかったけど……。


「リィン。あなたとだけは戦いたくなかったが、こうなった以上仕方ない。ここで負けてもらいます」

「ふぅん。ボクじゃ不満?」


 藍色の髪の乙女。腰には彼の鍛えた刀をこさえている。

 不満なことがあるものか。君に勝つことはドラゴンを仕留めることより難しいだろうに。


「ああ、君は強すぎる。これでは、


 大海オケアノス。最果ての海。

 なぜそんな大層な通り名がついたかは知らないが、これほど海から離れていれば海の寵愛も届かないだろう。


「ジーク、なにか勘違いしてない?」


 リィンはそう言うと、一歩だけ間合いを詰めてきて――。


「――ボクは、君が思うほど弱くはないよ」


 刹那、僕は後ろへ大きく飛び退いた――。


 ◆


 ほぼ勘だけで咄嗟に飛びぬいたものの、その判断は正しかったらしい。

「ボクの『煉獄』にはもうジークも慣れたかな」


 リィンの使う炎魔法と彼女の繰り出す斬撃の合技『煉獄』。斬撃を魔法のコントロール下で飛ばし、遠距離攻撃までできるようになっていたとは思わなかった。


 一度斬られれば彼女が止めない限りその炎が消えることはない。しかも、それを何食わぬ顔で剣を振り続けるのだから手に負えない。


「まさか飛んでくるとは思わなかったよ」

「ボクはいいから、ドラゴンスレイヤーらしいところ見せてよ」


 そう言いながらなおも『煉獄』を放ってくる。

 近づかせるつもりもないんじゃないかな。


「そっちがその気なら――はっ!」


 ものは試しだ。遠距離攻撃ができるかもしれない。

 心を落ち着け、剣を握る。


 僕は剣聖を目指す者だ。このくらい、できないと困る――――ッ!

