第40話

 変態ライダー:

『ごめん、ちょっと妹と弟が……』

『大乱闘しているから、止めてくる!』


 SATO:

『それって、ゲームじゃなくて?』


 変態ライダー:

『リアルの方だよ!ww』

『君はホントおもしろいな!』


 しばらくの離席。

 サトルはよく冷えたコーラを取ってきて、一口飲んだ。


 炭酸ジュースは1日に1缶まで、と父から釘を刺されているが……。


 ゲームを全クリした祝杯なのだ。

 飲まずにはいられない。


 変態ライダー:

『ごめん、ごめん、お待たせ』

『それで、どこまで話したっけ?』


 SATO:

『ライダーさんが怒り心頭になって……』

『もう、ういめろ♪ やめた! までです』


 その日のうちに心機一転。

『変態ライダー』というアカウントを別ゲームに作成した。


 中身は独身のおっさんを想定。

 古いネットスラングを多用して、それっぽく振る舞ったらしい。


 変態ライダー:

『やっぱり、名前のイメージって大切だよな〜』

『周りの人、敬語で話しかけてくれることが増えたし』


 SATO:

『まあ、変態ライダーという名前ですから……』

『人生振り切れちゃっている人というか……』

『1回くらい警察のお世話になっていそうです』


 変態ライダー:

『ひでぇww』

『SATOくんって時々失礼だよね』


 SATO:

『ゲームの中だけですよ』

『リアル世界では無害そうな青年です』


 変態ライダー:

『本当かな〜?』


 SATO:

『ライダーさんも一緒ですよね』


 変態ライダー:

『まあな〜』

『地味っ子だな』


 変態ライダーとして過ごす日々は、エリナの性分に合っていた。

 大多数の男性プレイヤーと対等に話せるのが楽しかった。


 ネットゲームは、基本、下品なキーワードは打ち込めないようフィルター設定されている。

 そういう配慮も女性のエリナには助けとなった。


 SATO:

『中身が女性って……』

『バレないものですか?』


 変態ライダー:

『意外とバレないね』

『あと、男として枯れた存在だと思われたのか……』

『女性プレイヤーからよく声をかけられたよ』


 SATO:

『嘘でしょう⁉︎』


 変態ライダー:

『いや、ホントホント』

『むっつりは敬遠されるでしょ』

『私はフルオープンな存在だったからさ』

『たぶん、表裏がなさそうな人だと思われたんだよ』


 なるほど。

 その発想はなかった。


 変態ライダー:

紆余うよ曲折きょくせつあったけれども……』

『SATOくんとゲーム内で出会って……』

『現在にいたる、という感じだね』

『どうかな?』

『普通すぎてつまらないでしょ?』


 SATO:

『その、つまらないでしょ? は……』

『おもしろいでしょ? という意味の……』

『つまらないでしょ? でしょうか?』


 変態ライダー:

『((*´∀`))ケラケラ』

『やっぱり、君、頭いいね』

『彼女いないって本当?』


 SATO:

『いない歴=年齢です』

『天地神明に誓います』


 変態ライダー:

『ふむ、なら信じよう』

『(´-ω-)ウム』


 SATO:

『ライダーさんが誕生した経緯は……』

『これで理解することができました』


 変態ライダー:

『もう一個の方だよね』

『打ち明けようと思った理由だけれども』


 カタカタカタ……。

 エリナが何かを入力している。


 変態ライダー:

『たぶん、君のことが好きだから』

『人間としてリスペクトしているから』

『SATOくんって、とても誠実なんだよね』

『ほら、約束を守ってくれるでしょう』

『攻略法を見つける、といったら……』

『絶対に見つけてくる』


 SATO:

『しかし、ゲームに対する情熱と……』

『その人の誠実性は、必ずしも比例しません』


 変態ライダー:

『いや、わかるよ』

『もう2年以上SATOくんを見ているし』


 じ〜ん。

 温かい言葉の猛ラッシュに胸の奥がポカポカする。


 変態ライダー:

『悪気がなかったとはいえ……』

『SATOくんのことをだましてきた』

『もし不快に思われたなら、その点は謝る』


 SATO:

『いや、不快には思いません』

『驚きはしましたが……』

『それに、ありがとうございます』

『本当のことを話してくれて』

『胸くそ悪い記憶なのに』


 変態ライダー:

『どうして君が感謝するのよ!』

『これじゃ、私が形無かたなしじゃない!』


 ムッキ〜! となっているエリナを想像して、サトルは吹き出しそうになる。


 SATO:

『それに俺も謝らないといけません』

『騙してきたという意味では、ライダーさんと同罪なので』


 変態ライダー:

『あら? そうなの?』

『もしかして、余命が残りわずかで……』

『病院のベッドからプレイしているとか?』


 SATO:

『そうじゃなくて……』

『リアル世界でライダーさんと会っています』


 変態ライダー:

『へぇ〜』

『それが本当ならスーパーサプライズだね』

『私がドラハンをやっていること、家族しか知らないはずなのに』

『実はSATOくん、超能力者なのかな?』


 サトルはふうっと深呼吸した。

 用意してきたメッセージをチャットに打ち込む。


 ジグソーパズルの最後の1ピースをはめるように。

 ゆっくりと、万感の思いを込めながら。


 SATO:

『明日、伝えたいことがあります』

『放課後の校舎裏でお話しできませんか?』

『伏見さん……』

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