第32話

 二皇竜への挑戦、4日目。


 とうとう40回負けた。

 ひたすらツクヨミ・ドラゴンに挑んで、同じ数だけ返り討ちにあった。


 サトルには2個ほど心に決めたことがある。


 1つは、ライダーさんがギブアップしない限り、勝利を諦めないこと。

 100回だろうが、200回だろうが、その挑戦を見守り続ける。


 もう1つは、向こうが求めてこない限り、絶対に口出ししないこと。

 余計なアドバイスというのはモチベーションを奪う。

 そこに例外など存在しない。


 変態ライダー:

『感触をつかめそうでつかめない』

『何かが足りないんだよな』


 SATO:

『過去で一番の善戦でしたね』

『あと一歩じゃないでしょうか』


 変態ライダー:

『ハンマーとの相性が悪いのかな?』

『SATOはどう思う?』


 SATO:

『う〜ん、そうですね』

『全部で13ある武器のうち……』

『ハンマーの相性は上から数えて7番目ですね』


 変態ライダー:

『真ん中かよww』

『勝てないの、俺の腕前のせいだな』

『_( _´ω`)_ペショ』


 とはいえ、立ち回りは板に付いてきた。

 克服すべきポイントはあと2つか3つくらい。


 がんばれ、ライダーさん。

 40回負けたということは、ヒントを40個手に入れたのと一緒なのだ。


 SATO:

『どうしますか?』

『あと2回か3回は挑めますが……』


 変態ライダー:

『ちょっと待って』

『手元のノートで敗因分析してみる』


 SATO:

『了解っす』


 サトルは缶コーラを開封した。

 炭酸の味を噛みしめながら、水分と糖分をチャージしておく。


 ライダーさん、頑固だよな。

 そういうところ、嫌いじゃない。


 かくいうサトルも頑固なのだ。

 小学校の通信簿には、毎年のように『粘り強い』とコメントされた。


 パズルと一緒。

 時間をかけてクリアするから楽しい。

 知恵の輪だって、一瞬で解けちゃったら、お金のムダと感じないだろうか。


 変態ライダー:

『俺の防具ってさ……』

『見直した方がいいと思う?』


 SATO:

『そうですね』

『発動スキルとか、ちょっと変えてみるのはアリですね』


 ライダーさんは現在『防御力アップ』系のスキルを発動させている。

 残念なことに、ツクヨミ・ドラゴンの殺傷力が高すぎて、恩恵を受けているとはいえない。


 変態ライダー:

『いま迷っているのだが……』

『根性スキルに切り替えるのってどうかな?』


 SATO:

『アリですね』

『保険になりますから』

『ミスったら負ける、というプレッシャーも減ると思います』


 やるな。

 自力で正解にたどり着いた。

 サトルは画面に向かってパチパチと拍手しておく。


 ちなみに根性スキルというのは、HPが50%以上あるとき、特大ダメージを受けても、HPがゼロにならず1だけ残る、という効果。

 1回のミスで死ぬのを回避できる。


 ただし、発動するのは1回のクエストで一度きり。

 イメージとしては、命が0.5個増えるのに近い。


 変態ライダー:

『なあなあ』

『ドラゴンって、10分に一回くらい怒るじゃん』

『怒りが解除されるまでの長さって決まっているの?』


 SATO:

『はい、固定です』

『ツクヨミ・ドラゴンの場合、90秒らしいです』


 変態ライダー:

『はぁ⁉︎ 90秒⁉︎』

『体感、5分くらいなのだがww』


 SATO:

『90秒です笑』


 変態ライダー:

『ツクヨミ・ドラゴンが怒ったとき……』

『SATOなら立ち回りを変えたりする?』


 SATO:

『そうですね』

『俺なら……』


 怒ったドラゴンは攻撃力が増してスピードもアップする。

 中には技のレパートリーが増えちゃうドラゴンもいる。


 SATO:

『90秒を数えながら、ひたすら逃げますね』


 変態ライダー:

『マジかよ……』

『戦闘中に数えんのかよ』


 SATO:

『手元の携帯にストップウォッチをセットしておいて……』

『チラチラ確認する方法がおすすめです』


 変態ライダー:

『すげぇな』

『俺もやってみよう』

『(´▽`)アリガト!』


 ライダーさんが装備を変更しにいく。

 そのあいだ、サトルは手元のアイテムを整理する。


 あと一歩。

 出口は見えている。

 たぶん、指先はかすっている。

 もう一押しで勝てる。

 信じるだけ。


 変態ライダー:

『神はすぐに後悔する』

『何しろ神は吝嗇りんしょくだから』


 SATO:

『そのフレーズ知っています』


 変態ライダー:

『えっ⁉︎ マジで⁉︎』


 SATO:

『サン=テグジュペリですよね』

『最近、読みました』


 変態ライダー:

『奇遇すぎて草!』

『でも、格好いいよな!』


 SATO:

『神はすぐに後悔する』

『何しろ神は吝嗇だから』

『人生で一度は口にしてみたいです』


 変態ライダー:

『いやいや!』

『完全に頭ヤベーやつじゃん!』


 SATO:

『でも、サン=テグジュペリは本に書いたじゃないですか』


 変態ライダー:

『あれは天才だから許されるんだよ』

『とはいえ、なんだ……』

『メチャクチャ嬉しいぜ』

『SATOにこの言葉が通じたのは』


 SATO:

『はい、俺も嬉しいです』

『意外な共通項ってやつですね』


 変態ライダー:

『共通項ww』

『SATOは以前より言葉のセンスが良くなったな』

『さすが高校生』


 SATO:

『読書の恩恵だと思います』

『ライダーさんには負けますが……』


 変態ライダー:

『照れるじゃねえか』

『(*´ω`*)モキュ』


 そういや、エリナと仲良くなったのも、小説がきっかけだったな。

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