第15話 ヒコミテ

 ヒコミテダンジョンに初めて潜ったのは13歳の夏だ。


 ヒコミテダンジョンは未踏破で、現在は地下47階層まで確認されている。

 6階層に光魔石が採掘できる場所があり、Dランクでもそこで安定的に稼げる。


 イーサンは学院入学前にDランクになっていて、学院の夏季休暇の間、二人で1~6階層を往復した。


 イーサンが前衛、私が後衛で、イーサンは剣や土魔法の石槍で魔獣を攻撃し、私は防弾ガラスもどきの障壁を二人の周りに出しながら、イーサンが討ちもらした魔獣を岩団子で固める。

 やはり血が出る攻撃は苦手だ。魔獣にとっては岩団子で窒息する方が苦しいかもしれないが。


「この障壁、結構魔力使うだろ」

「土壁や石壁より使う。私は魔力量多いから平気」


 イーサンは防弾ガラス擬きを作れなかった。父は作れるが強度が劣る。ガラスは脆いものというイメージが邪魔するのかもしれない。

 私も前世テレビで見た記憶から無理やり魔素の練り上げをしている感覚がある。

 障壁を作るのも魔素に分解して消すのもかなり魔力を使うので、強度を調整し消費魔力を節約している。この階層なら(弱)で良さそうだが、念のため(中)を使う。


 1~6階層のダンジョンの中は草原や森といった地上と変わらない様相で、魔獣も狼等の獣系、蛇等の爬虫類系、蜂等の虫系と通常の生き物に近い。気候は地上と一致しているわけではなくバラバラだ。


 倒した魔獣から剥ぎ取った素材や魔石は、父からプレゼントされたアイテムボックス、ということにしている鞄の中に、時空魔法で収納している。

 アイテムボックス狙いで襲われるのを避けるため、ギルドの中など他人がいる場所では鞄の見た目以上の容量の出し入れをしないようにしている。

 剥ぎ取りはイーサンがしてくれる。ありがとう。



 冒険者ギルドヒコミテ支部での登録は『アディ 魔術師 Fランク』となっている。

 領主の娘ということは明かしていない。子爵家嫡男のイーサンと行動を共にして魔法が使えることから、子爵家の親類と思われている。

 ズボンを穿いてポンチョのフードを目深に被っているので、名前を知らなければ少年に見えるだろう。



 ◇◇◇


 13歳の夏以降、私は午後の自由時間をよくヒコミテで過ごした。


 ソロでダンジョン1~3階層に潜って採取、テグペリ領内のお届け物の配達、薬草の納品、清掃など、定期的に冒険者見習いとして依頼をこなした。


 調薬もぼちぼちやっていて、作った薬は領主代理経由で領内の孤児院等に配ってもらっている。


 父がヒコミテに用意してくれた家は大きくて庭が広い。

 高い壁の内側には土魔法で掘ったかなり深い堀があり、転移を使わない場合はその都度土魔法で橋をかけて出入りしている。


 一度その堀に盗み目的であろう侵入者が落ちていた事があった。衛兵に引き取ってもらったが、骨折や打撲で痛がっていた。これに懲りて二度と来るなよ。


 庭の手入れは定期的に地元の庭師に頼んでいる。庭には金柑や梅、桃なども植えられている。実がなるのが楽しみだ。


 ヒコミテの家では、使用人の目が無いので好きなだけ寛げる。

 日用品を自分で買い揃えたり、久しぶりに料理をして、木工職人に作ってもらったお箸で食べたり、日常のささやかなことが楽しかった。


 アイテムボックスの備蓄も順調に増やしている。

 攻略対象者の婚約者にならなくても、攻略対象者の妹として悪役になる未来がないとも限らない。

 実際、第二王子相手では想像できなかったが、トリスタンといちゃつくヒロインにイラっとする自分は想像できる。


 第二王子とトリスタンの卒業パーティまで、油断は禁物だ。



 ◇◇◇


 第二王子の婚約が決まってしばらくたった13歳のある秋の日、それはヒコミテの庭に現れた。

 

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