第28話

 そこはボロボロの古城だった。

 辺境伯といわれる貴族が、400年に渡り治めてきた土地だった。


 春には花々が咲きほこり。

 夏には鳥たちが遊びにくる。


 秋には木々が実をつけ。

 冬には深い雪に閉ざされて、ふたたび春の訪れを持つ。


 この城は一夜にして滅んだ。

 文字通り、誰もいなくなってしまった。

 終焉竜……ラグナロク・ドラゴンの襲来によって。


 終わりの象徴ともされるドラゴンは、以後400年、この古城を住処すみかにしているという。


 何百、いや、何千というハンターが終焉竜に挑んできた。

 ほとんどは命を落とし、鱗の1枚でも持ち帰ったものは、凄腕ハンターとして称えられた。


 そう。

 人類は400年も敗北し続けたのだ。

 たった1体のドラゴンの脅威を前に、怯えることしかできなかった。


 それも今夜で終わりだ。

 チャレンジャーの名はSATO &変態ライダー。


 45分におよぶ激闘の果てに、ラグナロク・ドラゴンのHPを狩りとり、その統治に終止符を打ったのである。


 三帝竜が討伐された!


 ニュースは瞬く間に世界中を駆けめぐった。

 SATO &変態ライダーには、伝説殺しの伝説という称号が贈られた。


 彼らは海の向こうへ出発する。

 さらなる伝説ドラゴンと刃を交えるために。


 というのがゲーム内のストーリー。


『ターゲットを討伐しました!』

『あと60秒で街へ戻ります』


 忘れないうちにラグナロク・ドラゴンの体から素材をはぎ取っておく。

 その後はハンターの街まで送られて、簡単なエンディングムービーを見せられる。


 残念ながら、三帝竜というのは、とある地方の最強ドラゴン。

 別の地方には別の最強ドラゴンがおり、ハンターの戦いはまだまだ続くよ、というストーリー展開なのだ。


 変態ライダー:

『やったな、SATO!』

『また一歩、ゴールに近づいたな!』


 ライダーさんがビールをあおる。


 SATO:

『お疲れさまでした』

『ライダーさんもナイスです』


 SATOも祝杯のビールを飲み干す。


 ここはゲーム内の酒場である。

 気分だけでも打ち上げムードというやつだ。


 正直いうと疲れた。

 かれこれ10時間くらいゲームをやっている。

 しかも、集中力MAXの状態が長かったから、その反動で頭がフワフワしている。


 SATO:

『とりあえず、今夜はゆっくり休んで……』

『明日は軽く流す感じにしましょう』


 変態ライダー:

『りょ〜かい』

『しかし、次は新エリアの解放か』

『ドラハン完全攻略の道のりは長いぜ』


 SATO:

『そうですね』

『しばらくは武器や防具を強化する感じですね』


 変態ライダー:

『いや〜、しかし三帝竜は3体とも……』

『ギリギリ勝てたって感じだよな』


 あの時は死んだかと思った! とか。

 あの瞬間は笑ってしまった! とか。

 そんな話をしていると、30分が過ぎるのなんてあっという間だった。


 SATO:

『それじゃ、俺はそろそろ……』

『明日に備えて寝ようと思います』


 変態ライダー:

『あっ!』

『ちょっと待ってくれ!』


 SATO:

『はい?』


 ログアウトを押そうとした指をストップさせる。

 ライダーさんから呼び止められたの、はじめての経験かもしれない。


 変態ライダー:

『その〜、なんだ〜』

『SATOにいっとかないと』


 SATO:

『何でしょうか?』


 変態ライダー:

『いや、今日じゃないけどさ……』

『そうだ! ラスボスをやっつけたら……』

『1個だけSATOに打ち明けたいことがある!』


 SATO:

『ああ……』

『少年漫画っぽい展開でいいですね』


 変態ライダー:

『少年漫画って……』

『これでも俺、わりと真面目なのだが』


 SATO:

『じゃあ、俺はアレにします』

『このゲームのラスボスを倒したら……』

『勇気を出してA子さんに告ろうと思います』


 変態ライダー:

『えっ⁉︎ マジで⁉︎』

『とうとうA子に告っちゃうの⁉︎』


 SATO:

『はい、以前よりも少しは仲良くなったので』

『もしかしたら、OKしてくれるかもしれません』


 変態ライダー:

『へぇ〜、やるじゃん』

『男だな、応援している』

『SATOのためにも頑張らないとな』


 SATO:

『はい』

『ライダーさんのこと、頼りにしています』


 サトルはアバターを操作して敬礼ポーズをとる。


 変態ライダー:

『まったく……』

『少年漫画みたいな展開なのはどっちだよ』

『楽しみが1つ増えちゃったじゃねえか』

『(*´ω`*)モキュ』


 ここに男と男の約束が交わされた。


 ライダーさんは秘密を1個打ち明ける。

 SATOは好きな女の子に告白する。

 条件はラスボスを倒すこと。


 ライダーさんの秘密、なんとなく予想はつくな。

 糖尿病か高血圧か知らないが、体に病気を抱えているのだろう。


 それで入院、手術が必要になったとか。

 半月から1ヶ月くらい、まったくゲームができない、みたいな打ち明け話。


『すまん、SATO! しばらくゲーム環境に入れない! 俺が復帰したときは、また一緒に遊んでくれ!』


 99%それに違いない。

 サトルは確信に近いものを感じている。


 SATO:

『じゃあ、今度こそ落ちます』

『今日はありがとうございました』


 変態ライダー:

『おう、今日のMVPはSATOだよ』

『じゃあな、伝説を殺した伝説』

『イイ夢ミロヨ(`・ω・´)キリッ』


 SATO:

『はい、おやすみなさい』


 まだ病気と決まったわけじゃないけれども。

『ラスボスをやっつけたら……』と切り出してくれたライダーさんの気持ちは嬉しかった。


 もっと強くならないと。

 ライダーさんのためにも。

 エリナに告白するためにも。


 この夜、自分が伝説のハンターになって、三帝竜とバトルする夢を見た。

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