第6話

 サトルの作戦がハマってタイタン・ドラゴンを倒した翌日。


「どうしたんだよ、加瀬。さっきからニヤニヤしちゃってさ」

「ん? まあ、ちょっと嬉しいことがあってね」


 ここは学校である。

 仲のいい友達3人と一緒に弁当を食べている。


「どうせゲームだろう。レアアイテムが手に入ったのか? 難しいクエストを攻略できたのか?」

「そうそう、そんな感じ」


 サトルはから揚げを口にふくむ。


「加瀬はゲーム一筋だもんな」

「どうなの? ネトゲって楽しいの?」

「ギルドとか入ったら、たくさんのプレイヤーと知り合いになれるんだろう?」

「出会いは? 本物の女子とネカマって、見分ける方法とかあるの?」

「あ〜、それ気になる。教えてくれよ」


 質問攻めにあったので、サトルは手でまあまあと制した。


「ネカマは多いな。正直、雰囲気で見抜くしかないよ。プロのネカマとかいるし。性格が中性的な人も少なくないから」

「でもさ、『ネカマの正しい見抜き方』みたいな情報サイトがあるじゃん。あれを参考にすれば一発じゃないの?」


 いやいや、と否定しておく。


「訓練されたネカマは、そういうの全部チェックしている」

「マジか〜。対策済みかよ」

「プロ、ハンパねえ」


 サトル以外の3人が爆笑する。


「でも、女だと思っていたプレイヤーが男だったら相当ショックじゃない?」

「いや、別に。ふ〜ん、そうなんだ、て感覚かな」


 ネカマとついになる存在。

 ネナベにも話は及んだ。


「この人、男のふりした女じゃないかな……と思ったことは、一回もないな。正直、ネカマに比べてネナベは、数が圧倒的に少ないんだよ」

「そうなんだ」


 ネトゲの話はいったん終了。

 定期テストの話題にシフトする。


「全部65点でいいから、テスト免除してくれないかな」

「それな」


 サトルもアハハと笑って調子を合わせておく。


 教室を移動するとき。

 気になる会話が聞こえた。


「伏見さん、今日はずっと上機嫌だよね」

「えっ? そう見える?」

「うんうん、授業中とか、意味もなく笑っているよ」

「やだ……恥ずかしい」


 へぇ〜。

 エリナも昨日、ラッキーなことがあったのかな。

 なんだろう、ちょっと気になる。


「何があったの? 教えてよ」

「ダメダメダメ! 絶対にダメ!」

「そういわれると気になるな〜。ねえ、半分だけでいいから教えて」


 いいぞ。

 エリナの友人よ。

 もっと攻めろ。


「え〜とね、自分の中で克服したい課題があったのだけれども……」

「なにそれ? 苦手なピーマンを食べられるようになりたい、みたいな?」

「あぁ……その表現は当たらずとも遠からずだね」


 エリナいわく……。

 ここ最近、どうしても超えられない壁があったらしい。

 それを昨夜、見事にクリアしたのだとか。


「えっ、便秘が解消されたってこと?」

「バカ! 違うってば!」


 恥じらうエリナ、かわいいな。


「私一人じゃ超えられない壁でね。とある人がアイディアをくれたから」

「それって、近所に住んでいる物知りおじさんとか?」

「ううん、顔も名前も知らない人」

「ん? SNSみたいな?」

「そんな感じ……」


 ニヤニヤニヤ。

 エリナの友人の眼鏡がキラッと白光りする。


「もしかして、伏見さん、その人にれたの?」

「違うってば!」


 エリナは大声を出してから、あっ! と口元を押さえる。


「変なこといわないでよ」

「ムキになるってことは、少しだけ気になる存在なんだ?」

「う〜ん、どうだろう」


 エリナの気になる存在。

 これは聞き捨てならない情報である。


「その人と会話していると、ちょっと落ち着くんだ。私が一方的にベラベラしゃべったり、意味不明なボケを連発しても、ちゃんと受け答えしてくれるから」

「あっはっは。意味不明なボケって……なんか漫才みたい」

「そうそう。しかも、博識はくしきで、頼りがいもあって」


 ふむふむ。

 エリナはコミュニケーション能力が高くて、何でも知っていて、いざという時に助けてくれる男性が好き。


 て……。

 そんな男性、いつの時代でもモテるわ!


「伏見さん、恋とか興味なさそうなふりして、意外に乙女チックだよね」

「うるせえ……俺はそんなんじゃねえ……」

「あ、怒った」


 んっ⁉︎

 さっき自分のことを『俺』と呼んだ⁉︎


 いや……。

 そういう女子は一定数いるよな。


 僕とか、俺とか、ワイとか。

 ネット上も含めると、一人称がボーイッシュな女子はたくさんいるが……。


「あっ、私、トイレにいきたい」

「じゃあ、私も〜」


 あっ⁉︎

 今度は『私』に戻った!

 さっきの『俺』は何だったんだ、一体。


「いかん、いかん、あまり深く考えるな」

「おい、急にどうした、加瀬?」

「いや、何でもない」


 この時、サトルの脳裏のうりをよぎったのは、どういうわけか変態ライダーのアバターだった。

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