第22話 シフォンケーキ
伐採の前に昼食を取ることにした。
土魔法で壁の内側の湿地を固い地面に変え、テーブルを作る。
椅子は鞄経由でアイテムボックスから出した。背もたれと座面にクッションが張られた椅子だ。
ラフさんには私がアイテムボックスを使っていることを知られても問題ないだろう。
テーブルにクロスをかけ、おしぼりとカトラリーを出し、公爵邸の料理人が朝早くから作ってくれた温かいお弁当を広げる。
…ダンジョンでの昼食に、張り切り過ぎかもとは思うけど。
ちなみに、最近の私はアイテムボックス備蓄用におやつを多めに用意してもらい、太らない体質なのをいいことに食事をもりもり食べている。二人前のお弁当を頼んでも何とも思われない。
ラフさんがテーブルの上に光魔石ランプを置き、少し寒いので火魔石ストーブも点けてくれた。
「多めに持って来たので、良かったら召し上がってください」
「美味しそうだ、いただくよ。アディもこれ食べてみて」
そう言ってラフさんは包みを広げた。
「おにぎり…!」
「はは、食い付くと思った」
笑われた。
おにぎりの具はおかかと肉味噌だった。
ということは鰹節がある! 出汁が取れる! 味噌汁が作れる!
「お米と鰹節、味噌や海苔もお持ちなんですか⁉」
「ああ、後で分けてあげるよ」
「ありがとうございます!」
「米はこの大陸でも作ってる所があるから、大きな商会なら取り寄せてくれると思う」
和定食来たー!!
先日に引き続き今日もがっついてしまった。まあいい、今の私は公爵令嬢じゃなくて13歳の冒険者見習いだもの。
ラフさんが斧を振るうのを眺める。
幹に斧を入れる衝撃で葉から水滴が落ちるので、ラフさんの頭上にも障壁を作っている。
少し遠い雨の音と、規則的な斧の音、水滴が障壁に当たる音。
ラフさんは木が傾いたところでアイテムボックスに入れ、すぐに次の木に斧を入れている。
細マッチョだな。腕力と持久力が凄い。
(ラフさんが伐採に集中しているうちにトイレに行こう)
時空魔法で排出することも可能だが、長時間トイレに行かないのも不自然だし、行きもトイレ休憩を取った。
土壁に穴を開け壁の外側に土魔法で簡易トイレを作ろうとしたら、ちょうど魔蛙の寝床だったらしい。動かない魔蛙が6匹出てきた。メロンサイズのそれらをまとめて岩団子で包む。
和定食セットの代金は受け取ってくれそうにないから、この魔蛙を代わりに引き取ってもらおう。
休憩してお茶にする。
ラフさんがシフォンケーキを出してくれた。私はお気に入りのティーカップを取り出し紅茶を入れる。
「アディがくれた魔蜂の蜂蜜を使って、一昨日行った店に作ってもらった」
「ありがとうございます。いただきます」
蜂蜜の甘い香り。
「ふわふわでしっとり。美味しいです」
「本当だ。蜂蜜の甘さがいいね」
幸せな気分になる。
「魔沼杉で作った炭は、水の浄化に優れてるんだ。炭を作る時にできる木酢液も使える」
「衛生に良さそうですね」
薄暗い森の中、柔らかいランプの光に照らされながら、ふたりで美味しいケーキを食べる。紅茶のいい香り。ラフさんの心地いい声と穏やかな会話。
…落ち着く。この時間がとても好きだ。
湿地を元に戻し、帰りは10階層ボス部屋の奥にある転移陣でダンジョンの出口まで戻った。
ダンジョンの転移陣は該当のボスを倒した個人又はパーティの者でないと使えない。
冒険者ギルドに寄る時間はなさそうだ。
「ギルドに行くのは明日以降でもいいですか?」
「ああ。明日の11時にギルドでどうかな?」
「はい、明日11時で了解です」
「今日のお礼にランチをごちそうするよ。従魔同伴可の店があるんだ。明後日にはヒコミテを離れるから、サンドラとココもお別れだしね」
え………。
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