第37話

 それは一瞬の判断ミスから生まれた。

 スターダスト・ドラゴンの翼から放たれた雷球が命中して、SATOをマヒ状態にしたのである。


 状態異常から復活するまで4秒。

 3秒……2秒……1秒……。


 無慈悲なことにレーザー光のブレスが降ってくる。

 上空10mまで吹っ飛ばされたSATOの体は、頭から地面に落ちてきてワンバウンドした。


『SATOが力尽きました』

『クエストに失敗しました』

『街まで戻ります』


 やってしまった。

 凡ミスにより、これまでの努力が水の泡になってしまった。


 あ〜! と奇声を上げて、自分の太ももを2回殴る。


 バシッと一発で決めたかったのに。

 ライダーさんの足を引っ張る結果になろうとは。


 変態ライダー:

『どんまい、どんまい!』

『さっきのは不運が重なったな!』


 SATO:

『すみません!』

『1回トイレにいってから再挑戦させてください!』


 変態ライダー:

『はいよ〜』

『(`・ω・´)キリッ』


 サトルはトイレの中で、自分の感覚のズレについて、対策を練ることにした。


 かなり緊張している。

 時々、自分の意思とは関係なく指が動いてしまう。


 さっきの雷球が命中したのは、回避ボタンを押すのが、0.3秒早かったせいだ。


 死にたくないという恐怖心。

 そのせいでアクションの精度を欠いてしまった。


 どうする。

 ライダーさんの実力を信じてみるか。


 今日は動きにキレがある。

 複雑なスターダスト・ドラゴンの攻撃にうまく対応している。

 戦力として上なのは、どう考えてもライダーさん。


「よしっ!」


 トイレのレバーを回した。

 手についた水分をきれいにぬぐってからコントローラーを握りしめる。


 SATO:

『お待たせしました』

『いきましょう』


 変態ライダー:

『あいよ』

『((((((((((((((((((((*っ・ω・)っ ブ-ン』


 そこから先は我慢の40分間だった。


 ライダーさんの中身が伏見エリナかと思うと、サトルのプレイは悲しいほど精度を欠いた。

 まるで酔っ払いがプレイしているみたいに。


 戦っているのはドラゴンなのか?

 それとも消えない雑念なのか?

 あるいは両方なのか?


 頭の中がポワンポワンしてくる。

 呼吸を止めていたことに気づいてリアルに死にそうになる。


 今日はこのまま負けた方がいいのでは?

 そんな悪魔のささやきにも囚われた。


 結論を先送りできる。

 24時間の猶予ゆうよが与えられる。

 とても悪くないアイディアに思えてきた。


 変態ライダー:

『SATO、回復サンキュー!』


 SATO:

『どういたしまして』


 感謝されてから気づく。

 いつの間にか全体回復アイテムを飲んでいたらしい。


 何をいっているのか、自分でも理解に苦しむが、攻撃して、回避して、アイテムを投げて、という一個一個のアクションを、ほとんど脊髄反射せきずいはんしゃでこなしている。


 ライダーさんを死なせたらダメか?

 YES。


 ならば回復アイテムを飲むべきか?

 YES。


 そういう二択を、無意識のうちに、1秒ごとに、サトルの体は計算している。


 とうとうスターダスト・ドラゴンが足を引きずった。

 空中に飛び上がったあと、滑空かっくうしながらSATOの方へ突っ込んでくる。


 戦斧をかまえた。

 パワーをチャージする。


 最大火力の技……溜め斬り。


 相手の突進に合わせて、斬撃がヒットした瞬間、ドラゴンの断末魔だんまつまが響き渡り、勝利のファンファーレに変わった。


『ターゲットを討伐しました!』

『あと60秒で街へ戻ります』


 勝った。

 それを認識するのに5秒かかった。

 この瞬間、SATO &変態ライダーのドラハンは、一個のピリオドを迎えた。


 変態ライダー:

『なに⁉︎ さっきの⁉︎』

『メチャクチャ格好いい!』

『相手の突進に合わせて、カウンターを決めたよね⁉︎』


 SATO:

『はい、自分でも驚いています』

『動画で見たことはありましたが……』

『まさか、きれいに決まるとは』


 変態ライダー:

『しかも、それがトドメの一撃になるとか!』

『なんだよ、アニメのヒーローかよ!』

『格好良すぎだろう!』


 SATO:

『あはは……』

『自分でいうのも何ですが、神がかっていましたね』


 変態ライダー:

『すげぇ貴重なものを見た気分』

『ありがとな、SATO』

『さすが俺の相棒』

『(*´ω`*)モキュ』


 SATO:

『いえいえ』

『こちらこそ、ありがとうございます』

『(*`・ω・)ゞ』


 あの土壇場どたんばで神テクニックを発動できたのは、近くにライダーさんが、ゲームの相棒が、伏見エリナがいたお陰だ。

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