第21話 雨傘
「店長を魔獣から助けたことがあるんだ。彼は腕のいいパティシエだよ」
「確かにこのミルフィーユすごく美味しいです」
店長が嫁を回収してくれたのでちゃんと味わえる。
「ヒコミテダンジョン11階層に常にどしゃ降りのエリアがあって、そこで魔沼杉を伐採予定なんだけど、良かったら一緒に行ってくれないか? 最短距離を行けば朝潜って日没前に出られると思う」
行きたい!
「私で良ければ喜んで。障壁を出すくらいしかお役に立てませんが」
「障壁があれば大助かりだよ。前回は雨具を着て行ったけど大変だった」
ラフさんがミルフィーユを口に運ぶ。昨日も思ったけど、ラフさんは食事の所作が美しい。
「見習いが行く階層じゃないし、アディはずっと障壁の中にいてほしい。報酬は10階層のボスの素材と魔石でどうかな? 魔沼杉は切り株を残すから魔石は取れないんだ」
「えっ、障壁を出すだけですしココをいただいてますし、報酬なんて結構です」
魔岩魚釣りの時、障壁役に立ってないし。
「それとこれとは話が別だよ。冒険者なんだから対価はきちんと受け取らないと」
「もらいすぎな気がしますが…ではそれでお願いします」
家庭教師が来ないのは明後日と明明後日だ。
「明後日でもいいですか?」
「ああ。助かるよ、よろしく」
「よろしくお願いします」
ミルフィーユを奢ってくれたラフさんは「報酬の前払い」とお持ち帰りの焼き菓子まで買ってくれた。
嬉しい。美味しいお茶と一緒にいただこう。
◇◇◇
二人と二頭を障壁で覆い、魔獣を全て無視してダンジョンを進む。
草原や砂漠など障害物が少ない場所では、ラフさんが出した風魔石四輪バギーに乗った。隣国で開発された新しい乗り物らしい。
自動車並みにスピードが出てる気がする。ココが遅れず走れることに驚いた。
14歳の誕生日プレゼントに父にねだる物が決まった。燃費が非常に悪く改良の余地があるようだが、父が改造してくれるだろう。
バギーでは前に座るラフさんが近くて、トリスタンと馬に二人乗りした時より落ち着かない。
10階層のボス部屋までやって来た。私とココは障壁(強)の中に入っている。
ボスは象くらい大きい猪型の魔獣だった。
刀を抜いたラフさんに向かって突っ込んできたと思ったらすぐに一刀両断にされ、呆気なく倒れてしまった。
「解体はギルドに頼もう。肉も美味しいよ」
ラフさんはそう言いながらボスをアイテムボックスに入れ、11階層に降りる階段に進む。
さすがAランク、ボスが雑魚みたいだ。日本刀みたいな武器だったな。
11階層は森が広がっていた。火魔虎達は狩りのためここで別れる。
障壁を出し直ししばらく進むと、激しい雨が降るエリアが目の前に現れた。
こちらは晴天なのに、一歩先はゲリラ豪雨状態なのが不思議だ。
魔沼杉が生える湿地まで、土魔法で道を作りながら10分ほど歩く。厚い雲のせいで暗く、雨で周りが見えにくい。
湿地には魔
魔沼杉は神社に生えているような大木だった。大木が並び立つ光景は壮観だ。
「大きい…。
「20本くらい。魔沼杉はあまり硬くないから、楽に斧が入るんだ」
「ハゲ地にならないよう疎らに伐るんですか?」
「いや、切り株を残せばすぐ成長するから手前から順に伐っていく」
なら範囲はそう広くなくていいか。
「障壁の側面は土壁でもいいですか? 暗くなりますが」
「暗すぎるようだったら照明を出すから構わないよ」
20本+倒れた時の樹高分の範囲を囲むように、魔沼杉より高く壁を作る。
壁の下から1/4を土、壁の上3/4と天井を結界で作った。魔力が枯渇したことはないが、今回は面積が広いので魔力消費量が少ない結界を使う。結界までは距離があるし雨が当たればガラスの障壁に見えるだろう。
雨の音が少し遠くなる。魔沼杉を覆う傘ができたところで、私達を覆っていた障壁を消す。
「これでいいですか? 足場も固めましょうか」
「……」
「ラフさん?」
「凄い。魔力量は大丈夫なのか?」
「はい、私は魔力量が多い方なので」
やりすぎたか?
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