第15話

 今朝の伏見さん。

 安定のおもしろさだったな。


 かわいい&ユニーク。

 最強すぎるだろう。


 サトルは制服から着替えながら、学校でまぶたに焼きつけたエリナの表情を思い出していた。


 照れたり、笑ったり、はにかんだり。


 エリナのことを考えると、胸のあたりがキュッとなる。

 恋人になったら、こんな状態が24時間365日続くというのか。


 サトルのことを知ってほしい。

 それ以上にエリナのことを知りたい。

 好き、好き、好き、ただそれだけ。


 さてと。

 今日もドラハンをやるべくコントローラーを手にとる。


 SATO:

『こんにちは〜』


 変態ライダー:

『おっす』

『お疲れさま〜』


 SATO:

『季節の変わり目ですけれども……』

『お体の方は変わりないですか?』


 変態ライダー:

『もう元気ピンピンよ』

『ゲーマーは体が資本だからね』


 ライダーさんのアバターが屈伸運動をはじめる。


 SATO:

『しばらく激戦続きだったので……』

『今日は軽く流しましょう』


 変態ライダー:

『りょ〜かい』


 四聖竜をやっつけていくうちに何個か変化があった。


 まず、ライダーさんとのきずなが深まった。

 チャットしているうちに15分とか30分とか平気で経過するようになった。


 あと、ドラハンのエリアがいくつか解放された。

 新しいアイテムを入手して、キャラクターをさらに成長できるわけだ。


 これから向かうのは『坑道』というエリア。

 ピッケルをつかってレアな鉱石を採取するのが目的。


 SATO:

『じゃあ、アイテムポーチが限界になるまで……』

『穴に潜りますか〜』


 変態ライダー:

『ここって強いモンスターとか出るん?』


 SATO:

『はい、普通に五賢竜が襲ってきます』


 変態ライダー:

『マジで……』

『ガクガク((( ;゚Д゚)))ブルブル』


 SATO:

『うそうそ』

『思いっきり冗談です』

『今回はアイテム採取クエストなので……』

『ザコモンスターしか出ないです』


 変態ライダー:

『よかった』

『(´▽`) ホッ』


 毎回だまされる側だからな。

 サトルはやり返したことに満足してクエストに出発した。


 さっそく鉱石が採れるポイントを見つけた。

 近くのザコキャラ……ワーム・ドラゴンという蛇みたいなモンスターを一掃しておく。


 これで準備は完了。

 あとはピッケルをぶん回すだけの作業だ。


 変態ライダー:

『A子との関係……』

『ちょっとは進展あったの?』


 SATO:

『あ〜』

『ボチボチですね』

『毎日3分とか5分とかコツコツ会話してます』


 変態ライダー:

『地道だね〜』

『さすがのA子もSATOのことを意識するんじゃないの?』


 SATO:

『さあ、どうでしょうか』

『A子さん、あまり恋愛に興味さなそうなので』


 変態ライダー:

『へぇ〜、そうなんだ』

『最近の若い子はそういう傾向なのかな?』


 SATO:

『かもしれません』

『先日、たまたま聞いちゃったのですけれども……』


 サトルの学校には掃除の時間がある。


 当番はローテーション制。

 帰りのHRのあと10分かけて教室をきれいにする。


 SATO:

『俺とA子さんとその友人の3人がいて……』


 変態ライダー:

『ふむふむ』


 SATO:

『A子は男子とおしゃべりしないの〜?』

『みたいなことを友人が質問したのですよ』


 変態ライダー:

『それに対してA子は?』


 SATO:

『男子とおしゃべりしたら……』

『俺の中にんでいる黒い獣が、@#¥&?!@#!!!!』

『みたいな感じで怒ったのですよ』


 変態ライダー:

『いやいや!』

『理解できねえよ!』

『A子って女の子だろう⁉︎』

『なんで一人称が俺なんだよ⁉︎』


 SATO:

『新しく発見したのですが……』

『怒ったら、俺、になるっぽいです』


 変態ライダー:

『あと、黒い獣ってなんだよ!』

『完全に頭がおかしい子じゃねえか!』

『((*´∀`))ケラケラ』


 SATO:

『そうですかね?』

『そういう言い回しがA子さんの魅力だと思いますが……』


 変態ライダー:

『イタい子だな』

『自分のことを客観視できないやつだ』

『プギャ――m9(^Д^)――!!』


 むっか〜!

 いくらライダーさんとはいえ、エリナのことをバカにされると腹立つな。


 SATO:

『いやいや!』

『A子さんも人間ですから!』

『無意識のうちに変な発言しちゃうことはありますよ!』


 変態ライダー:

『SATOはそういう欠点を含めて……』

『A子のことが好きなわけね』


 SATO:

『当然ですよ』

『ライダーさんだって、自分のコンプレックスを好きになってくれる異性が現れたら、嬉しいですよね?』


 変態ライダー:

『まあな』

『一理あるな』


 SATO:

『それと一緒です』


 変態ライダー:

『すまん、すまん』

『俺の言い方が悪かった』

『許してくれ』


 SATO:

『とにかく、変なところも含めて、A子さんのことが好きなのです』


 変態ライダー:

『クックック……』

『怒ったら一人称が俺になるとか……』

『きっとA子は無自覚なんだろうな〜』


 SATO:

『だと思います』


 変態ライダー:

『俺が思うにさ……』

『本当はみんなと仲良くしたいけれども……』

『自分が傷ついちゃうのが怖いから……』

『周りと距離を置いてんだろうな』


 SATO:

『そんなものですかね?』


 変態ライダー:

『おうよ』

『昔の俺を見ているみたいだぜ』

『ニヤ(・∀・)ニヤ』


 SATO:

『本当ですか〜?』

『(ジト目)』


 変態ライダー:

『もちろん』

『俺って、わりとデリケートな生き物なんよ』

『(*´ω`*)モキュ』


 傷つくのが怖い。

 ゆえに距離を置いちゃう。


 そういう臆病な気持ち、少しなら理解できる気がした。

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