 僕はリィンに向かってを飛ばしてみせた。


「おっと、あぶない」


 彼女がそれを軽く体を逸らすと、外れた斬撃は


「ちょっと、ジーク。結界壊れたら死んじゃうよ、君が」

「大丈夫さ。リィンは弱くないらしいし」


 軽口の応酬も、どちらもまじめには取り合っていない。


「教授たちが結界を強化してるみたいだね。ちょっと待とうか」リィンは刀を空にかかげた。どうやら刀に『煉獄』と、なにか雷魔法の属性を付与したみたいだ。


「そうだね」


 油断を見せれば斬られる。それだけがこの場における真実だ。


 僕の剣はパワーに重きを置くバランス型だが、リィンの剣は完全なスピード型。繊細なのだ。

 隙さえつければ一撃で彼女を斬れるが、自分の心配をしないとこちらが隙を生んでしまう。


 となれば――。


「……へえ、それが『竜殺し』の剣術なんだ」

「――――――――。」


 完全な一撃をもってリィンを倒す。


「何かを待ってるんだね。じゃあ、遠慮なく」

 リィンは『煉獄』を何度も放ってきた。

 それを僕はただ受け止める。すべてはただ、一瞬のために。


「ジーク。ボクの勝ちだよ」


 声がすると同時に、僕の左腕と右足は切断され――。



 ――――――今だ。


 闘技場そのものを斬る出力オーバードライブの大斬撃を繰り出した。


「残念。君の負けだ」


 僕がそう言うと同時に、結界の効果で僕の腕は元に戻り、代わりに彼女の手元には粉々に砕けた刀だったものが残された。


 ◆ リィン ◆


「負けたー」ボクがそう言って戻ると。

「やれやれ、もうちょっとやる気出せばよかったのに」とヴィルヘルム。


 別に負けようと思って臨んだわけではない。

 単にジーク相手に魔法を使うのが大人げないかなと思って情け容赦を……。


「ま、いっか」

「いいならいいけどさ」


 ちなみにエレナさんは早々に勝負を辞退したらしく、そのままデビッドの不戦勝。流れるように始まったケアンとの戦いもしれっとデビッドが勝利を収め、今に至る。


「ヴィルのこのあとの試合は?」

「ひとまずジークとだな。その間に師匠もデビッドとやってくるらしい」


 まぁ師匠なら勝つだろう、と言うと、ヴィルヘルムはジーク戦へ向かった。



 ◆『竜殺し』対『魔王』◆



「ヴィルヘルム、どうしてもダメかい……? 君のモノが見たいんだ……どうか僕の体にめいっぱい刻みこんでくれよ」

「上目遣いで剣握りながらこっち来るな。セリフごとお前を切り捨ててやろうか」


 そんなに俺の剣が気になるのか。

 とある噂を聞いて以来、ジークはずっと俺の使った大剣をお目にかかりたいと言ってくる。


「ここなら僕も死にませんし、先っちょだけ見せてくださいよ、先っちょだけ」

「なにが『先っちょだけ』だよ。剣の先っちょ見せたら全部抜いてるだろうが」


 その剣を振るわせる自信でもあるのか。――いや、実際あるのだろう。

 魔法も使えず、スキルも持たない異端者。ロングソード一本と運命を共にし、隣の大陸の霊峰に棲む神代から生き続けるドラゴンをさえも斬り伏せた男。それがジークだ。


 実力は認めるが、そんな不埒な輩に俺の剣は見せないぞ。


「ダメだ。脆い刀で我慢してくれ」

「ちぇっ」


 まあ、きっとマニア的にはどうしても気になる剣であることには違いないが――俺の剣はそうそう安くない。


 さて、そろそろ潰すか。

 ジークとやるときはいつも、なあなあで済ませていたし、たまには、な。


「たまには全力で相手してやろう。――殺してやるからかかってこい」

「『魔王』の全力の剣か。それは、世界を斬る覚悟じゃなきゃ勝てなさそうだ」


 ドラゴンスレイヤーの勇者と、魔王と恐れられる男。

 いい戦いだろう。


「ジーク。お前の剣は届かない」

「はは――――君が剣を語るには百年早い」


 あいにく俺はドラゴンを斬ったことはないが、人ならさんざん斬ってきた。

 今も遠く離れたどこかで、人を斬っている俺がいるくらいに。


 それに、俺に斬れないものもない。



 ◆



 30秒ほどでパパッとジークの首を刎ねて戻ってくると、すでに師匠とデビッドが観客席についていた。

 もう終わったのか。


「俺がジークとすさまじく熱い戦いをしているうちに、そっちも終わったみたいですね」

「リィンから聞いたよ、弟子くん。私はほとんどのナイフを使って正々堂々きちんとデビッドくんと一戦終えてきたというのに、君は使う武器を出し渋ったそうだね」

「何言ってるんですか、見てないくせに」


 実際そうだけど、勝てばよかろうなのだ。

 あの剣はプライドの次に大切なもの。それを観衆の前、ましてや魔眼の姫の目の前でなど、言語道断だ。


「……というか、ジークを瞬殺してきたの? けっこう早かったけど」

「長引いたら不利そうだったし、瞬殺ってほどでもないですけど。ところで、師匠とデビッドはどちらが勝ったんですか?」

「私の負けだよ。さすがに相手が悪すぎたかな……」


 なんでもない表情でそう言っているあたり、どうやら師匠もリィンと同じだったようでどこか飄々としている。


「手抜いた上に負けたとか、恥ずかしくないんですか?」

「うっさいな! 見てないくせに!」

「まあいいや……。次、弟子くんがデビッドくんとだから、ちょっと勝ってきて」

「えー、それでも師匠ですか?」

「ぐぬぬ、負けただけでこんなに煽ってくるとは……」歯軋りとともに俺を睨んでくる師匠。絶景かな、絶景かな。

「やーいやーい。……とはいえデビッドに勝つのはちょっとめんどくさいな」


 見ればデビッドも呆れた顔でこちらを見ている。


「なあデビッド、師匠はどうだった?」

「僕に振るなよ。手を抜いていたのはわかったから、お互い適当に戯れてただけだ」

「まあそんなことだろうとは思ったよ」


 そういえば、もう少しで決勝戦か。

 トーナメント表はちゃんと見ていないが、これで終わりのはず。

 観客も増えてきたしな。


「じゃあ、次もパパっと終わらせに行こう、デビッド」

「ヴィルヘルム、たまにはちゃんと戦おうよ」


 ジト目でこちらを見てくる少年。

 デビッドにまでそう言われては仕方ない。

「……今回だけだぞ」


 ◆《シルビア》◆


 決勝戦。文字通り、学年トップが決まるのだ。

 というのに……。


「はぁ~あ。……俺もう帰りたい」


 さすがにあの態度はまずいと思う。決勝だし。


 しかももう場内に入っていて、オーディエンスにも囲まれている。

 この時間はどうやら上級生もコマがないらしく、観客は席だけでなく使い魔を媒介として大学構内各地で中継されている。全校生徒と職員が見ているといっても過言ではない。


 しかも、これまでの試合と違って決勝戦は異空間ではなく、現実のこの場所で行われる。もちろん結界は素人目でも分かるくらいの厳重さで、大学の教授だけでなく学生もその補強作業を手伝っていた。


「ヴィルヘルム、こっちのやる気までそがないでほしい」

「だって、明らかにオーディエンス多いじゃないか。全試合終わって、三位決定戦まで先に終わってから決勝戦とか、ふざけてるだろほんと」


 会話もしっかり丸聞こえだ。

 さすがスキル大学の使い魔。ちなみに三位はジークを12秒で下してきたこの私である。


「どうせ聞こえてんだろ、教授たちも。もうよくないか? テストとか言って下手にランキング制度なんか作っちゃうから目に見えて学生のやる気が分かれるんだよ。見てみろよSクラスの連中を。みんな単位が取れる順位まで来たらこぞって手を抜きだすんだからさぁ……」

