第12話 冒険者ギルド

 冒険者ギルドは朝と夕方が混むらしいので、イーサンは昼前に迎えに来てくれた。

 ただ、私の冒険者熱はかなりしぼんでいる。


 昨日森の中から馬車に戻る途中、角が生えたウサギが襲ってきた。

 冒険者見習いでも倒せる弱い魔獣らしい。護衛がすぐに倒したのだが、私は固まって動けなかった。私に冒険者は無理かもしれない。


 見学前に挫折しそうになったが、冒険者ギルドの建物の前に来るとやはりワクワクする。


 冒険者ギルドのサンジュ支部は領では二番目の規模だ。一番大きいのはダンジョンがあるヒコミテ支部。


 冒険者の中には荒くれ者もいるし、女性は少ないので目立つとのことで、私は男装してフードを目深に被っている。ソフィーは昼食を取る店で待機。


 扉を開けてイーサンや護衛と中に入る。

 右手の壁に掲示板、正面にカウンター、左手奥が酒場になっている。人は疎らだ。


 イーサンがカウンターに進み受付の男性職員に薬草を納品するのを後ろから見学して、その後依頼票がランクごとに貼られた掲示板を見る。

 魔獣討伐、護衛、素材採取、雑用などの依頼が出ている。


「イーサンはパーティー組んでるの?」

「固定じゃないけど、同じEランクの友達と組んで討伐に行くことはある」


 私は時空魔法を使いたいからソロだな。

 私が一人でもできそうなのは、比較的安全な場所での採取か、清掃、運送か。

 報酬は安いけど、時空魔法を使って数をこなせばそれなりの収入になるだろうか。宅急便はいいかもしれない。魔女だし。箒には乗らないけど。


 隣に気配を感じたので横を見ると、二足歩行のモフモフが立って掲示板を見ていた。

(獣人⁉ いるのかここ⁉)


 アライグマのような姿で、身長は私より少し低いくらい。黄色の蝶ネクタイをしていて、服は着ていない。リュックを背負っている。

 どんな依頼を受けるんだと興味津々で横目に見ていたら、別の冒険者に「行くぞ」と声を掛けられ、とてとて歩いて掲示板前を離れてしまった。


(モフモフが行ってしまう…)

 名残惜しくフカフカ縞々のしっぽを見送っていると、イーサンに「従魔が欲しくなったか?」と聞かれた。

 獣人じゃなかったか。



 ソフィーと店で合流して、ランチにラザニアを食べ石榴ざくろジュースを飲む。

「冒険者見習いの登録をヒコミテ支部でしたいな。採取か雑用なら私でもできるかも。ダンジョンにも行ってみたいし」

「掃除、天才だったな。登録とダンジョンは伯父上が許せばな。ばあ様は許すわけないけど」


 冒険者になるなら、いずれトリスタンが治めるテグペリ領を拠点にして、少しは領の役に立ちたい。


「そうだイーサン、お兄様の姿絵の新作でいいの出たら買っといて」

「はいはい」



 ◇◇◇


 今日は館を出ないからと、ソフィーに休みを出した。

 午前中乗馬練習をし、いつも乗っていた馬にお別れをする。昼食の後、使用人に昼寝をすると伝えて部屋に鍵をかけた。


(森に転移)

 一昨日魔ウサギが襲ってきた場所に転移する。せめて弱い魔獣には慣れておきたい。


 自分の周りに時空魔法で結界を張ってすぐ、ガサガサ音がして魔ウサギが襲ってきた。

(来た! 団子!)

 結界にはじかれた魔ウサギを土魔法の岩で包み固める。


 しばらく待って岩団子を消すと、魔ウサギは動かなくなっていた。手を合わせ、アイテムボックスに入れる。


 薬草を採取しながら同じようにもう一羽仕留め、その後、孤児院の物置小屋に転移した。

 人気ひとけがないのを確認して外に出て、孤児院の厨房に狩った魔ウサギを差し入れた。シチューにでもして子供達に食べさせてほしい。

 アイテムボックスに溜め込んでいたクッキーもおまけに付けた。

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