第3話
最高にわくわくする瞬間。
それは誕生日でも、クリスマスでも、お正月でもない。
ずばり新作ゲームのリリース日。
新しい世界へとログインできる瞬間だ。
朝から落ち着かない気分になって、下校のチャイムが鳴る時を、今か今かと待ちわびてしまう。
そう。
念願だった『ドラゴン・ハンター 4th』の発売日。
サトルは朝から興奮しっぱなしで、心のソワソワが止まらなかった。
授業の内容なんて半分しか頭に入らない。
休み時間に携帯をポチポチして、ドラハンの攻略情報を調べてしまう。
ふむふむ。
武器の選択が大切なのか。
初心者のうちは、オーソドックスな片手剣を選んで、基本的な立ち回りを覚えた方がいいらしい。
帰りのHRが終わった。
荷物をまとめている時、サトルの耳に気になる会話が飛び込んでくる。
「ねえねえ、伏見さん。私、これから本屋へいくのだけれども、一緒にこない?」
「え〜とね、今日は外せない用事があって……」
誘ってくれた友人に向かって、エリナは手を合わせて、ペコペコと頭を下げている。
へぇ〜。
エリナも用事があるんだ。
なんだろう、外せない用って?
家族の記念日とか?
「ううん、用事があるならいいよ。気にしないで」
「ごめん、次は付き合うから」
ぴゅ〜ん!
エリナはつむじ風のようにダッシュで去っていく。
あっ、いけね。
サトルも早く帰らないと。
もしかしたら、ライダーさん、仕事を休んでいるかも。
三度の飯よりゲームって公言していたからな。
アヴァロンの卒業式なるものを、昨夜、2人でやった。
片っ端からダンジョンに潜っていく。
これまでのボス敵を一通りやっつけていく。
過去に苦戦させられたボス敵が、たったの3秒くらいで溶けたりして、
『俺たちも成長したな〜』
『ですね〜』
と思い出話に花を咲かせた。
ありがとう、アヴァロン!
砂浜にそんな文字を書いて、スクリーンショットに保存して、卒業証書の代わりにした。
『じゃあ、次に会うときはドラハンの世界だな!』
『はい、18時くらいに向こうで落ち合いましょう!』
ゲームとお別れする瞬間。
それを共有できる仲間がいるのは嬉しいことだ。
そして帰り道。
サトルは家電量販店のゲームコーナーに立ち寄った。
予約しておいた『ドラゴン・ハンター 4th』をレジのところで受け取る。
急げ! 急げ!
家のドアを開けると、制服を脱ぐより先に、コントローラーを手にした。
じっくり鑑賞したい気持ちもあるが、今回はスキップする。
まずはキャラクターメイキング。
名前は『SATO』。
性別は『男』。
顔つきは……そうだな。
あった、あった……ちょっぴりハンサムな青年。
こんがり日焼けした肌にするのが、サトルの好みだ。
さっそくチュートリアル開始。
ハンターと呼ばれる冒険者が集まる街に、新米ハンターの主人公がやってくるところから物語ははじまる。
『ようこそ、ドラゴン・ハンターの世界へ』
受付のお姉さんとの会話がスタートした。
『ドラゴン・ハンターの世界は初めてですか?』
と質問される。
なるほど。
ここで『いいえ』を選択すると、チュートリアルをスキップできるらしい。
早く冒険したい気持ちをぐっとこらえて『はい』を選択した。
まずは移動の方法を学ぶ。
カメラをぐるぐる回転させたり、ズームしたり。
続いてアイテムの採取方法。
アイコンが出た状態でボタンを押す。
それから武器の振り方。
ボタンを連打すると、連続して攻撃することが可能。
『さっそくモンスターと戦ってみましょう』
『練習用モンスターですが、油断しないでくださいね』
全長1メートルくらいのトカゲとバトル開始。
え〜と。
これでキャラクターを操作して……。
武器を抜いて……。
そいやっ!
あっ! 外れた!
くそっ! もう一発!
よしっ! 次はちゃんとヒットした!
攻撃を3回ヒットさせると、
『おめでとうございます!』
『新米ハンターとは思えない見事な剣さばきでしたよ!』
思いっきり
まあね。
ゲームの主人公は、基本、こっちの世界の秀才だからね。
お姉さんから初心者用アイテムを支給される。
あとは実際のクエストで学習してください、ということか。
さてさて。
ライダーさんと合流したいが……。
いないな。
街の中を3周してみたが『変態ライダー』という名前は見つからない。
もしや、名前を変えたのか?
でも、あの名前に愛着がある、と過去に話していたからな。
仕方ない。
もう3周してみるか。
「…………」
やっぱり、いない!
現実世界でトラブルに巻き込まれたか?
そろそろ待ち合わせの時間を30分過ぎるのだが……。
「まあ、サラリーマンだし、そういう日もあるよな〜」
サトルが諦めかけたとき、1人のキャラクターがやってきて、『SATO』の周りをクルクルした。
あっ!
やっぱりいた!
変態ライダー:
『すまん、すまん、待たせたな(汗)』
SATO:
『いえ、俺もさっき到着したところですから』
変態ライダー:
『あっ、本当? なら良かった〜』
て、おい。
デートの待ち合わせかよ、と自分に突っ込む。
変態ライダー:
『チュートリアルで苦戦しちゃってさ』
『緑色したトカゲみたいなやつ』
SATO:
『あれ?』
『強かったですか?』
変態ライダー:
『普通に殺されたぞ』
『しかも4回も殺されたぞ』
『受付のお姉ちゃん、スパルタだから……』
『勝てるまで冒険を許可できません、だってさ』
4回死んだ⁉︎
いやいやいや!
さすがに下手すぎるだろ!
SATO:
『まあ……慣れですよ』
『これから一緒に鍛えましょうよ』
変態ライダー:
『はぁ……自信なくなるわ』
『SATOの足引っ張ったら、ごめんね』
SATO:
『仲間の足なんて、引っ張ってナンボだって』
『アヴァロンの時、ライダーさんは俺に声をかけてくれたじゃないですか?』
『忘れたのですか?』
変態ライダー:
『ああ、あった、あった、懐かしいな〜』
『思い返すと、けっこう先輩面してたよな』
『恥ずかしい』
SATO:
『いえ、ライダーさんには貸しより借りが多いので』
『がんばって返しますね』
変態ライダー:
『ありがとな、俺の相棒』
『頼りにしているぜ』
SATO:
『はい!』
相棒。
その響きはキャンディみたいに甘かった。
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