第26話

 この世でもっとも厳しい仕事は何なのか。

 サトルは以前にネットで調べたことがある。


 ベーリング海のカニ漁船漁師は、少なくともTOP5に入りそうだ。


 1ヶ月で1,000万円くらい稼げる。

 その代わり毎シーズン30人くらい死亡するのだとか。


 きっとドラゴン・ハンターという職業も似たような厳しさなのだろう。


 狩るか。

 狩られるか。

 極限のルールに身を投じた猛者たちなのだから。


「さてと、どうやって狩るかな〜」


 三帝竜のクリア方法について。

 サトルは1人のときに模索してみた。


 とりあえず、実戦あるのみだ。

 クエストに挑む、負けて戻ってくる、また挑んでみる。


 三帝竜はどれも攻撃パターンが似ている。

 整理してみると、次のような感じ。


(1)タックル

(2)連続噛みつき

(3)火球ブレス(小)

(4)火球ブレス(大)

(5)一回転して尻尾をぶん回す

(6)空高くに舞い上がり急降下ダイブ


 どの攻撃が出てくるのか、というのは完全にランダム。

 つまり、行動の先読みはできない。


「ん、待てよ」


 サトルは気づいた。

 同じ技を連続して繰り出してくることはなさそう。

 つまり、尻尾攻撃のあとは、尻尾攻撃以外の技がくる。


 これは有力な手がかりである。

 6つある技で一番やっかいなのが、この尻尾攻撃なのである。


 サトルは三帝竜の攻撃を色分けしてみた。


・警戒すべき技、無理に反撃する必要なし

(1)タックル

(2)連続噛みつき


・反撃のチャンス、隙の多い技

(3)火球ブレス(小)

(4)火球ブレス(大)

(6)空高くに舞い上がり急降下ダイブ


・最大限に警戒、全力で避けるべし

(5)一回転して尻尾をぶん回す


 ふむふむ。

(3)(4)(6)の技の出し終わりを狙おう。

 イメージ的には後出しジャンケンに近いか。


 あと地形も大切だな。

 狭いフィールドだと、攻撃がくると分かっていても、逃げ場所がなくて死にやすい。


 攻略の糸口が見えてきた。

 あとはライダーさんにどうやって伝えるか。


 資料を起こすか。

 パソコンで画面共有して、5分くらいレクチャーしたら、理解してくれるだろう。


 優先すべきは理解のしやすさ。

 ライダーさん、40代のおっさんだしな。

 絵をたくさん入れてみるか。


 サトルは表計算ソフトを立ち上げて、一番上の段に、

『三帝竜討伐のための基本的な立ち回りについて』

 と打ち込んで、つらつらと文章を入力した。


 ドラゴンに見立てたアイコンと、ハンターに見立てたアイコンをペタペタと貼っていく。


 なんか楽しい。

 小学校の工作の時間みたいな楽しさ。


 さてさて。

 どこまで指示すべきか。


 ぶっちゃけ、仕事じゃない。

 ゲームなのだ、息抜きの遊びなのだ。

 ルールでガチガチに縛る、というのは正しくない気がする。


「一番大切なのは、ライダーさんが死なないことだから……」


・相手の攻撃を見てから動きましょう

・尻尾をぶん回されても当たらない距離を意識しましょう

・反撃のチャンスは火球ブレス、急降下ダイブの後です


 この3つで十分か。

 細かな位置どりを伝えたところで、頭をパンクさせるだけの効果しかないはず。


 パソコンを操作するのに没頭した。

 気づいたときには30分くらい経過していた。


 目をこすって、お茶を一口飲む。


 ライダーさんが期待してくれるから。

『SATOなら何とかしてくれると思ったぜ!』というから。

 サトルも本気になっちゃうんだよな。


「やべ……伏見さんから借りた本、さっさと読まないと」


 あれは2人の会話の糸口。

 サトルがたくさん読んでくると、エリナは嬉しそうにしてくれる。


 ごめんね、ライダーさん。

 今はどっちかというと、ドラハンより読書が優先なんだ。


 この夜は100Pくらい読んでから、安眠の中へ落ちていった。

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