第36話

 七星竜の攻略は、まあまあ順調に進んでいた。


 討伐のペースは2日に1体。

 負けるのは平均して3回くらい。

 中には初見で倒せたドラゴンもいる。


 ライダーさんは強くなった。

 ツクヨミ・ドラゴンに50回くらい負けて、その後にリベンジを成功させて、一皮むけたのが大きかった。


 実力的にはサトルとほぼ互角。

 弱かったライダーさんはもういない。

 恐ろしいハンマー使いへと変貌へんぼうを遂げている。


 サトルはいつものように学校から戻ってきた。

 いつものように手を洗い、いつものように冷蔵庫からジュースを取り出す。


 いつものように、いつものように……。

 意識すれば意識するほど、コントローラーを握る手に力が入ってしまう。


 ラスボスと戦うのが怖いわけじゃない。

 その戦いに勝って、エリナに告白するのかと思うと、心臓のペースが速くなってしまう。


 なんてこった。

 サトルは女子に告白した経験がない。


『ちょっと放課後いいかな?』


 そのように声をかければいいのか?

 でも、これから告白すると悟られないか?


 どうする? どうする?

 他に思いつく方法はラブレターくらい。

 でも、重すぎるような……。


 いっそのこと、エリナを道草に誘うか。

 ドーナツ屋でも、アイスクリーム屋でもいい。


『かわいい系のお店、男が1人で入るのは恥ずかしくて……』


 そのようにお願いしたら、ほぼ確実に同行してくれるだろう。

 あとは話が弾んだところで告白を切り出すとか。


 サトルが髪の毛をクシャクシャしたとき、チャットが送られてきた。


 変態ライダー:

『おつおつ〜』

『姪っ子がご機嫌ななめでさ……』

『ちょっと遅れたわ』


 SATO:

『おつです』

『いえいえ、俺も先ほどINしたところですから』


 変態ライダー:

『どうする?』

『すぐにスターダスト・ドラゴンに挑戦する?』

『それとも、肩慣らししてから出発する?』

『俺はどっちでもいいぜ』


 SATO:

『そうですね』

『闘技場で20分くらいウォーミングアップしましょう』


 手頃なモンスターを相手に、数回バトルを重ねた。

 ライダーさんの調子が良さそうなのは、傍目はためにも分かった。


 動きに迷いがない。

 攻守のバランスが取れている。


 怖くないのか、エリナは。

 この戦いが終わったら、自分が女性であることを、SATOに打ち明けるというのに。


 正直、どう反応すればいいのか、迷っている。


 驚いたリアクションをすればいいのか。

 またまた、ご冗談を! みたいに茶化ちゃかすのか。


 ドラハンを始めてから3ヶ月、とても楽しかった。

 この時間がずっと続けばいいのに、と幼稚なことを考えてしまう。


 まるで夏休みの最終日だ。

 学校は嫌だけれども、友達と会えるのは嬉しい。

 矛盾した気持ちにサトルは囚われている。


 変態ライダー:

『なあ、SATO』

『これはゲーム内の設定なんだけどさ』

『星の民だけに伝わる伝説みたいなものがあって……』

『スターダスト・ドラゴンに実力を認められたハンターは、どんな願いでも叶えてもらえるんだってさ』


 SATO:

『それは太っ腹ですね』

『まるで神様じゃないですか』


 変態ライダー:

『だろ〜』

『俺はいいなって思ったわけよ』

『なんか、こう、映画のクライマックスみたいな展開でさ』


 SATO:

『でも、悪いやつがスターダスト・ドラゴンを倒したら……』

『世界が征服されちゃう、という流れになりませんかね?』


 変態ライダー:

『そうそう』

『だから、正義の心の持ち主が……』

『こいつを倒さないといけない』

『(`・ω・´)キリッ』


 SATO:

『なるほど』

『その発想はなかったです』

『ちなみに、ライダーさんは……』


 1文字1文字、慎重にタイプした。

 打ち間違えることがないように。


 SATO:

『もし願いが叶うなら……』

『何を祈りますか?』


 変態ライダー:

『えっ⁉︎ この現実世界で、てこと?』

『だったら、3億円が欲しいな』

『($∀$)オカネェ!!!!』


 SATO:

『金っすか⁉︎』


 変態ライダー:

『うそうそ、冗談』

『1回でいいから、ステキな恋愛がしたいね』

『ドラマに出てきそうなやつ』


 SATO:

『なんすか、それ』

『女の子みたいじゃないですか』


 変態ライダー:

『いいじゃねえか、気持ちは若くて』

『人間、独身である限り、恋愛する権利は保障されている』


 SATO:

『おっしゃる通りですね』

『ライダーさんの理想のパートナーが見つかることを祈ります』


 変態ライダー:

『(´▽`)アリガト!』


 いざ、クエストに出発。

 でも、その前に……。


 SATO:

『今回の作戦名、どうしましょう?』


 変態ライダー:

『どうせSATOのことだ』

『何か考えてきたんだろう?』


 SATO:

『まあ、いちおうは』

『そういうライダーさんも案があるのでは?』


 変態ライダー:

『まあな〜』

『ちなみにSATO案は何文字?』


 SATO:

『◯◯◯作戦』

『↑◯の部分が7文字です』

『七星竜なので数を合わせてみました』


 変態ライダー:

『奇遇だな、俺も7文字だ』

『よし、2人同時に打ち込んでみるか?』


 SATO:

『いま59分ですから……』

『00分になった瞬間、入力しましょう』


 変態ライダー:

『わかった!』

『(*`・ω・)ゞラジャ』


 57秒……58秒……59秒……。


 SATO:

『ノーザンクロス作戦!』


 変態ライダー:

『ノーザンクロス作戦!』


 2人の相性は怖いくらいぴったりだ。

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