第11話

 帰りのHRが終わった直後。


 サトルは1秒でも早くドラハンにログインすべく、さっさと荷物をまとめて、全力ダッシュで帰ろうとしていた。


「お〜い、加瀬、これからフライドチキン食べにいかね? 季節限定でやっている濃厚チーズフォンデュ味、ヤバいくらい美味うまいらしいぞ」

 

 チーズフォンデュ⁉︎

 しかも濃厚だと⁉︎


 チキンにかじりつく瞬間を想像して、口いっぱいにつばが広がったけれども、狂おしいほどの食欲をなんとか封殺した。


「悪いな、今日は急いで帰らないといけないんだ」

「またゲームかよ。イベント中なの?」

「そんな感じ」

「なら、仕方ないな」

「申し訳ない。あとで感想を聞かせてくれ」


 OKサインをくれた。

 持つべきものは理解のある友人だ。


「ねえねえ、伏見さん、これからドーナツを食べにいかない?」

「えっ?」

「新しく出たきなこもち味、すごく美味おいしいんだってさ」


 ふ〜ん。

 エリナも寄り道の誘いか。

 てっきり受けるのかと思いきや……。


「ごめん! 今日はどうしても早く帰らないといけなくて!」

「あれ? もしかして、歯医者さんの日だった?」

「え〜と、そうそう、歯医者さん!」


 あ、伏見さん。

 いま嘘をついたな。


 それを見抜けるくらいには、サトルにも洞察力が備わっている。


 急ぎの用事ってなんだろうか。

 ドラハンがリリースされた日も、エリナは『家族の用事が……』といって、友人の誘いを断っていたな。


 て……。

 早く帰らないと。

 ライダーさん、今日は早めにログインする、と宣言していた。

 もしかしたら、サトルを待っているかもしれない。


 次なるターゲット。

 その名はアクア・ドラゴン。


 こいつを倒して、倒して、倒しまくる。

 ゲットした素材をもとに、対イフリート・ドラゴンの装備を完成させる。


 実は昨夜、1回だけアクア・ドラゴンと戦ってみた。

 わりと慎重に立ち回ったところ40分で討伐できた。


 慣れれば30分で倒せそう。

 10回倒すとして必要なのは約5時間。

 今日と明日はひたすらアクア・ドラゴンをボコる作業になりそうだ。


「さてと……」


 家に帰ってゲームを起動させる。

 サトルが待ち合わせ場所へ向かうと、ライダーさんのアバターが準備体操していた。


 SATO:

『すみません!』

『お待たせしました!』


 変態ライダー:

『お、やっときたか』

『もう1時間も待ったぜ』

『テキトーにエロ動画を観てヒマ潰してたわ』


 SATO:

『えっ⁉︎ マジっすか⁉︎』

『なんか申し訳ないです……』


 変態ライダー:

『うそうそ』

『本当は5分前にログインした』

『もしかして、引っかかった?』


 SATO:

『そりゃ、引っかかりますよ!』

『(怒)』


 変態ライダー:

『((*´∀`))ケラケラ』

『実はさ、帰るとき女子から声をかけられて』


 ん? 帰るとき?

 会社の女性社員ってことかな?


 変態ライダー:

『一緒にドーナツを食べにいきませんか?』

『て、誘われたから、ちょっとビビった』


 SATO:

『え〜』

『誘いを受ければよかったじゃないですか』


 変態ライダー:

『いやいや』

『俺はドーナツよりドラハン派だから』

『それに、糖質とか気にするお年頃なんだよ』


 SATO:

『糖質って……』

『全然かわいくないですよ』


 変態ライダー:

『(^◇^)ケッケッケ...』


 SATO:

『声をかけてくれた方、お若いのですか?』


 変態ライダー:

『あ〜、若い若い』

『まだ10代の女の子だな』


 SATO:

『すごいじゃないっすか!』


 ライダーさんはおそらく40代。

 父と娘くらい歳が離れているのでは?


 もしかして、いや、もしかしなくても……。

 現実世界のライダーさん、普通にモテるのではないだろうか?


 だって、キャラクターがおもしろい。

 持って生まれた親近感みたいなやつがある。


 くそっ……。

 サトルも欲しいな。

 ライダーさんの話術とユニークさ。

 絶対に女子ウケすると思うんだよな。


 SATO:

『変なこと質問しますけれども……』

『ライダーさん、普通にモテますよね?』


 変態ライダー:

『いやいやいや⁉︎』

『まったくモテないよ!』

『最高にモテなくて笑える!』


 SATO:

『本当ですか?』

『俺の10倍くらい口達者くちだっしゃですよ』


 変態ライダー:

『なんかね〜』

『異性と話すのがダメなんだわ』

『自分から話しかけるとか、ムリムリムリ!』


 SATO:

『俺も似たようなものですね』

『この前、がんばってA子さんに声をかけましたが……』


 変態ライダー:

『おっ、A子案件か⁉︎』

『一歩前進したじゃん!』

『SATOはすごいよ!』


 SATO:

『でも、ダメなんです』

『周りにクラスメイトがいると』

『向こうも露骨ろこつに恥ずかしがって……』


 変態ライダー:

『あ〜』

『そりゃ、仕方ねえな〜』


 SATO:

『ドラハンみたいに攻略法があればいいのですが……』

『女心が相手となると、時間をかけるしかなさそうです』


 変態ライダー:

『しかし、A子も鈍感だよな〜』

『SATOがたくさん好き好きアピールしているのにな』


 SATO:

『はい……』

『たぶん、俺の気持ちには』

『1ミリも気づいていないでしょうね』


 変態ライダー:

『わかった!』

『俺がA子にガツンと文句をいってやる!』

『そいつをドラハンの世界へ連れてこい!』


 SATO:

『A子さんがドラハンをプレイした日には』

『空から槍かミサイルが降ってきますね』


 変態ライダー:

『(ノ∀`)アチャー』

『そりゃ、仕方ねえな』


 どうして恋愛ってこんなに難しいのかな。

 それに比べれば、イフリート・ドラゴン討伐なんて、100倍くらいイージーだぜ!

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