第13話

 激しい。

 とても激しい戦いだった。


 大地がぜた。

 火の雨が降ってきた。

 火球ブレスの直撃をもらった。


 HPゲージがレッドゾーンまで沈んだのも一度や二度ではない。


 あぶねぇ……。

 あと1秒でも回復が遅ければ、ゲームオーバーになるところだった。

 そんな冷や冷やを5分に1回くらい経験した。


 SATO:

『ライダーさん!』

『ありがとうございます!』

『回復、助かりました!』


 変態ライダー:

『気にすんなって!』

『いつも助けられているから!』


 くそっ……。

 手強いな……。

 知っていたけれども!


 イフリート・ドラゴンの圧力がハンパない。

『1回でもミスしたらHPを刈り取ってやるぞ!』という無言のプレッシャーが画面越しに伝わってくる。


 現実世界にいるサトルは秘密のアイテム。

 キンキンに冷えたエナジードリンクに手をつけた。


 脳みそをフル回転させて、心身のパフォーマンスをMAXまで高めておく。


 すでに0時過ぎ。

 カフェインの摂取せっしゅは自傷行為だけれども……。

 知るか! 男には戦わなければならない時があるんだよ!


 変態ライダー:

『ちっ!』

『あいつ、エリア移動しやがった!』

『もしかして、俺たちにビビったか!』


 SATO:

『逃げてくれて助かりましたね』

『いったん、体勢を立て直しましょう』


 HPを全回復させておく。

 武器の切れ味をMAXにさせて、一時強化アイテムも飲んでおく。


 変態ライダー:

『ここまでは順調だが……』

『深夜なのに、この緊張感はヤバいな』


 SATO:

『はい』

『1分間が10倍くらいの長さに感じられます』


 変態ライダー:

『それ!』

『一番の敵はリアル世界のスタミナか……』


 バトル開始から25分。

 ここまで致命的なミスはない。


 問題なのは後半戦。

 ライダーさんの集中力が切れないか。


 いや、違う。

 2回か3回のミスは起こる。

 そういう前提で作戦を立てるんだ。


 なるべく回復はこまめに。

 欲張って攻めすぎない。

 この2点は厳守だな。


 変態ライダー:

『なあ、SATO』

『俺、この戦争が終わったら』

『一人焼肉デビューするわ』


 SATO:

『なんすか』

『安い死亡フラグみたいな』


 変態ライダー:

『ほら、焼肉屋に一人で入るの』

『謎に勇気がいるだろう』


 SATO:

『でしょうね』


 変態ライダー:

『一人でお店に入って、たらふく食べたら』

『新しい自分になれる気がしてきた』


 SATO:

『じゃあ、俺はこの戦争が終わったら』

『一人カラオケデビューを果たして』

『アニソンばかり熱唱してきます』


 変態ライダー:

『えっ⁉︎』

『SATOって、一人カラオケしたことないの⁉︎』


 SATO:

『ないですよ』

『たまに友達と歌うくらいです』

『一人だと入店するのが恥ずかしいじゃないですか』


 変態ライダー:

『いやいやいや⁉︎』

『みんなの前で歌う方が恥ずかしいわ!』

『俺、一人カラオケじゃないと無理な人間だわ!』


 SATO:

『へぇ〜』

『変わっていますね』


 変態ライダー:

『そうかな?』


 SATO:

『だと思います』


 ライダーさん、引っ込み思案なのかな。

 歌声を聴かれるのが恥ずかしいとか、かわいい性格といえる。


 変態ライダー:

『あ、いけね』

『俺たちがムダ話しているから』

『怒ったイフリート・ドラゴンが戻ってきやがった』


 SATO:

『バトル再開ですね!』


 変態ライダー:

『よしっ!』

『なんか作戦をくれ!』


 SATO:

『なるべく回復はこまめに』

『欲張って攻めすぎない』

『この2つで』


 変態ライダー:

『ラジャー!』


 近づく、斬る、退がる。

 ヒット&アウェーがボス戦の基本。


 ライダーさんが果敢かかんに斬り込む。

 サトルもそれに続く。


 イフリート・ドラゴンが尻尾で反撃してくるけれども、すでに十分な距離をとっている。


 よしよし。

 ライダーさんの動きも冴えている。


 もう一押しで倒せそうなとき……。

 軽いアクシデントがサトルを襲った。


 イフリート・ドラゴンの体当たりを食らったのだ。

 運の悪いことに、ピヨピヨ状態(お星様がグルグルするやつ)になり、一時的にコントロールを失ってしまった。


 次のイフリート・ドラゴンの攻撃は……。

 もっとも威力の高い技、溜めのある火球ブレス。


 マジか⁉︎

 万事休すか⁉︎

 あと一歩で勝てそうなのに!


 悔しい! 悔しい! 悔しい!

 よりによって一番最悪のタイミングでピヨるなんて!


 これまでの戦いが走馬灯のようにフラッシュバックした。


 この45分間、よく戦ったといえる。

 再戦したらリベンジに成功するだろう。


 でも……。

 勝ちたかった。

 今夜クリアしたかった。

 ライダーさんに勝ち星をプレゼントしたかった。


 コントローラーをガチャガチャと動かす。

 ムダな抵抗とは知っているけれども。


「ここまでか……」


 飛んでくる火球ブレス。

 あれを食らったらHPが尽きて、サトルたちの敗北が確定する。

 悔しさのあまり、目をつぶったとき。


「SATO!」


 誰かに呼ばれたような気がした。

 両親かと思ったけれども、周りには誰もいなかった。


 そして目を疑う。

 ゲームオーバーになっているはずの画面に、


『ターゲットを討伐しました!』

『あと60秒で街へ戻ります』


 というメッセージが表示されていたのだ。


 はぁ?

 勝ったのか?

 一体、どうやって?


 サトルは動けなかったから、ライダーさんがトドメを刺したのだろう。


 あの一瞬で。

 あの一撃で。

 ライダーさんがフィニッシュブローを叩き込んだのか。


 スポーツ漫画みたいな展開。

 頭がパニックになりそう。


 変態ライダー:

『やったな、SATO!』

『俺たち、勝ったぞ!』


 SATO:

『はぁ……』


 変態ライダー:

『イフリート・ドラゴンを倒したんだよ!』


 SATO:

『そのようですね』

『信じられません』


 変態ライダー:

『なんか悪いな』

『最後の一撃、俺がもらっちゃった』

『どっちかというと、SATOの方が活躍していたのにな』


 SATO:

『俺は最後、負けたと思いました』

『ピヨっているところに、火球ブレスが飛んできたので』


 変態ライダー:

『えっ⁉︎ そうなの⁉︎』

『SATO、危なかったの⁉︎』


 SATO:

『あはは……』


 変態ライダー:

『すまん……』

『自分のことに夢中で周りが見えていなかった』


 SATO:

『いえいえ』

『最後、ライダーさんが攻めてくれて正解です』

『あれがなかったら、負けていました』


 変態ライダー:

『いぇ〜い』


 SATO:

『いぇ〜い』


 なんだよ。

 サトルのピンチに気づいてなかったのか。


 変態ライダー:

『どうかな?』

『俺も少しは上手くなったかな?』


 SATO:

『はい』

『見違えるくらい成長しました』


 変態ライダー:

『えへへ……』

『何歳になってもめられるのは嬉しいな』

『(*´ω`*)モキュ』


 SATO:

『あはは……』


 ライダーさん、顔文字だけはキュートだよな。

 これで中身が女の子だったら最強なのに。

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