第30話

 二皇竜への挑戦、1日目。


 サトルたちは『ヤマト地方』に上陸した。

 和風テイストの街が広がっており、お茶屋とか、銭湯とか、神社とか、日本人に馴染なじみの建物が配置されている。


 こっちの人は基本、着物姿である。

 腰に刀を差しているサムライが、海の向こうでいうところのドラゴン・ハンターの人たち。


 サムライは重い鎧を好まない。

 るか、られるかの一撃必殺を信条とする。

 そういう気質のことを、ゲーム内ではヤマト魂というそうだ。


 ヤマト地方に住んでいる刀鍛冶かたなかじ……クレハ一族。

 彼らの腕は世界一、という設定がある。


 有り体にいえば、武器をこれまでより一段階、パワーアップさせることができるのだ。


 SATO:

『まずは鉱石を集めます』

『こっちのエリアでしか取れない……』

『フジメタル鉄鉱石というのがありまして』


 変態ライダー:

『よっしゃ!』

『肉体労働なら得意だぜ!』


 SATO:

『採集クエストなので……』

『リラックスして臨みましょう』


 持てるだけピッケルを所有して『古代遺跡』というフィールドに出発する。


 変態ライダー:

『あっはっは!』

『未知なるフィールドだ〜!』

『すっげぇ楽しい!』


 SATO:

『あっ! ライダーさん!』

『あんまり不用意にうろつくと!』


 変態ライダー:

『うおっ! 壁から毒矢が飛んできた!』

『うげぇ⁉︎ 硫酸が溜まった落とし穴だ⁉︎』

『やべぇ……抜けられねぇ……』


 古い映画に出てくるピラミッドみたく、あちこちに殺人トラップが仕込まれているのである。


『変態ライダーが力尽きました』

『クエストに失敗しました』

『街まで戻ります』


 死んじゃったよ、相棒……。

 コメディアンとしての才能があるかも。


 変態ライダー:

『すまん、SATO』

『次回からは注意する』


 SATO:

『いえいえ、問題ありません』

『むしろ、俺も気をつけます』


 明らかにぶっ殺しにきた。

 この手のゲーム内トラップは、蚊に刺された程度のダメージしか与えてこないと、相場が決まっているのに。


 さすがドラハン。

 やることが鬼畜である。


 気を取り直して再出発。

 今度は無事に採掘ポイントまでたどり着いた。


 変態ライダー:

『なあなあ、SATO』

『ちょっと確認』


 SATO:

『どうしました?』


 変態ライダー:

『次のボス敵、二皇竜なんだよな』

『三帝竜より、さらに厳しいんだよな』


 SATO:

『よくご存知ですね』


 変態ライダー:

『まあな』

『気になって自分で調べた』


 ピッケルをカンカンするサトルの手が止まる。

 すぐに雑念を振り払って、アイテム収集を再開させた。


 SATO:

『二皇竜、けっこう強いです』

『今までの相手はチームプレーで乗り切りましたが……』

『次の戦いは個々の実力が求められます』


 変態ライダー:

『でも、SATOのことだから……』

『また作戦を考えているのだろう』


 SATO:

『はい』

『一応は……』


 とはいっても、平凡すぎる作戦だ。

 二皇竜のどちらを先に倒すのか?

 そんな当たり前すぎるアイディア。

 

 この二皇竜、総合的な強さは同じくらいだが、パラメータにかたよりがある。

 守備寄りのアマテラス・ドラゴンに対して、攻撃寄りのツクヨミ・ドラゴンとなっている。


 そうだな。

 イメージを文字や数字で表現すると……。


 アマテラス・ドラゴンの内訳。

 体力:100

 攻撃力:70


 ツクヨミ・ドラゴンの内訳。

 体力:70

 攻撃力:100


 といった感じ。


 SATO:

『RPGとかと一緒で……』

『複数のボスを相手にする場合は……』

『HPが低くて攻撃力が高い方から狙います』


 変態ライダー:

『つまり、ツクヨミ・ドラゴンから落とすと?』

『そういうことだよな』


 SATO:

『ご明察です』

『その後、2人が合流して……』

『残っているアマテラス・ドラゴンを倒します』


 片方を倒したら、ほぼ勝ち確定。

 ツクヨミ・ドラゴンを仕留めるまでが本当の勝負。


 これまでの情報を総合すると、戦いの組み合わせは決まってしまう。


 SATO vs ツクヨミ・ドラゴン

 変態ライダー vs アマテラス・ドラゴン


 プレイヤースキルで一日いちじつちょうがあるサトルが、より責任のある仕事を引き受けるべき。


 変態ライダー:

『俺はアマテラス・ドラゴンを引き受けて……』

『死なないように粘りまくる』

『そういうことか?』


 SATO:

『そうです』

『倒されたら元も子もないですから』

『安全には気をつけて、ダメージを蓄積させてください』


 変態ライダー:

『ちょっとお願いがあるんだけどさ……』

『聞くだけ聞いてくれないかな?』


 SATO:

『はい』

『なんでしょうか?』


 変態ライダー:

『ツクヨミ・ドラゴンを倒す役目……』

『俺にゆずってくれないかな?』


 サトルは画面に向かって、えっ⁉︎ とつぶやき、思わずコントローラーを落としてしまった。

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