第5話

『おおっ! すげぇ!』

『SATOは天才だな!』


 ライダーさんの言葉が死ぬほど嬉しかった。


 理由はわかっている。

 サトルは平凡であり、天才なんかじゃない、という自覚があるからだ。

 それでも1年に1回くらい、天才を夢見てもいいじゃないか。


 惜しむらくは、ライダーさんが女の子だったら……。


 いやいやいや!

 ライダーさんだって、こんな男子高校生の相手をしてくれているのだ。

 失礼すぎるだろう、感謝しないと。


 消えろ!

 煩悩ぼんのうよ!

 これから狩りの時間なんだぞ!


 サトルは意識のすべてをゲームに向ける。


 変態ライダー:

『お〜! いたいた!』

『タイタン・ドラゴン発見!』

『SATOも一緒に確認してくれ』


 SATO:

『ラジャー!』

『そっちに向かいますね〜』


 サトルが現場に駆けつけると、タイタン・ドラゴンはエサの鉱物を食べていた。

 存在を気づかれないよう、そっと物陰から観察してみる。


 変態ライダー:

『どうだ?』


 SATO:

『おそらく、やつは標準サイズですね』

『戦わずに一回出直した方がいいです』


 変態ライダー:

『わかった』


 いったん、クエストをリタイアする。

 入場 ⇨ タイタン・ドラゴン発見 ⇨ 退場。

 これを5回繰り返したとき……。


 変態ライダー:

『やべぇな、あいつ』

『段違いにデカくねえか?』


 SATO:

『あ〜、俗にいうキングサイズですね』

『勝ち目がないので、いさぎよく去りましょう』


 変態ライダー:

『早くこねえかな、子どもサイズ』


 SATO:

『時間の問題ですよ』


 ゲームにもっとも必要な才能。

 それは根気だと、どっかのゲーム優勝者がインタビューで答えていたな。


 リセット、リセット、リセット……。

 繰り返すこと16回目になったとき……。


 変態ライダー:

『おっ! いたいた!』

『今回のやつ、小さいかも!』


 SATO:

『俺もチェックしにいきますね』


 タイタン・ドラゴンは原っぱを散歩していた。

 明らかに小さい、おそらく最小サイズの3.7メートル。


 SATO:

『きましたね!』


 変態ライダー:

『赤ちゃんサイズか?』


 SATO:

『大当たりです』

『俺たちが勝てる相手です』


 変態ライダー:

『くっくっく……』

『腕が鳴るぜぃ〜!』

『ここで会ったが100年目だ!』


 2人でいっせいに背後から斬りかかった。

 不意打ちに驚いたタイタン・ドラゴンが大きな咆哮ほうこうを発する。


 生きるか? 死ぬか?

 どちらの体力が先に尽きるか?

 こっから先は殴り合いなようなバトルとなる。


 サトルたちの強みは何といっても経験値。

 20回敗れたときの学習データがある。


 相手の行動パターンは?

 どこを狙うのがよいのか?

 頭で考えるより先に体が教えてくれる。


 そして何より……。


 変態ライダー:

『すげぇ! すげぇ!』

『向こうの攻撃があまり当たらない!』

『はっはっは! 敵のリーチが短いと余裕だな!』


 SATO:

『あんまり調子に乗っていると被弾しますよ』


 変態ライダー:

『うわぁ⁉︎』

『デカいの食らった!』


 ほら。

 いわんこっちゃない。


 SATO:

『俺が相手の注意を引いておくので……』

『ライダーさんは1回、体勢を立て直してください』


 変態ライダー:

『すまねぇ、SATO』

『20秒くらい離脱する』


 一時的にサトルとタイタン・ドラゴンの一騎打ちになった。


 しかし、サトルは怯まない。

 すぐにライダーさんが戻ってくると信じている。


 相手の周りをグルグルして……。

 攻撃の空振りを誘いつつ、時間を稼いでおく。


 変態ライダー:

『待たせたな!』

『今度は俺が相手の注意を引きつけるから……』

『SATOはHPを回復させてこい!』


 SATO:

『ラジャー』

『頼みます』


 2人の息もピッタリだ。

 個々のプレイヤースキルだけではなく、お互いの連携も着実に向上してきている。


 バトル開始から30分は、ほぼ理想通りの展開となった。

 タイタン・ドラゴンの尻尾がダメージの蓄積により千切れて飛んだ。


 手応えあり。

 もう一押し。


 変態ライダー:

『SATO!』

『畳みかけるぜ!』


 SATO:

『はい!』

『いきましょう!』


 アイテム残量は心許こころもとない。

 しかし、相手のHPはもっと心許ないはず。


 サトルたちは防御を捨てた。

 攻撃だけに専念することにした。

 相手がスタンしている隙に、連続コンボを叩き込む。


 敵は心を持たないプログラムのはずだが……。

 ものすごい迫力で最後の抵抗をおこなってくる。


 ヤバい。

 本当に勝てるか自信がなくなってきた。

 焦りと疲れによりサトルの操作ミスが目立ってしまう。


 変態ライダー:

『落ち着いていこうぜ!』

『絶対に勝てるから!』


 ライダーさんの励ましが飛んでくる。

 なんだよ、こっちの気持ちを読んだのかよ。


 SATO:

『ライダーさんこそ、落ち着いてください』

『武器の斬れ味、ボロボロになってますよ』


 変態ライダー:

『あっ! やべっ! 本当だ!』


 とうとうタイタン・ドラゴンが足を引きずりはじめる。

 こうなったら勝利はほぼ確定。

 時間だって十分に残っている。


 変態ライダー:

瀕死ひんしだな』


 SATO:

『ですね』


 2人の攻撃が同時にヒットした。

 最後のHPを刈り取った。


 断末魔だんまつまの叫びが上がる。

 力なく横たわった巨体がピクリとも動かなくなる。


 よしっ!

 これで戦績は1勝20敗。

 サトルは拳をギュッと握りしめる。


 変態ライダー:

『いぇ〜い!』


 SATO:

『いぇ〜い!』


 アバター同士をハイタッチさせる。

 それから勝利のダンスを踊る。


 変態ライダー:

『(*゚▽゚ノノ゙☆パチパチ』


 SATO:

『(*゚▽゚ノノ゙☆パチパチ』


 変態ライダー:

『なあなあ』

『同じ作戦でもう一回倒してみようぜ』

『赤ちゃんサイズが相手なら負ける気がしない』


 SATO:

『いいですよ』

『でも、その前にタイタン・ドラゴンの報酬アイテムで装備を強くしましょう』


 やっぱりゲームは楽しいな。

 誰かと一緒なら何倍も楽しい。


 そんな当たり前を再確認できた1日だった。

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