第10話 収穫祭
今日は収穫祭だ。広場から音楽隊が奏でる明るい曲が聞こえてくる。
出店には、葡萄や梨などの秋の果物、ワインやビールの瓶と樽、ソーセージやハム、軽食やスイーツなどが並び、たくさんの人でとても賑やかだ。
チュロスを食べながら、イーサンとパレードを見る。
「久しぶりの女装じゃん」
今日は仕立屋が届けてくれたワンピースを着ている。
「女の子に女装ってどうだろう。お兄様と間違えられないようにした方がいいと思って」
一緒に街歩きした時、視線集めてたし。
「男装したらそっくりだもんな。間違ってトリスタンのファンが寄ってきそう」
「お兄様のファン」
そりゃ絶対いるよな。
「女の子達がキャーキャー言ってる。領主の息子だから直接話しかけてきたりはしないけどさ。飯屋のおばちゃんもトリスタンが一緒だと大盛にしてくれたりするし」
わかる! 私も大盛にしちゃう! デザートも付ける!
「毎年夏が近づくとトリスタンはいつ帰ってくるんだってしょっちゅう聞かれる。姿絵も売ってるし」
「え! 私も欲しい!」
「え、同じ顔なのに?」
トリスタンは領主代理と回っている。領主代理のおじさんが羨ましい。好物のチュロス食べたかな。
「ようイーサン、かわいこちゃん連れとは隅に置けないな」
「いとこだよ!」
イーサンは街の人に気さくに声を掛けられている。
「私に付き合わせてごめんね。約束してたんじゃない? 友達とか仲のいい女の子とか」
「してねーし! アデルのおかげで勉強休めてるからいいんだよ」
大道芸人の曲芸を見ていると、幼稚園児くらいの女の子が泣きながら歩いてきた。転んだのか膝を擦りむいている。
「お父さんお母さんとはぐれたの?」
しゃがんで女の子の手を取り(クリーン)と魔法をかける。
ソフィーが迷子預かり所に連れていくことになり、女の子に飴細工職人に作ってもらった馬の形の飴と、自作の傷薬をあげた。
傷薬は王都で作った。すり潰した薬草と蜜蝋を火魔石コンロで湯煎にかけ、よくかき混ぜて冷ましただけの簡単なものだ。
王都公爵邸の図書室にあった薬学の本と本屋で買った薬草図鑑を見ながら二回作って、だいぶ手際が良くなった。効果があることは庭師に試してもらって確認済。
薬草は王都公爵邸のアイテムボックスに保管している。アイテムボックスの中は時間が経過しないので鮮度が落ちることはない。
私の時空魔法によるアイテムボックスは人目があると使えないため、あまり活用できていない。
外では鞄に出し入れするように見せかけて時空魔法を使っている。重さがないので便利だ。でも鞄の大きさに見合った物に限られる。
時空魔法アイテムボックスの中には傷薬、おやつなどをちまちま備蓄しているが、持ち物がなくなるとソフィーが不審に思うのであまり種類が増えていない。
薬草の在庫が少なくなったから自分で採取に行きたい。サンジュ近くの森に自生しているだろうか。別の種類の薬も作ってみたい。
トリスタンの姿絵は全てチェックした。
「実物の尊さを写すのは難しいんだな。あまりときめくものがない」
「…鏡見てればいいんじゃね?」
わかってないな。でもまあせっかくなので出来のいいものをいくつか買おう。
◇◇◇
(クリーン)
寝る前に、習慣となった魔法をかける。
ヒロインは聖魔法で病を癒していたが、時空魔法で菌やウイルス、体内の病巣を取り除けば、治せる病気があるんじゃないか。
…医療の知識がない私じゃ、病気の原因が特定できないから無理か。調べる方法もないし、何を転移させればいいかわからない。今日みたいに消毒には役に立つかな。
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