「頼むから、ヴィルヘルム、せめて僕の成績にまで君の悪影響を広げないでくれ。さっき『今回だけはちゃんと戦う』って言ったじゃないか」

「言わなきゃよかった……」


 そのまま闘技場ではぐだぐだと2分が経過してしまい――。


 ◆ ヴィルヘルム ◆


「あーもう! わかった、わかったよ! デビッド。全力でかかってこい。俺も全力出してやるから、暴れまわろう。結界が修復できなくなろうが知ったことじゃない。大学の落ち度だ」

「いいけどさ……加減はナシ?」


 俺も、もう疲れた。

 手加減に、だ。どうにも肩が凝る。羽を伸ばしたいのだ。


「かまわん。お前が相手なら、俺も気兼ねなくやれる」

「わかった。――少し本気を出すよ、ヴィルヘルム。そろそろ校内ランク1位の景色が見たくてね」


 水色の髪の少年はそう言うと、足元から魔法陣を展開した。

 するとデビッドの身体は魔法陣から突如発せられたまばゆい光に包まれ――。


「ほう、ついに『聖霊王』の片鱗が見れるのか」


 ――白いローブ姿の魔術師の装いに変化していた。 

 その指には十の指輪を有し、彼の二つ名にふさわしい威厳を漂わせる魔法杖ロッドが手に握られていた。


「僕もたまには恐いところを見せないと、この世界じゃナメられるみたいだし」


 デビッドの視線の先にはアイリスがいた。

 彼女もその視線に気づいたのか、一気に怪訝そうな表情になった。


「いやまあ苦手に思うのは十分わかるが、流石にそこまで警戒しなくてよくないか?」

「苦手、じゃなく嫌いなんだ。ああいう手合いは見ているだけでどうにも不安になる。あんなちんちくりんに魔眼を授ける神だって狂ってるとしか言いようがない」


 ついに言いやがった。大国の王女だぞ。

 とんでもないやつめ。


「じゃあ、そろそろヴィルヘルムもやる気出してよ」


 場内の空気が変わった。

 本当にみたいだ。


「言っとくけど、僕だってフラストレーション溜まってるんだ。君が相手じゃなきゃ僕だってこんなこと頼まないよ」

「……いいだろう。そろそろ神代の魔力が恋しく感じていた頃だしな」


 わずかだが――俺のを見せてやる。


「デビッド、結界を張ろう。こんな膜だけじゃ薄すぎる」

「いいよ。なにせ、相手が相手だしね」


 お互いの実力は分かっている。

 俺の知る限り、この大学で俺がリラックスして戦えるのは彼だけだろう。


 俺は結界内をコーティングするように超高密度の防御結界を張り、それに強化の魔法をかけたものを五重に重ねた。するとデビッドはそれらをさらに覆う結界を張り、強化したうえ同じものを模倣する独自の術式を使って七重にしてみせた。

 ……これだけの防御を張ってもなのが恐ろしいところだ。

 どんな魔術も神秘も、俺たち合作の防御結界を潜り抜けることは厳しいはずだ、多分。


 スキル『魔神化』を発動させて装いを変え、収納魔法で異空間にしまってある魔術師らしい装備を身に着けた。

 デビッドの装備は何から何まで一流の特注品らしいが、俺のものはすべてダンジョンで手に入れた、神秘が濃縮された戦利品だ。――が、こんな人目にさらすわけにもいかない。

 とはいえ妥協も許されなさそうなので、ダンジョンの階層ボスが落とした金羊毛のローブを身にまとった。


 さあ、準備は整った。


「――やろうか、『魔王』さま」

「ああ。存分に楽しもう、『聖霊王』」


 こうして、神代の戦いもかくやという、魔術師同士の戦いが始まった。

「「――――ッ!!」」


 ◆


 さっさとひれ伏してもらおう。

「お前に魔法は使わせない。『絶対支配領域マイ・ガーデン』」

「なッ――――!? 大人げないぞ!」


 その感想も十分子供っぽいけどな。

 瞬時に発動させたのは『絶対支配領域マイ・ガーデン』。俺のオリジナル魔術だ。術者から発せられた魔力以外のすべての魔力の動きや変化を一切を管理し、停滞させる。大気中に含まれるマナまで、すべて。範囲はこの結界内だ。


 ……『聖霊王』の魔力をすべて管制するのはさすがに負荷が大きいが、今までやってきたことに比べれば痛くもかゆくもない。スパコンも跪きながら俺に道を開けるような演算だが。


