第6話 領都サンジュ

 予定どおり三日目の日没前に領都サンジュの門をくぐった。

 天気も良く、馬車の窓から畑が広がる風景を眺めながら進み、道中何の問題もなかった。テグペリ領はのどかだな。


 この旅でトリスタンとたくさんお喋りした。サンジュにいるいとこのこと、土魔法のこと、テグペリ領の特産品やお菓子のこと。…いや第二王子の話はしなくていいよ。私には不要な情報だから。

 トリスタンが甘い物の話をするのを見ているだけで和む。


 馬車の乗り降りで、トリスタンは必ず手を貸してくれる。

「ありがとうお兄様」

「どういたしまして」にこ


(なんて可愛らしい紳士なの…!)

 尊い。毎回悶える。

 特に降りる時に下から手を差し延べてくれるのがいい。このスチル欲しい。私と同じ顔だけど。


 トリスタンは薄い色の金髪碧眼で整った顔立ちなので、無表情だと人形のような冷たい印象だ。でも、喋ると優しい雰囲気になる。マジ天使。


 乙女ゲーム本のトリスタンは、色が第二王子とかぶっているのと温厚な性格のせいで、攻略対象者の中では存在感が薄かった。悪役令嬢の言動に悲しそうにしていた。


 ◇◇◇


 護衛の一人が乗っていた従魔は、風属性の魔獣で風魔馬という。

 シマウマを大きくして黒い部分をミントグリーンに変えたような姿をしている。いかつい護衛のおじさんが乗るにはミスマッチな可愛らしさ。


 魔獣と普通の動物の違いは、体内に魔石を持っているかどうかだ。人間を襲い討伐対象になる魔獣もいれば、無害な魔獣もいる。

 

 旅の休憩中この風魔馬に果物をあげていたらなついてくれた。スリスリしてきて可愛い。


 風魔馬は風の魔力を纏って速く走ることができ、蹴りが強力。性格はおとなしい。気配に敏感で逃げ足が速いので捕獲が非常に難しい。魔獣商の人気高額商品だ。


 テグペリ公爵家では王都で三頭、サンジュで一頭所有している。サンジュの風魔馬にも果物をあげたい。



 サンジュの領主館は王都の屋敷より広い。

 館の玄関では使用人達が出迎えてくれた。お下がり着用はスルーされ、メイドの案内で部屋に向かう。


 部屋でドレスに着替えて、祖母の部屋にご挨拶に伺わねば。祖母は先々代の王のお姫様で、礼儀作法に厳しい。


 案内された部屋は王都の部屋より落ち着いた内装で気に入った。

 今日からここが私の部屋だ。


 ◇◇◇


 深夜。ソフィーは退室、ドアには内から鍵をかけた。カーテンもきちんと閉まっている。

 ここから王都まで転移できるか試そう。


 王都の公爵邸での実験で、転移先は見えている範囲内か、前世の記憶が戻ってから行った事がある場所に限られることがわかった。

 距離はどこまで可能なのか。この旅で泊まった宿から王都までは転移できた。


(王都の私の衣装部屋に転移)

 視界が暗くなる。懐中光魔石灯を点けると、ずらりと派手なドレスが並んでいる。成功だ。


(サンジュの私の衣装部屋に転移)

 お下がりの服が並んでいる。往復しても魔力量は余裕。


 これからどんどん外出して、転移できる場所を増やしたい。

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