第39話

 変態ライダー:

『実は俺……』

『というか、私っていうべきかな……』


 SATO:

『???』

『??????』


 変態ライダー:

『女なんだよ』

『俗にいうネナベってやつ』

『(*。・ω・)σ ダナッ♪』


 サトルはわざと3秒置いた。

 こちら側の気持ちを悟らせないために。


 SATO:

『またまた、ご冗談を』

『今日はエイプリルフールじゃないですよ』


 変態ライダー:

『いやいや、本当に女なんだって!』

『身分を示す手段がないけどさ!』


 SATO:

『笑』

『知ってました』

『なんとなく気づいていました』


 変態ライダー:

『???』


 SATO:

『ライダーさんの中身……』

『女性じゃないかと疑っていました』


 変態ライダー:

『お……おう』

『それっていつから?』


 SATO:

『アヴァロンをプレイしていた時代は……』

『完全に40代のおっさんかと思っていました』


 変態ライダー:

『あ〜、つまり……』

『ドラハンに引っ越してからか〜』

『そっか、そっか、バレていたんだ〜』


 SATO:

『おぼろげながら』

『ライダーさん、ピンチになったり、腹を立てると、まあまあ女性っぽいので』


 変態ライダー:

『((*´∀`))ケラケラ』

『反論できないな』

『指摘が的確すぎるわ』


 SATO:

『たぶん、若いですよね』

『10代か20代じゃありませんか?』


 変態ライダー:

『すごいね』

『そこまでお見通しなんだ』

『レトロな趣味が丸出しって、よく友人から指摘されるんだけどな〜』

『SATOくんは慧眼けいがんの持ち主だね』


 SATO:

『いえいえ』

『昭和生まれの人ではなさそうだな、という直感です』


 SATOくん。

 この呼び方はこそばゆい。

 エリナの声が脳内再生されてしまう。


 SATO:

『でも、どうして俺に打ち明けようと思ったのですか?』

『というか……』

『なぜネナベしているのです?』


 変態ライダー:

『いい質問だね』

『その2つは関連しているから……』

『順番に答えるけれども……』

『長くなってもいい?』


 SATO:

『かまいません』

『今夜はヒマですから』


 サトルは居住まいを正した。

 連続して送られてくるメッセージを、しっかりと脳裏に刻み込んでいった。


 変態ライダー:

『昔はね、私も普通に女の子だったよ』

『かわいいアバターを利用してさ……』

『名前も、ういめろ♪ みたいな……』

『THE・ゲーマー女子っぽい感じ』


 当時のライダーさんは……いや、エリナはMMORPGを楽しんでいたらしい。


 ギルドシステムがあるやつ。

 30人くらいの仲間で集まって、レイドボスと戦ったり、ギルド戦をやったり。


 サトルもその手のゲームを遊んだことはある。


 正直、ギルドシステムはちょっと苦手だ。

 ノルマが課されていたり、仲の悪いメンバーがいたり。

 トラブルに頭を悩ませるのは、いつもギルドマスター1人であり、無駄にストレスを生み出しているイメージだった。


 変態ライダー:

『別にガチ勢じゃないからね』

『たぶん、大学のサークルみたいなユルい雰囲気だよ』

『いっとくけど、私は……』

『姫プレイはやってない』

『('ω'乂)ダメー』


 女性プレイヤーが1割から2割のコミュニティで、男女のギスギスした関係はなく、ギルメン同士の仲は良好だったそうだ。


 変態ライダー:

『ちょっとさ〜』

『こっから先は愚痴ぐちになるんだけどさ〜』


 SATO:

『はい、どうぞ』


 ギルドという閉鎖空間にいると、女性プレイヤーは何かとネタにされやすい。


 かわいい、おもしろい、うちの看板娘。

 そういう褒め言葉をもらえる日もあれば……。


 変態ライダー:

『もう、そいつの名前を忘れちゃったけどさ〜』

『俺のことを、貧乳、貧乳、呼んでくるやつがいてさ〜』

『これは俺もミスったのだが……』


 ギルチャの最中に、タイプミスして『うちは貧乳』と打ち込んじゃったらしい。

 それが原因で呼び方が定着したという、小学生みたいな事件である。


 変態ライダー:

『いやいや!』

『俺って貧乳じゃねえし!』

『とか思っちゃうわけだよね!』

『証・拠・写・真! 見せたろか!』

『みたいな……』

『いや、見せないけどさ!』

『というか見せたところで……』

『ネットで拾ってきただろう! て』

『返されるのが予想されるけれども!ww』

『だいたいさ〜、ギルチャでさ〜』

『胸のサイズ、申告するわけないだろ!』

『お前の脳みそはクソ雑魚ざこナメクジかよ!』

『ぼけぇ! あほぉ! かすぅ! みたいな』

『それで怒りの高気圧が成層圏までドッカーン!』

『もぉぉぉ~っ!!o(*>д<)o″))』

『となるわけです』


 SATO:

『ライダーさん、イライラのあまり……』

『一人称が俺に戻っています』


 変態ライダー:

『おっと、すまねぇ』

『(*´ω`*)モキュ』


 エリナは怒り爆発。

 とうとう『ういめろ♪』のゲームアカウントを削除したのである。


 変態ライダー:

『SATOくんなら、理解してくれるかな〜』

『苦手なクラスメイトと無理やり仲良くするイメージ』


 SATO:

『なんとなく理解できます』

『30人もいたら、反りが合わない人って絶対いますよね』


 変態ライダー:

『そうそう』

『て……』

『こんな私の話、聞いていて楽しい?』


 SATO:

『メチャクチャ楽しいです』

『いま腹をよじって笑っています』


 変態ライダー:

『本当に?』


 SATO:

『はい』

『俺は一人っ子なので……』

『ライダーさんみたいなお姉さんか妹がほしかったです』


 変態ライダー:

『へぇ〜』

『君って聞き上手だね』

『d(≧∀≦*)ナイス!』


 エリナから聞き上手と褒められるのは、とても素晴らしい体験だった。

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