第10話

 あれから数日後。

 サトルはゲーム画面の前で「う〜〜〜ん!」とうなっていた。


 この感情に名前をつけるとしたら何だろう。

 絶望だろうか、消沈だろうか、あるいは悲観か。


 勝てない。

 何回やっても勝てない。

 気づけば17回も負けている。


 タイタン・ドラゴンに連敗しまくったとき、

『ひょっとしたら次こそ勝てるのでは?』

 という希望の光があった。

 それが今回はない。


 変態ライダー:

『すまねえ、SATO』

『ちょっと風呂に入って休憩してくるわ』


 SATO:

『了解っす』

『でしたら22時30分から再開しましょう』


 変態ライダー:

『なんか、ごめん』

『今回も俺が足を引っ張りまくっている』

『さっきも、爆弾をつかおうとして、SATOをぶっ飛ばしちゃったし』


 SATO:

『いやいや』

『あれは単なる事故ですよ』

『攻めようとした結果のミスなので仕方ないです』


 変態ライダー:

『面目ない……』

『SATOはいつだって優しいな』


 SATO:

『俺が新しい作戦を考えますので……』

『ライダーさんは気持ちを切り替えてください』


 変態ライダー:

『おう……よろしく』

『頼りにしているぜ、相棒』


 サトルはコントローラーを手放してベッドに寝転がった。


 ドラハンにはいくつか壁がある。

 第一の壁が初心者泣かせのタイタン・ドラゴン。

 先週、サトルたちを散々苦しめてきた、体力オバケみたいなモンスターだ。


 第二の壁が『四聖竜しせいりゅう』と呼ばれる4頭のドラゴンだ。


 ネットの掲示板によると、タイタン・ドラゴンを倒して、

『やべぇ! ドラハンが楽しくなってきた!』

『俺って才能あるかも! コツをつかんだし!』

 と調子づいてきたプレイヤーの心をへし折るのが四聖竜の役割らしい。


 炎聖竜えんせいりゅう……イフリート・ドラゴン

 地聖竜ちせいりゅう……ガイア・ドラゴン

 風聖竜ふうせいりゅう……シルフ・ドラゴン

 海聖竜かいせいりゅう……ネプチューン・ドラゴン


 サトルたちに17個目の黒星をプレゼントしてきたのが、炎聖竜ことイフリート・ドラゴン。

『やつは四聖竜の中でも最弱』とネタにされているけれども、びっくりするくらい強い。

 ていうか、残りの3匹、どんだけ強いんだよ!


 まず体力が高い。

 そして攻撃力も高い。

 あと動くスピードも速い。

 つまりお手上げ。


「どうやって倒せばいいんだよ〜!」


 サトルは無意識のうちに叫んでいた。


 ダメだ、勝てるビジョンが見えない。

 これから敵もどんどんパワーアップしていくのに。


「しかも、ライダーさん、心をへし折られて、明らかにモチベーションが下がってきているし……」


 このままだと引退か⁉︎

 いけない! それだけは阻止しないと!


 サトルはドラハンの攻略サイトにアクセスした。

 イフリート・ドラゴンの情報を細かくチェックする。


 どうしてこんなにHPが高いんだ?

 ゲームディレクターの計算ミスじゃないのか?


 現状、削れているのが半分くらい。

 2倍のダメージを叩き込まないと倒せない。

 どう考えても無理ゲーに思えるが……。


 いやいや、逆に考えるんだ。

 攻略法はある、きっと、どこかに。

 ゲームの開発チームが用意しているはず。


「イフリート・ドラゴンは火属性か」


 これまで相手にしてきたドラゴンには属性がなかった。

 サトルたちも無属性の武器ばかり使用してきた。


 火。

 ならば水に弱い。

 武器も防具も水属性で統一していったら勝てるってことか?


 しかし、問題はある。

 水属性の装備を持っていないのだ。

 解放されているクエストで、水属性のドラゴンが出てくるのは……。


「あった!」


 一個だけクエストを見つけた。

 このドラゴンなら現在のサトルたちでも勝てそう。


 新しく出てきた属性という概念。

 イフリート・ドラゴンのすさまじい火力。

 火は水に弱いということを考慮すると……。


 わかった!

 属性で相手の弱点をつけよ。

 開発チームからのメッセージだ。


 22時30分、ライダーさんが戻ってきた。

 さっそく調べた情報をシェアする。


 SATO:

『わかりましたよ』

『イフリート・ドラゴンを倒す方法』


 変態ライダー:

『えっ⁉︎ マジで⁉︎』

『もう作戦を思いついちゃったの⁉︎』


 SATO:

『こいつ、普通に戦ったら、勝てないんです』

『対イフリート・ドラゴンの装備が必要なんです』


 変態ライダー:

『むむむ……』

『なんか難しそうな話だな』


 ドラハンには属性という概念があることを説明した。

 火は水に弱くて、水は雷に弱くて、雷は地面に弱くて……。


 SATO:

『腕っぷしに自信があるプレイヤーなら話は別ですが……』

『そもそも無属性の装備でイフリート・ドラゴンに挑んだのが敗因なのです』


 変態ライダー:

『なるほど』

『じゃあ、次は水属性の装備で挑めばいいわけね』

『て……あったっけ? 水属性の剣とか?』


 SATO:

『ないです』

『これから素材を集めて作成します』


 変態ライダー:

『作成できるの?』


 SATO:

『できます』

『時間はかかりますが』


 変態ライダー:

『それを作成したら……』

『イフリート・ドラゴンに勝てるかな?』


 SATO:

『はい、おそらく』

『俺の計算だと、勝率90%です』


 変態ライダー:

『よっしゃ!』

『なんか俄然がぜん、やる気が湧いてきた!』

『今だから打ち明けるけれども、さっきへこんでいたんだよね』

『トイレにこもって、お腹いてぇ〜、みたいな』


 SATO:

『………………』


 変態ライダー:

『俺ってドラハンの才能ないのかな、みたいな』

『ダメだよな、こんな序盤で折れるとか』

『才能とか以前の問題だわ』


 SATO:

『いえいえ』

『俺の心もへし折れそうでしたから』

『ライダーさんがいなけりゃ、きっと折れていましたね』


 変態ライダー:

『SATO!!!!』

『ありがとう!!!!』

『なんか感動したぞ!!!!』


 SATO:

『あはは……』

『大げさですよ』


 でも、安心した。

 ライダーさんが笑ってくれると、サトルも嬉しかったりする。


 変態ライダー:

『それじゃ、クエストに出発するか!』


 SATO:

『はい! いきましょう!』


 人の心ってやつは、仲間がいると簡単には砕けないらしい。

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