第7話 イーサン

 収穫祭は一週間後。サンジュ滞在は二週間の予定だ。

 私は王都には帰らないつもりだけどね。


 初日の今日は、晩餐にいとこ達を招いている。

 午前中は、トリスタンと教会に行って祖父の墓参りをした。祖父はトリスタンをとても可愛がっていた。

 教会には創造神たる女神が祀られている。ゴシック建築に似た造りで、青いステンドグラスが美しい。


 滞在中トリスタンは領主代理の元で領地経営の勉強をするらしく、午後は政庁に向かった。


 私は乗馬の練習をするとしよう。事前に厩舎に連絡は入れてある。

 馬場に行くと、柵の向こうに風魔馬が二頭いるのが見えた。

「おいでー」

 無花果いちじくを持って手を振ると、うち一頭が走って寄ってくる。もう一頭も寄ってきたので二頭に交互にあげて、あっという間にかごは空になった。

(可愛いなー。風魔馬にも乗れるようになるといいな。練習頑張ろう)



 晩餐に集ったのは、祖母、いとこのイーサンとその母である子爵夫人、領主代理とその妻、トリスタン、私だ。

 晩餐のためにちゃんとドレスに着替えた。髪は編み込んでアップにしリボンで飾ってある。

 ちなみに祖母は朝食と昼食は自室で取っている。


 イーサンは父の弟の一人息子で15歳。明るめの茶髪茶目。母親似なので私達とは似ていない。

 叔父はテグペリ家分家のノージ子爵家に婿入りし、公爵領の土木部門を担っている。土木工事のため領内を回っていて、サンジュにいることは少ない。

 叔父もイーサンも土属性持ちだ。


 近況報告したり、領主代理がトリスタンを褒めたりしながら食事が進む。港が近いので魚介を使った料理が多い。

(美味しー!)

 私は料理に集中した。


 話の流れは聞き逃したが、イーサンが私のサンジュでのお世話係になったようだ。

(…なんかイーサン嫌そうだけど)

 まあいい。明日からあちこち案内してもらおう。楽しみ。



 ◇◇◇


 翌朝、イーサンが迎えに来たと連絡を受けて玄関に向かう。

 昨日の乗馬練習のせいで内ももが筋肉痛だ。

(うう、階段つらい)

 エレベーターつけてほしい。

 

「おはよう、イーサン」

「アデル⁉」

 イーサンがぎょっとする。

 私はトリスタンのお下がりを着て、髪は首の後ろで一つに括っている。


「今日は案内よろしく」

「おう」

 午前中はトリスタンも一緒に街歩きだ。


 馬車に乗って街の商業区へ。サンジュは王都をコンパクトにした感じ。

 広場で馬車を降り、護衛を連れて通りを歩く。焼き栗の屋台があったので買って食べ歩きする。


 魔石店を見ると、王都より安い。ダンジョンからの供給が多いおかげだろう。

 日本の電化製品のように、こちらでは各種の魔石を動力にした魔道具が普及している。魔法が使えなくても生活に支障はない。


 しかし貴族にとって魔法の才能は重要だ。歴史の流れとしては、魔法を使える者が権力を持ち貴族となったのだろう。属性持ちであることは貴族の証だ。


 昼食はイーサンお薦めのオープンカフェで、カルツォーネのようなものを食べる。


 周囲の人達から視線を感じる。トリスタンは毎年夏に父と一緒に公爵領に戻っているので面が割れているし、美少年だからね〜。


 トリスタンとイーサンがじゃれあっているのが微笑ましい。仲いいな。

 イーサンは田舎でのびのび育った快活な男の子って感じだ。来春から例の学院に通う予定。


「アデルはなんで男の格好してんの?」

「ドレスよりうんと楽なんだよ」

「へー」もぐもぐ


 こいつ私に興味ないな。

 イーサンはアデルが苦手だったようだが、これからは仲良くしてほしい。

  

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