第33話

 二皇竜への挑戦、5日目。


「よしよしっ! いけいけっ! もう少しだ!」


 ライダーさんとツクヨミ・ドラゴンの熱闘ねっとうが続いている。

 サトルは巻き込まれないよう注意しつつ、両者の残りHPに気を配っていた。


 全体回復アイテムを飲む。

 50%ラインを割ってしまったライダーさんのHPを全回復させておく。


 これが根性スキルの強み。

 50%以上のHPをキープしておけば、実質、不死鳥フェニックスライダーのできあがり。


「ああっ! くそっ!」


 回復がギリギリ間に合わなかった。

 ツクヨミ・ドラゴンに一刀両断されたライダーさんが、ぶっ壊れた人形みたいに倒れてしまう。


『変態ライダーが力尽きました』

『クエストに失敗しました』

『街まで戻ります』


 これで44回目の敗北か。

 ツクヨミ・ドラゴンのHP、瀕死ひんしゾーンに入っていたな。

 もっとも惜しい一戦といえる。


 変態ライダー:

『すまねぇ、SATO』

『たくさん回復アイテムを投げてもらったのに』


 SATO:

『いえいえ、気にしないでください』

『いくらでも回復アイテムの予備はありますから』


 変態ライダー:

『本当にすまん……』

『あとで俺のアイテム、そっちに送る』


 SATO:

『平気ですよ』

『それに、ライダーさんは防具の強化で……』

『所持金が枯渇こかつしているでしょうから……』

『俺のフォローは不要です』


 変態ライダー:

『。゚(゚´Д`゚)゜。ウァァァン』

『ヽ(o'д'o)ノアリガ㌧♪』


 励ましてはみたものの、回復アイテムの残量は心許こころもとない。


 おそらく3時間以内には底を突くだろう。

 このままのペースで敗北が続いたとしたら。


 どうする?

 今日はいったん打ち切って、アイテムの原料を補充させてもらうか?


 いやいや。

 ライダーさんがログアウトした後、こっそり補充しにいこう。

 余計な心配をかけさせたくない。


 変態ライダー:

『ちょっと気づいたんだけどさ……』

『アレがないから勝てないんじゃない?』

『(´・_・`)カナー』


 SATO:

『???』


 変態ライダー:

『ほら、いつも作戦名を考えているだろう』

『ツクヨミ・ドラゴンがやべぇな、という話に終始して……』

『今回の作戦名を考えていなかったよな』


 SATO:

『たしかに、おっしゃる通りですね』

『今回の主役はライダーさんなので……』

『ぜひライダーさんが考えてください』


 変態ライダー:

『う〜ん、正直、頭が疲れていて……』

『いいのが思いつかない』

『(;^_^A アセアセ・・・』


 SATO:

『いつもテキトーじゃないですか?』

『今回もありきたりな名前でいいですよ』


 変態ライダー:

『じゃあ、決めた!』

『ムーンライト作戦にしよう!』


 SATO:

『えぇ……』


 変態ライダー:

『えっ⁉︎ ダメなの⁉︎』

『Σ(゚Д゚;エーッ!』


 SATO:

『ムーンライト伝説みたいじゃないですか?』


 変態ライダー:

『まあ……』

『たしかに……』


 SATO:

『月に代わってお仕置きというより……』

『月にお仕置きされていますよね、俺たち?』


 変態ライダー:

『アッヒャッヒャ! ヽ(゚∀゚)ノ ㌧㌦! ㌧㌦!』

『違いねぇ!』


 SATO:

『ゴッド・イーター作戦とかどうです?』

『これなら勝てそうな気がします』


 変態ライダー:

『いいね! いいね! いいね!』

『SATO案のゴッド・イーター作戦にしよう!』

『d(≧∀≦*)ナイス!』


 というわけで、仕切り直して再戦。

 でも、その前に……。


 変態ライダー:

『すまん、腹ごしらえさせてくれ』

『ミニサイズのカップ麺を食べてくる』


 SATO:

『いいですね、ミニカップ麺』

『俺も受験勉強のとき、好んで食べていました』


 変態ライダー:

『だよな!』

『夜食のラーメンを食うために勉強がんばる、まであるよな!』


 SATO:

『わかります笑』

『じゃあ、30分後に再開しませんか?』

『そのあいだ、俺は学校の宿題をやりますから』


 変態ライダー:

『はいよ〜』

『いったん、離席しま〜す』

『((((((((((((((((((((*っ・ω・)っ ブ-ン』


 ところが5分後。

 ライダーさんからチャットが送られてきた。


 変態ライダー:

『あ』

『あ』

『あああああ』

『ああああああああああああああああああ』


 なんだ、これ。

 猫がキーボードを踏んだのだろうか。


 変態ライダー:

『りんご』

『ごりら』

『らっぱ』

『ぱんつ』


 今度は1人しりとり⁉︎


 きっと、ちびっ子だ。

 ライダーさんと同居している甥っ子か姪っ子が、部屋に侵入してきて、勝手に遊んでいるのだろう。


 微笑ほほえましいな。

 このわんぱく小僧め。


 ピコン。


 次の一行を目にしたとき……。

 サトルの脳裏のうりまわしい記憶がフラッシュバックしてきて、全身を駆けめぐる血という血をたぎらせた。


 変態ライダー:

『おちんちん、ふりふり〜』

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