 同時に土魔法でゴーレムを二体錬成した。ひとまず俺を守るように配置する。

 

「残念だけど、使。――『侵犯強制奪取ハイジャック』」


 どこからか、

 無意識化でそれらを跳ね返そうとしたが、どうやらダメだったようだ。


「……ほう。俺の庭にあっても、まんざらでもないじゃないか」

「まあね。いかに秀才が集うスキル大学とはいえ、は濁ったものが多いな。さっさと浪費しよう」


 こいつの魔術師としての素質の格差を見せつけられた気分だ。魔術の効果もあってか、なんだか落ち着かない。


 スキルの理論からアプローチしたこの魔術『強制奪取ハイジャック』は対象の魔力の貯蔵庫に接続する魔法。デビッドは俺の魔力を使えるようになってしまったのだ。

 だが、もちろんこいつは魔法も魔術も、使


「魔力を奪ったのはお前の力業なんだろう?」

「もちろん。使


 デビッドは今、結界の外にいる者たちから魔力を強引に引き出し、自分の物として魔法を発動してみせたのだ。

 見れば観客はみな、かなりぐったりした様子だ。俺の魔術回路に介入しようとしたのだから、並みの魔力量では不可能だったろう。


「この天才め」

「僕の高速詠唱を舐めないでほしいね。――さあ、君の魔力を使わせてもらうよ」


 そう言うとデビッドは空中で魔法陣を連結展開させた。

 リソースとなる魔力の持ち主が、『絶対支配領域マイ・ガーデン』はもう機能しないだろう。

 かといってこの魔術を解くわけにもいかない。つまり、俺の圧倒的な魔力総量で完膚なきまでに叩くしかない。


「僕は『聖霊王』。期待通りを呼び寄せてあげるよ」


 ……デビッドの顔には嗜虐的な笑みか浮かんでいた。

 まさか悪魔とかじゃないだろうな。


「おいで、僕の眷属たち。を開けてあげる」





 瞬間、俺の前にまばゆい白光が降り注いだ。





「我が主よ。《無銘》にて失礼をば。この異なる星、異なる神の光を受けていても、貴方の御魂は変わらず美しい」

「ええと、今はデビッド…様、でよろしいのですね。《無銘》として参上いたしました」

「やっほー。会えて嬉しいよ、マイマスター!あたしも《無銘》だけどよろしくね!」



 目の前にいたのは、三人の天使だった。



「《無銘》となっても召喚に応じてくれてありがとう。早速だけど──」


 デビッドはいつのまにか俺の『絶対支配領域マイ・ガーデン』を破っていた。


「その男をしてほしい」



 これは、面白い。

 悪くない。悪くないぞ、精霊王。


 俺を見た瞬間、三人の天使の視線は一気に険しいものとなった。


「そ、その男って、まさか────」


 天使の一人の声を遮ってデビッドに話しかけた。


「デビッド。結界になにか仕込んだな?」

 アイリスだけでなく、他の学内の魔眼持ちもこの中継を見ているというのに、こいつが天使なぞ召喚するはずがない。


「ご名答。誰の目もないから、安心して力を解放してほしいな」

「良い仕事をしたな。いいだろう、とことんまで付き合ってやる」



「『精霊王』よ。格の違いというものを教えてやる」

「ああ、原初の王。魔術の祖として、僕が君を討ち取ろう」


 世界を識り、所有する者。

 王とはこの俺ただ一人を指す言葉だ。


「喜べ。原初の姿を見せてやる」


 偽装解除。第一段階、制限解除。

 【禁断解放】発動。


 ◆



 爆風と、衝撃波。

 はあ、はあ。はあ、はあ。

 自分の呼吸音しか聞こえない。目にはなにも映らない。


 だが、一つだけ分かる。


「────俺の、勝ちだ」


「…………僕の負け、か」



 深呼吸する。もう身体は動かない。

 落ち着いて、スキルで眼球を複製した。


「はあ、はあ。……ありゃ、壊れてる」

「ほんとだ。僕、結界も本気で設けたつもりだったのにな」


 見渡すと、観客席は空っぽだった。

 いや、観客席どころか、そこには元の闘技場なんてなかった。


「上を見ろ、デビッド。観客は避難したようだ」


 見れば巨大な地面の塊が空中に浮いている。

 どうやら教授たちが土魔法で空飛ぶ島でも作ったようだ。


「そっか、ならよかった。……久しぶりにすっきりしたよ。ありがとう、ヴィルヘルム」

「俺もだ。人生で初めて魔力が枯渇したぞ」



 なぜか笑いが込み上げてきた。

 楽しかった。こんな感覚、久しぶりだ。


「ありがとうな、デビッド」


 総合力テスト決勝戦。

 優勝は『魔王』ヴィルヘルム。

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その男の名は《ヒットマン》 山田てお @45883

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